歩兵操典

附録
其の六 平射歩兵砲教練
  1. 第1
    平射歩兵砲教練は第四篇に準ずるの外、以下示す所に拠る
  2. 第2
    平射歩兵砲の主要なる任務は、敵の重火器を撲滅若しくは制圧し、第一線歩兵の近距離に於ける戦闘に協同するに在り。状況に依り対戦車射撃に任ずることあり

隊形、駄載、卸下、行進
  1. 第3
    分隊の隊形、及び分隊長以下の定位、第二、第三図の如し
    第二図
    第一属品箱は砲馬の左側に、第2属品箱及び提棍甲は砲馬の右側に、提棍乙は架馬の右側に駄載す
    第三図
    砲は低姿勢とし、提棍甲(乙)を右(左)に装し、砲身を概ね水平にして緊定螺を緊め、且つ其の方向を正し、安全装置にし、洗桿を砲腔に挿し、拉縄を撃鉄に掛け、砲口被、砲尾被、及び表尺被を装す。携帯箱は蓋止を、弾薬箱は托環を前にす
  2. 第4
    卸下せる分隊駄載するには載セの号令にて左の如く動作す
    架馬馭兵は馬を三脚架の後方約8歩に導き、砲馬馭兵は馬を導きて架馬馭兵の後方約5歩に到り、共に馬の正面に立ち、之を保つ
    六(七)番は弾薬箱を架馬の左(右)に運びて置き、縛革を解き、弾薬箱の托環を外に向け左右同時に載せ、五番は携帯箱を砲馬の左に運び、第一属品箱に納め、縛革を托環に通して縛る。八番は砲馬の右に到り縛革を解く。七(八)番は三脚架(砲身)を駄載したる後、提棍乙(甲)を弾薬箱(属品箱)と共に縛る。属品箱を卸下しあるときは、五(八)番は第一(第二)属品箱を砲馬の左(右)に運びて載す
    一番は提棍甲を脱し、砲尾を約10糎高くし、緊定螺を緊む。三番は後脚の中間に入り、砲尾被を脱して二番に渡し、砲耳蓋板を開く。二番は提棍乙を脱し砲身の左に置き、砲尾被を受取り、砲腔前より左(右)手にて洗桿(揺架の下面)を支え、三番と協同して砲身(揺架共)を脱す。四番は撃鉄を上げ、一番は提棍甲を砲尾に装し、四番と共に両端を持つ。次いで三番は姿勢を低くし、一、二、四番は砲身(揺架共)を駄馬の左より砲馬の後ろに運び、左に旋回し、二番の宜シの合図にて載せ、二番は砲馬の右に移り、五番と協同して縛り、砲尾被を装す。四番は提棍甲を八番に渡し、一(四)番は三脚架の左(右)に至る
    三番は砲耳蓋板を閉じ、脚頭の後方を持ち前脚を上げ、分隊長は前脚を駄載位置に畳みて提棍乙を前脚に装し、一、四番は両端を持つ。次いで三番は提把を持ち、四番駐軸栓把を引けば後脚を閉ず。一、三、四番は三脚架を其の位置に於いて左に廻わし、架馬の左より後ろに運び、三番の宜シの合図にて載せ、三番は架馬の右に移り、一、四、六番と協同して縛る。四番は提棍乙を7番に渡す
    動作終われば、分隊長以下定位に就く
  3. 第5
    駄載せる分隊卸下するには卸セの号令にて、駄載と概ね反対の順序に動作す。但し、砲は通常低姿勢に組む。卸下後、通常分隊長以下の背嚢を駄載す
  4. 第6
    卸下の行進に在りては、予令にて一乃至四番は内側に向い外(内)側の手にて、上(下)より、一、二番は提棍の前端を、三、四番は架匡托坐の前後を持ち、四番の宜シの合図にて砲を担い、六、七番は弾薬箱を担う。五番は右手に携帯箱を提ぐ。属品箱を卸下しあるときは五、八番之を担う
  5. 第7
    第四図 分解搬送にて縦に散開せしむるには、左の号令を下す
    • 分解搬送 縦ニ散レ(ぶんかいはんそう たてにちれ)
    砲手は左の如く動作し、第四図の如く散開しつつ前進す
    • 一番は後坐測尺の遊標を脱し、接続螺軸を抽出し、二番は砲口前より左(右)手にて砲口部(砲身)を上より持ち、三番は後脚の中間に入り砲尾被を脱して六番に渡し、両手にて砲尾下面を支え、二番と協同して砲身を僅かに後退し、一番接続螺軸を砲尾下面の突耳に装せば、之を揺架より脱し、四番に担わしむ。四番は砲の左にて前方に向き折敷を為し右(左)と唱え、砲身を右(左)肩に担い、左に移る。六番は砲尾被を装す。一番は後坐測尺の遊標を装し、揺架後端を約10糎高くし緊定螺を緊め、砲の右にて前方に向き折敷す
    • 三番は砲尾蓋板を開き、二番と共に揺架の下面を支えて之を脱し、一番に担わしむ。一番は四番と同要領に依り之を担い、右に移る。三番は砲尾蓋板を閉じ提把を持ち、二番駐軸栓把を引けば後脚を閉ず。二番は提棍の前端、三番は提把を持ちて砲を、五番は携帯箱を提げ、六、七番は弾薬箱を担う
    • 時として砲身のみを分解し、或は砲身を揺架より脱すことなく分解し、或は三脚架を1砲手に担わしむ

