歩兵操典

第二篇 中隊教練
第一章 密集
第二節 密集の動作
  1. 第93
    四列縦隊に在る小隊左向を為せば、第一、第三列に在る兵は、第二、第四列に在る兵の前に出で二列となり、各自右方に整頓す
    横隊に在る小隊右向きを為せば、前項と概ね反対の方法に依り四列となり、各自旧正面の方向に整頓す
    小隊長及び分隊長は駈歩にて所定の位置に就く
  2. 第94
    併立縦隊を整頓せしむるには通常目標を示し予め嚮導(指揮班の曹長及び一般小隊の第一分隊長)を整頓線に就かしめ、左の号令を下す
    • 右(左)へ 準エ (みぎ(ひだり)へ ならえ)
    • 直レ (なおれ)
    「準エ」の動令にて、中隊は銃を担うことなく行進し、最後の1歩を縮めて止り、頭を右(第一列に在る者は其の侭、其の右側に在る者は左)に廻し、左手を腰に当て、小歩にて静かに整頓し銃を下ろす。此の際、小隊の第一列に在る兵及び後尾の分隊長は、先頭分隊長に重なり距離を取り、他の者は前に重なり、且つ第一列の方に整頓す
    小隊長は要すれば後尾分隊長を整頓線に入れ、後尾分隊長は整頓翼の小隊より正しく間隔を取り、第一列の整頓を補助す
    右(左)翼小隊の後方に在る先頭分隊長は、正しく距離を取り、前方小隊の第一列に重なり、他の先頭分隊長は之を基準とし、正しく距離を取り整頓す。其の他後方小隊及び指揮班の動作は一般小隊に同じ
    発進に方り、準備の為、著しく姿勢を変化し敵の注意を喚起せざるを要す
    「直レ」の号令にて頭を正面に復し左手を下ろす
    其の位置に於いて整頓せしむる場合に於いては前諸項に準ず
  3. 第95
    併立縦隊の直行進は通常右翼小隊を基準とす
    中隊長は号令を下すに方り、通常基準小隊の行進目標を示す
    基準小隊の嚮導は、正規の歩長と歩度とを保ちて目標に向い、又は真直に行進し、他の嚮導は要すれば頭を右、左に廻し、関係位置を保ちて行進す
    各小隊及び指揮班の第一列に在る者は嚮導の進みたる線を踏み、他の者は前に重なり、第一列の方に準いて行進す
  4. 第96
    行進間、兵は歩長及び速度を斉一にし、前の兵及び整頓すべき方の隣兵に注意し、距離間隔を正しく保ち、歩の違いたるときは踏替を為す
    踏替を為すには、後ろの足を前に引着け前の足より行進す。駈歩に在りては片足にて2歩行進す
  5. 第97
    中(小)隊を停止せしむるには中(小)隊 止レの号令を下す。中(小)隊は停止し整頓す
  6. 第98
    中隊を折敷(伏臥)せしむるには折敷(おりしけ)(臥セ(ふせ))の号令を下す
    膝射(伏射)に準じ、弾薬盒を左右に開くことなく姿勢を取り、折敷に在りては銃は右膝の前に立て、擲弾筒は右股に托し、伏臥に在りては小銃(擲弾筒)は左前臂に乗せ槓桿を上(転輪を右)にし、軽機関銃は脚桿の基部を左手に托し槓桿を左にす。ただし、行進しあるとき折敷に在りては臀を地に着けたる後銃を下ろし、伏臥に在りては伏臥しつつ之を下ろす
    折敷、伏臥より起つには起テの号令にて不動の姿勢を取る
    折敷、伏臥より行進するには、予令にて起ちて担銃を為し、動令にて発進す
    折敷及び伏臥は、単に敏速に行い得るを以って度とす
  7. 第99
    方向を換うるには、停止間に在りては銃を担うことなく行い、駈歩を以って行うを要するときは、予令の次に駈歩を加え、行進間に在りては軸翼に在る指揮班(小隊)、又は分隊長の外、駈歩を用う
    隊形を換うるには通常中隊長の命に依り、小隊長の号令にて行う
  8. 第100
    縦隊の方向を換えしむるには、左の号令を下す
    • 伍々右(左)へ 進メ(くみぐみみぎ(ひだり)へ すすめ)
