歩兵操典

第六篇 通信隊教練
第二章 通信
第一節 分隊
第一款 基本
有線
線路の構成及び撤収
  1. 第594
    線路の構成は通常敷設に依る。状況に依り埋設、架設、又は沈設に依ることあり
  2. 第595
    分隊長は、通常通信手4名及び乙馬を残置して基点と為し、自ら主力を指揮して一方向の線路を構成し、連絡に任ず。此の際、分隊長は通常先方班長を兼ぬ。時として、基点の人馬、器材を減少す
    分隊を以って区分構成(線路を区分して構成するを謂う)を行うか、又は複線或は往復線を構成する場合等に於いては、通常2有線班を設く。有線班の動作は分隊に準ず
  3. 第596
    線路構成の為出発を準備せしむるには、分隊長は器材を携帯せしめ、現地に就き状況、連絡すべき指揮官及び其の位置、基点、経路、要すれば構成の方法、駄馬の処置等を示し、左の号令を下す
    • 構成用意
    五番は基点班長となり、通常八、九、十番と共に基点に到り、電話機を設置す。一乃至四番、及び六、七番は進路上基点より適宜離れたる位置に到り、一番は地線を接地し、四番は一番の電話機を三番の延線器に接続し、八番は先端を取り之を基点の電話機に接続し、余長を取りて留線す
    分隊長は導通点検と号令し、一、四、五番は協同して信号点検を為し、異状なければ一、五番は準備終リと唱え、通話の点検を為す。次いで一、三番は接続を解く。此の間、二、六、七番は出発を準備す
    基点の通信手は線を整理し、且つ、分隊長の指示に従い爾後の行動を準備す
  4. 第597
    線路構成の為出発せしむるには、分隊長は前ヘ(駈歩前ヘ、早駈前ヘ、匍匐前ヘ)の号令を下す
    一番は延線の指導及び導通点検に、三番は延線に、二番は三番に続行して補修に、四番は適時線の補充、要すれば延線に、六番は警戒、連絡すべき指揮官との連絡及び線の補充の補助に、七番は二番の補修の補助、要すれば線の補充に任ず。甲馬馭兵は馬を導き、通常先頭に近く続行す
  5. 第598
    線路の構成中、継換(つぎかえ)を為せば、一番は基点に対し導通点検を為す。此の際第何巻終リと唱え、為し得れば地点を附加す
    連絡すべき指揮官に近づけば、分隊長は通常六番を伴いて先行し、該指揮官に連絡して通信所の位置を定む。次いで一番到着せば通信所を開設し導通点検を行わしむ。此の際、一番は目的地ニ到着と唱う
  6. 第599
    先方通信所を開設せしむるには、分隊長は電話機の位置、線の整理、警戒法等を示し、左の号令を下す
    • 開設
    一番は電話機を設置し、六番は警戒に任じ、他の者は通信所内を整理す。爾後、分隊長は通信の間隙を利用し、小隊長に残線、人馬、器材の状態等を報告す
    基点及び交換所の開設は前諸項に準ず
  7. 第600
    通信系の変更又は撤収に在りては、分隊長は分隊の任務、通信系変更の要領、線路の撤収方法、対所(対向して通信する通信所を謂う)の行動等を示し、且つ重要の方面に在りて指揮す
  8. 第601
    通信所を移動せしむるには、分隊長は前進用意 前ヘ(駈歩前ヘ、早駈前ヘ、匍匐前ヘ)の号令を下す
    前進用意の号令にて通信手は協同して出発を準備し、前ヘ(駈歩前ヘ、早駈前ヘ、匍匐前ヘ)の号令にて前進す。分隊長は要すれば前進の区分を示す
  9. 第602
    通信所を撤収せしむるには、分隊長は左の号令を下す
    • 撤収用意
    • 前ヘ(駈歩前ヘ)
    撤収用意の号令にて通信手は協同して通信所を撤収し、線路の撤収を準備す。前ヘ(駈歩前)の号令にて通信手は巻線の動作を基準とし協同して速やかに線路を撤収す。此の際、爾後直ちに使用し得る如く巻線に注意す
    線路の撤収を終れば、分隊長は人馬及び器材を点検し、小隊長に報告し、爾後時間の余裕を得るに従い器材を整備す

