歩兵操典

第五篇 大隊教練
第二章 戦闘
第二節 防御
  1. 第519
    大隊は独立して抵抗地帯の防禦を担任す
    大隊は各種火器、就中機関銃の特性を遺憾なく発揮し得る如く、第一線中隊、重火器等を統轄して陣地前方に対する火力配置を完成し、敵の攻撃を我が陣地前に破摧す。縦い隣接部隊の防禦不利なる場合等に於いても、尚能く独立して戦闘を遂行し得る如く、側面、要すれば背面に対し所要の火力を発揚し得ると共に、陣地の一部に破綻を生ずるも直ちに侵入せる敵を撃滅し得る如く、陣地内部に対し所要の火力を準備す
  2. 第520
    大隊長は状況の許す限り綿密に地形を偵察して抵抗地帯の前縁及び火力配置を定め、第一線中隊、其の射撃区域及び占領区域、重火器等の任務及び陣地、火力急襲に関する計画、各部隊相互の連繋、隣接部隊との間隙に対する処置、予備隊の配置、戦況の推移に応じて取るべき処置、捜索、警戒、対空、対戦車、及び対瓦斯の処置、工事、連絡等所要の事項を定む。此の際、連隊砲及び砲兵の火力との関係を考慮す
  3. 第521
    抵抗地帯の前縁を定むるには地形を利用し、勉めて火力の発揚に容易にして、且つ対戦車防禦に便なる如く考慮す。此の際、過早に敵砲火に暴露せざるの着意亦必要なり
    陣地前方に対する火力配置を定むるには、抵抗地帯の前方に各種火器を以って火網を構成し、敵の攻撃の重点を予想する部分に於いて之を濃密ならしめ、且つ火網内、要すれば火網外の要点に対し適時火力急襲を為し得る如く、兵力配置、特に重火器の用法を適切ならしむ
    火網の縦深は通常近距離と為す。状況に依り至近距離に短縮することあり
  4. 第522
    第一線中隊の射撃区域及び占領区域を定むるには、大隊の火力配置に基き、良く地形に適応し、且つ独立して中隊の陣地を保持し得しむる如く考慮す。陣地の重要部に在る中隊、又は射界短小なるか若しくは突出部等、陣地の薄弱部に在る中隊には其の正面を狭小ならしめ、或は隣接部隊よりする射撃を以って其の火力を増加し、又中隊前地の死角を隣接部隊より側防せしむる等、各々当面の防禦に遺憾なからしむ
    中隊の射撃区域を示すに方りては、隣接部隊との境界を明かならしめ、又隣接部隊の前地に指向すべき射撃に関しては其の火力、射撃区域、要すれば射撃時機等を示し、相互の協調を確実ならしむ
  5. 第523
    大隊長は機関銃中隊の外、通常中隊機関銃を直轄使用す
    機関銃は斜射、側射を以って大隊火網の重要部を射撃せしむると共に、陣地直前の側防、火力急襲等に使用し、所要に応じ必要の火力を以って火網外の重要なる目標を射撃せしむ。之が為、戦闘の初期、一部を抵抗地帯の前方に配置することあり
    陣地直前の側防に任ずる機関銃は、通常敵兵至近距離に近接したる後、不意に射撃を開始し、最も有効に側射し突撃を挫折せしむ。之が為、通常陣地前縁付近に組織的に之を配置し、時として一部を陣地前の掩護確実なる要点に配置す
  6. 第524
    大隊砲は主として其の有効射界、特に近距離に現出する敵重火器の射撃及び火力急襲に使用す
    大隊砲の陣地は、勉めて同一陣地より其の担任する全地域に対し射撃を為し得る如く選定す
    連隊砲を配属せられたるときの用法は大隊砲に準ず。所要に応じ対戦車射撃、時として陣地前の側防に任ぜしむ
  7. 第525