    先頭伍は小なる円形を描く如く、内側の者は最初の数歩を縮め、外側の者は正規の歩長にて行進し、常に旋回軸の方向に整頓しつつ右(左)に方向を換え、停止間に在りては行進を起こすと同時に以上の動作を為し、続いて行進す。各伍は前の伍と同所に至り、同法にて方向を換う
  9. 第101
    併立縦隊の方向を換えしむるには、左の号令を下す
    • 右(左)ニ方向ヲ換エ 進メ(みぎ(ひだり)にむきをかえ すすめ)
    停止間に在りては、軸翼に在る指揮班(小隊)は右(左)に方向を換え、中隊の深さだけ新方向に進みて停止し、他の小隊(指揮班)は逐次斉頭面に到りて停止し、後方小隊は前方小隊又は指揮班に倣う
    行進間に在りては前項と同要領にて方向を換え、続いて行進す
  10. 第102
    中隊縦隊の整頓は併立縦隊に準じ、整頓翼分隊長の方に整頓す
    後方小隊整頓翼の分隊長は、正しく距離を取り、前方の分隊長に重なる
    整頓翼の分隊長は、速やかに整頓の基礎を定むる為、反対翼の分隊長を目標とし、先ず己に近き2、3兵の位置を正し、要すれば逐次整頓を正す
    反対翼の分隊長は、要すれば己に近き2、3兵の位置を正し、整頓を補助す
  11. 第103
    中隊縦隊の直行進は通常右方に嚮導を取り、其の行進目標を示す
    嚮導を正規の歩長と速度とを保ち、目標に向かい又は真直に行進し、中隊は之に準いて行進す
  12. 第104
    中隊縦隊の方向を換えしむるには、右(左)ニ方向ヲ換エ 進メの号令を下す
    停止間に在りては、先頭小隊の軸翼に在る分隊長は右(左)向を為し、続いて行進し、他の者は捷路を経、駈歩にて逐次新線に就き、中隊の深さだけ新方向に行進し、小隊長の指示にて停止し、後方小隊、指揮班は先頭小隊と同所に到り、先頭小隊と同法にて方向を換え、新位置に就き、各々整頓す
    行進間に在りては前項と同要領にて方向を換え、続いて行進す
    重火器及び弾薬小隊の行動は併立縦隊のときに準ず
  13. 第105
    叉銃せしむるには指揮班及び一般小隊を横隊と為し、左の号令を下す
    • 叉メ銃(くめつつ)
    奇数伍の前列兵(第四列の兵)は、左手にて上帯の下を握り、銃身を前にし、床尾踵を右足尖より床尾板の約2倍前に出し、銃を左に傾く
    偶数伍の前列兵(第三列の兵)は、左手にて上帯の下を握り、床尾踵を右足尖より床尾板の約2倍前に出し、銃身を後ろにし、右隣兵とサク(木偏に朔)杖を組合わす
    奇数伍の後列兵(第二列の兵)は、左手にて右手の下を握り、右足を踏出し、組みたる前列兵のサク杖に組合わせ、床尾踵を左隣兵との中央前に置く
    偶数伍の後列兵(第一列の兵)は、左手にて上帯の下を握り、左足を踏出し、照星の下の所を組みたるサク杖に寄掛け、銃は奇数伍の後列兵の銃に平行にす。奇数伍の後列兵銃を持たざるときは、偶数伍の後列兵其の銃を組む
    前列兵中銃を持たざる者は、適宜の兵より銃を受け取り叉銃す
    左翼伍奇数なるときは適宜叉銃す。又、翼分隊長、及び押伍列に在る者は、列兵の叉銃を終りたる後、適宜銃を之に寄掛く。但し、一叉銃は5挺を超ゆべからず
    着剣しあるとき叉銃するには前諸項に準じ、鍔を組合わす
    軽機関銃を携行する兵は、脚桿を開き、概ね叉銃の線に準いて銃を地に置く
    擲弾筒を手にしある兵は、之を叉銃の内側に置く
  14. 第106
    叉銃を解くには解ケ銃(とけつつ)の号令にて、叉銃と概ね反対の順序に動作す
  15. 第107
    中隊を解散せしむるには解レ(わかれ)の号令を下す
  16. 第108
    中隊を集合せしむるには集レ(あつまれ)の号令を下す
    基準小隊の先頭分隊長は、速やかに中隊長の前に来り、示されたる所に位置し、他の者は併立縦隊の定位置に就き整頓す。叉銃して解散しあるときは、直ちに叉銃の所に集まり、小隊長の号令にて叉銃を解き、定位に就く
    併立縦隊以外の隊形の集合には「集レ」の号令の前に隊形を示す