通信所の動作
  1. 第603
    通信所の位置は連絡すべき指揮官に近く、通信実施に適し、且つ勉めて掩蔽すると共に、指揮官の位置を暴露せざる如く選定す。此の際、多数の通信所あるときは、之が整理に任ずる者の指示を受く
    通信所の設備に方りては、一般人馬の行動を妨害せず、且つ此等人馬に依り通信実施に支障を生ぜしめざると共に、勉めて偽装、工事、標識等を行う
  2. 第604
    分隊長は如何なる場合に於いても其の構成せる線路の確保に任じ、且つ、連絡すべき指揮官、小隊長、及び附近に在る所要の通信所との連絡を密にし、常に部下を掌握し、警戒を厳にし、通信所内を整理し、爾後の行動を準備す
  3. 第605
    先方に在りては一番は通話に任じ、他の者は連絡すべき指揮官との連絡、警戒、保線、一番の補助及び交代、器材の整備等に任ず
    基点に於ける通信手の動作は前項に準ず
  4. 第606
    通信所、交換機に加入を命ぜられたるときは、通信手は交換手と協同し通信の間隙を利用して、確実迅速に接続す
  5. 第607
    通信不能のときは直ちに障碍の原因を探求して排除に勉め、要すれば副通信に依り連絡に任ず。此の際、分隊長は若し短時間に排除し難きを認むるときは、特に障碍の状況、復旧の見込等を報告、通報し、爾後の連絡に関し指示を受く。自己通信所以外の故障と判断したるときは、分隊長は所要の保線兵に保線上の憑拠を与えて派遣し、速やかに故障を排除せしむ。此の際、故障の程度に応じ、要すれば一部の架換を行う

無線
  1. 第608
    分隊長以下の動作は有線に準ずるの外、以下示す所に依る
  2. 第609
    通信所を開設せしむるには、分隊長は連絡すべき指揮官、通信系、通信諸元、通信機の位置、空中線の方向、要すれば其の高さ、型式、対所の状態等を示し開設の号令を下す
    一番は正通信手となり、通信機を設置し各部を接続し、且つ調整を準備す。二番は受信機を一番に渡し、地線及び第一電柱を設置し、副通信手となる。三番は発電手となり、発電機の準備及び通信所内の整理を為す。四番は空中線及び第二電柱を設置したる後、指揮官との連絡に、五番は警戒に任ず
    準備終れば、分隊長は調整の号令を下す。一番は二、三番と協同して調整す
    通信所に於ける分隊長以下の関係位置、概ね第十九図の如し
    第十九図
  3. 第610
    通信所を撤収せしむるには、分隊長は撤収の号令を下す。通信手は概ね開設と反対の順序に動作し、撤収終れば異状の有無を報告す
    通信所の移動に方りては前進用意の号令にて通信所を撤収す
  4. 第611
    通信所を開設せば、通常通信系構成の為連絡(無線、視号の通信系を構成する為行う呼出、応答等を謂う)を行う。之が為、分隊長は要すれば其の方法、対所等を示し連絡と号令す
    電報(電話)の送受は、通常同一通信系内の連絡を完了したる後行う。状況に依り、之を完了せる交信系毎に逐次送受を開始し、或は連絡を省略することあり
  5. 第612
    通信手は為し得る限り同一通信系内に於ける他の通信所の通信を傍受し、分隊長は之を連絡すべき指揮官、若しくは小隊長に報告す
    同一通信系以外の傍受に関しては小隊長の命令に依る
  6. 第613
    分隊長は電報の取扱を迅速確実にし、且つ状況に適合せしむ。特に重要なる電報の送信を命ぜられたるときは、其の送信実施に関し、速やかに之を連絡すべき指揮官、若しくは小隊長に報告す。移動若しくは故障に方り未送信電報あるときは、連絡すべき指揮官、若しくは小隊長の指示を受く

視号
  1. 第614
    視号班(通常長以下4名の通信手及び所要の器材を以って編成す)は、交信系の構成に方り之を基点及び先方に区分し、視号班長は通常基点に位置す
  2. 第615
    交信系を構成するには、視号班長は現地に就き、状況、連絡すべき指揮官及び其の位置、呼出符号、要すれば通信開始時期、通信所の位置及び標示法、使用器材等を示す
    先方の長は到着すべき地点を確認し、且つ基点附近に目標を選びて出発す
    通信所を移動するに方りては、成るべく予め対所に次の予定通信所の位置、予定通信開始の時期等を通報す