    速射砲は敵戦車の撲滅に使用す。状況に依り、近距離に現出する敵重火器の射撃及び火力急襲に使用することあり
    大隊砲の陣地は、勉めて最前線に近く良く秘匿せる位置に選ぶ。此の際、戦車を支援する敵の砲兵等に対し掩護の処置を講ず
  8. 第526
    予備隊は主として逆襲に用い、所要に応じ前線の補填、側背の掩護等に用う。之が為、地形を利用し用途に適する如く配置し、且つ所要の施設を為さしむ
    予備隊の長は、逆襲の為所要の部隊と協定し十分なる準備を整う
  9. 第527
    兵力に比し著しく広き正面の防禦に於いて拠点の防禦に任ずる大隊の占領区域及び兵力部署は、一般の場合に準ずるの外、四周に対し防禦し得る如く部隊の配置を適切にし、防禦の施設を為し得る限り堅固ならしむる等、陣地の独立性を大ならしむ
  10. 第528
    防禦に在りては速やかに敵情を偵知し、且つ警戒を周密ならしむること緊要なり。之が為、大隊長は警戒部隊と連絡し、斥候を派遣して、絶えず敵情を知得するに勉め、第一線中隊より出す監視部隊概略の線其の他所要事項を示して監視部隊相互の連繋を密ならしめ、又指揮機関及び各中隊の監視に関し全般を統一し、不断に敵情を監視せしむる等の処置を講ず
  11. 第529
    防禦に於ける陣地の秘匿は特に緊要なり。故に大隊長は全般の関係を考慮し陣地秘匿の処置を講じ、厳に其の実施を監督す
    偽工事を設くるに方りては、成るべく大隊長統一して実施すると共に、敵の利用を妨ぐるの着意必要なり
  12. 第530
    防禦に於ける連絡は戦闘激烈なる時機に於いても大隊長の指揮に支障なからしむること緊要なり。之が為、各種の手段を併用し、時間の余裕を得るに従い堅固に施設す。重火器との連絡に於いて特に然り
  13. 第531
    大隊長は現地に就き中隊長等に所要の命令を与え、各部隊をして配備に就かしむ
    時間の余裕なきときは、先ず抵抗地帯の前縁及び火力配置の概要を定めて速やかに配備に就かしめ、爾後逐次之を補足す
  14. 第532
    敵兵我が火網に近接するや、大隊長は連隊砲及び砲兵の射撃と相俟ち有利なる目標に対し重火器等をして射撃せしめ、次いで敵兵火網内に侵入するや、各種火器の特性を発揮せしめ之を圧倒し、敵兵漸次近接するに従い火力を最高度に発揚せしめ、我が陣地前に破摧すべし。此の間、大隊長は良く全般の状況を観察し、敵の重要部に対し火力急襲を行い、又、要すれば所要の部隊に新たなる任務を与え、若しくは機を失せず一部の配備を変更する等、絶えず主導的に戦闘を指導す
    状況に依り、敵兵近接するも射撃を控制して極力陣地を秘匿し、敵を近く陣地前に誘致したる後、不意に熾烈なる射撃を開始し敵を撃滅するを利とすることあり。此の際に於ける射撃開始は大隊長之を命ず
  15. 第533
    陣地前至近距離において敵兵萎(び)混乱せる場合に於いては、大隊長は全般の状況に鑑み、逆襲を敢行し之を撃滅すべし。此の際、重火器等を以って我が逆襲を妨害すべき敵を制圧し、要すれば煙を使用し出撃部隊の行動を容易ならしむ
  16. 第534
    敵兵大隊陣地に侵入せば、大隊長は直ちに火力を集中せしめ、機を失せず予備隊を以って猛烈果敢に逆襲し敵を撃滅すべし
    敵兵隣接部隊との間隙、若しくは大隊陣地の側背に侵入せば、為し得る限りの火力を集中し、状況之を許せば予備隊を以って逆襲を敢行し敵を撃滅すべし