陣地進入、陣地変換
  1. 第8
    陣地進入に先だち、分隊長は通常一、四番を伴い、先行して示されたる方向(目標)に対し、砲の位置を選び、所要の準備を行う
    砲の位置は三脚、特に後脚の位置水平にして、固定良好、且つ照準操作容易なるを要す
  2. 第9
    分隊を陣地に進入せしむるには、方向(目標)、要すれば進入要領を示し、左の号令を下す
    • 砲ヲ据エ
    二、三番は協同して砲を据う。4人にて砲を据えしむるときは分隊長之を指示す
    分隊長は直ちに砲の後方に移り、要すれば自ら提把を持ちて砲の方向を修正す。三(四)番は右(左)の提把を持ち、四番の合図にて協同して駐鋤を固定す。固定終れば四番は左後脚の外側に接して伏臥し、緊定螺を緩め右手を高低転輪に、左手を方向転輪に致す。三番は右後脚の外側に接して伏臥し、左手にて発火装置にす。提棍を脱するときは分隊長の指示にて二番之を脱し、其の位置に置く
    六番は砲を据え終らんとするに先だち、弾薬箱を三番の身辺に搬送す。一番は通常小隊長との連絡に任ず。二、五、六番は動作終れば概ね第五図の位置に伏臥し、七、八番は弾薬箱を六番の位置に置き、弾薬逓送の配置に就く
    高姿勢に在りては、通常分隊長、三、四番は折敷す
    低(高)姿勢より高(低)姿勢に移るには、二番は砲口前に到り提棍を持ちて砲を上げ、三番は前脚を起こし(伏せ)前脚止栓を挿す
    第五図

射撃
  1. 第10
    射撃姿勢より前進するには、左の方法に依る
    • 前進用意の号令にて、三、四番は撃方止メに準じて操作し、四番は通常表尺(眼鏡共)を脱して五番に渡す。五番は之を携帯箱に納む。前へ(駈歩前へ)(早駈前へ)の号令にて、二(三)番は両提棍(両後脚)を持ち、一、四、五番は適宜散開し前進す。六番以下は充実せる弾薬箱を携行す。砲は要すれば三、四番をして搬送せしむ
    他の方法にて前進せしむるには前進用意の次に隊形及び前進法を示し、又、表尺被、砲口被、砲尾被、眼鏡被を装し、又、表尺(眼鏡共)を脱すことなく前進せしむるには予め之を示す
    射撃姿勢より砲を後方に撤去して砲の位置を移動し、或は陣地を変換するには変換用意の号令にて、遮蔽して砲を後方に移し前進用意に準じ操作し、爾後の行動を準備す
  2. 第11
    射撃は通常小隊長の命令に基き、分隊長之を号令す。射撃号令は第四篇速射砲に準ず
  3. 第12
    射撃用意を為すには射撃用意の号令にて、四番は砲尾被及び表尺被を脱して二番に渡す。三番は発火装置にし、閉鎖機を開き、一番の補助に依り洗桿を抽出し、砲口被と共に五番に渡し、砲腔及び砲尾機関を点検し、安全装置にす。二番は砲尾被及び表尺被を帯革に縛着す。一番は砲腔被を脱して三番に渡し、砲口を点検す。五番は表尺、次いで眼鏡を六番に渡し、眼鏡箱を携帯箱に納む。六番は眼鏡を表尺に装して四番に渡す。四番は照準機及び表尺托架を点検し、表尺を表尺托架に装し、照準具の機能を点検し、表尺の指針を分画環の赤線に、横尺を0に装す
    • 眼鏡を装するには折敷を為し、左手に表尺を持ちて左膝に托し、右手に眼鏡を持ち、左手の食指にて眼鏡室バネを圧し、眼鏡を眼鏡室に装す
    • 表尺を装するには、左手にて横尺室を握り表尺托架の溝に装し、右手にて圧螺を緊む
    射撃用意を解くには射撃用意と概ね反対の順序に動作す
  4. 第13
    砲を据うるや、三番は左手にて、薬莢の起縁部鎖栓上面に至る迄静かに弾薬を挿入し、次いで一挙に押込み、左手に拉縄を取り、四番に注意す
    表尺を号令せらるるや、四番は左手にて表尺転輪を操作して距離分画を装し、次いで右手にて横尺転輪を操作し、射距離に応ずる偏流及び所命の横尺分画を装し、共に之を報告す。次いで右(左)手を高低転輪(方向転輪)に致し、眼鏡にて照準す。照準終れば頭を眼鏡の外に離すと同時に宜シと唱う。分隊長は撃テの号令を下す。三番は拉縄を引き、発射せば装填し、四番は照準す
    照準の為眼鏡を高むるを要するときは表尺補助桿を用う
    補助照準点に依り射撃するに方りては、分隊長は補助照準点と目標との高低偏差量を表尺距離に修正す
  5. 第14
    不発のときは、四番は照準を点検す。分隊長は四番の宜シの合図にて、数回撃テと号令す。尚発火せざるときは、分隊長は弾薬を抽出せしむ
  6. 第15
    射向を修正するには、例えば2ツ右への号令にて、四番は横尺に之を修正し、其の結果を報告す。此の際、脚の移動を要するときは四番は脚移動と唱え、小架を概ね中央に復し、三番は安全装置にし、各々駐鋤の位置に至る。分隊長は自ら後脚を左右して砲を概ね新目標に向かしめ、三、四番は脚を固定したる後旧に復し、三番は発火装置にし、四番は照準す
  7. 第16
    射撃を止むるには撃方止メの号令にて、三番は徐ろに閉鎖機を開き、左手を砲尾部に当て、弾薬を抽出して弾薬箱に納め、閉鎖機を閉じ、安全装置にし、後坐測尺の遊標を旧に復す。四番は横尺の矢標を0に、表尺の指針を分画環の赤線に合わせ、小架を概ね中央にし、砲身を概ね水平にし、緊定螺を緊む