砲兵射撃教範


  1. 第三篇 要塞重砲兵射撃

    通則

    第二百四十九
    海上の目標に対する射撃は 常に目標の移動を顧慮して所要の修正を行い 絶えず目標を効力界内に捕捉し 以って速やかに効果を収むるを要す 特に海上の目標の行動は不規なること多きを以って 観測法と相俟ち適切に射撃を施行すること緊要なり
  2. 第二百五十
    遠隔せる観測所より射撃を行う場合に於ては 海岸偏差交会法線図(付図第五)を用いて射弾の偏差を測定し 又は方位交会法を利用し 或は級梯の射距離を以って射撃を行い方向を判定する等 各種の手段を講じ 以って射撃を容易ならしむること必要なり
  3. 第二百五十一
    海上の目標に対する射撃は本編に拠るの外 主として第二篇通則同第一章中射弾観測に関する事項同第二章第一節並びに同第三章を準用するものとす
  4. 第一章 射撃開始諸元の決定

    第二百五十二
    射撃開始諸元は通常機測に依り目標の先頭吃水線に対する諸元に 弾道に及ぼす各種偏差 其他所要の修正を施し 射弾を通常目標の中央に導く如く決定するものとす 時として目測に依り射撃開始諸元を決定することあり
  5. 第二章 射弾観測

    第二百五十三
    目標の航跡又は弾着点の痕跡明瞭なる場合に於て目標横行するとき 弾着の水煙 目標の航跡より近(遠)きか 或は目標弾着点の痕跡より遠(近)方位を通過すれば 其射弾は近(遠)し 又目標近(遠)く斜行するとき 同一の徴候に依り目標の行進方向に弾着せる近(遠)弾 及目標の行進方向と反対の方向に弾着せる遠(近)弾を判定し得るものとす
  6. 第二百五十四
    海岸偏差交会法線図の調整並びに使用の容量 附表第五の如し
  7. 第三章 試射

    要則

    第二百五十五
    最小夾叉闊度(実用公算躱避の約四倍)の標準 左の如し
    榴弾砲
    射距離 五千米以下 二百米
    一万米以下 四百米
    一万米以上 八百米
    加農
    射距離 一万米以下 二百米
    一万五千米以下 四百米
    一万五千米以上 八百米
  8. 第二百五十六
    目測射撃に在りては弾着より次回の弾着に至る時間内に於ける目標の縦速(縦速量)を判定すること必要にして 通常射弾に依り之を求むるものとす
  9. 第二百五十七
    目測射撃に在りては先ず一、二射弾に依り目標位置に関する概略の基準を求むるを利とすることあり
  10. 第二百五十八
    試射間 命中弾又は夾叉弾を得るときは 其射距離を直ちに効力射の基準射距離と為すものとす 但縦速大なる目標に対する目測射撃に在りては 縦速量を判定せる以後に限る
  11. 第一節 方向

    第二百五十九
    方向の修正は中隊を通して行い 初発に在りては偏差の全量を修正し 爾後連続的約二回の発射に於て同一方向の偏差を生ずる毎に所要の修正を行うものとす
    射撃間装薬号を変更したるときは初発の修正に準じ 又一砲車の射弾他の砲車に比し常に同一景況の偏差あるときは 二、三射弾を観測したる結果に基き概ね基本偏差を修正するものとす
  12. 第二節 射距離

    一距離試射
    第二百六十
    機測射撃に在りて遠近を判定し得たる射弾 悉く近(遠)きときは 通常最小夾叉闊度に応ずる量を遠(近)く修正し 目標を夾叉すれば最小夾叉闊度の半量を修正し 効力射の基準射距離と為すものとす
  13. 第二百六十一
    縦速小なる目標に対する目測射撃に在りて遠近を判定したる射弾 悉く近(遠)きときは 速やかに反対方位の射弾を得る如く 適宜射距離を増加(減少)して目標を夾叉し 爾後最小夾叉闊度に短縮し 其中数射距離を以って効力者の基準射距離と為すものとす
  14. 第二百六十二
    縦速大なる目標に対する目測射撃に在りては 先ず大なる夾叉闊度を以って速やかに目標を夾叉し 要すれば夾叉闊度を短縮したる後 目標前進(退却)する場合に於ては最後に得たる射弾と反対方位の射弾を得る如く 適宜射距離を近(遠)く修正し 要すれば之を復行して縦速量を判定す 而して縦速量を判定せる最後の射弾に応ずる射距離に通常二百米を修正し 効力射基準射距離と為すものとす
    予め縦速量を判定し得たる場合に於ては 速やかに目標を夾叉し 要すれば夾叉を短縮して終に縦速量に最小夾叉闊度を加減したる距離内に目標を捕捉するに至れば 最後の射弾に応ずる射距離に通常二百米を修正し効力射の基準射距離と為す
  15. 数距離試射
    第二百六十三
    数距離試射に在りては級梯の射距離を以って略ゝ同時に発射し 目標を夾叉せざるときは所要の修正を行い之を復行す 若目標を夾叉せば 其中数射距離を以って効力射の基準射距離と為す 但縦速大なる目標に対する目測射撃に在りては 縦速量を判定せる以後に限るものとす
  16. 第二百六十四
    数距離試射に於ける探るべき距離差は 砲種、縦速の大小、射撃諸元決定の精度及効力射の方法等に依り異なるも 各射弾を区分して観測し得る為百米以上と為すを要す
    目標を夾叉したる二距離の差大なるときは更に其夾叉を短縮することあり
  17. 第四章 効力射

    要則

    第二百六十五
    海上の目標に対し最初より効力射を行う場合に於て 当初の射弾の景況に依りては 新たに試射を行うを利とすることあり
  18. 第二百六十六
    目速射撃に在りては 効力射間 射弾に依り絶えず縦速量を判定する事必要なり
  19. 第二百六十七
    効力射に於ける方向の修正は 試射の法則を準用するものとす
  20. 第二百六十八
    効力射開始の射距離は機測射撃に在りては 効力射の基準射距離を基礎とせる機測の射距離を用い 又目測射撃に在りて縦速小なる目標に対しては効力射の基準射距離を、縦速大なる目標に対しては判定せる縦速量を効力射の基準射距離に修正せる射距離を用いるものとす
  21. 第一節 一距離効力射

    第二百六十九
    機測に依る一距離効力射に在りて遠近を判定し得たる射弾悉く同方位なるときは 最小夾叉闊度の半量を修正し 否ざるときは修正を行わず 爾後連続反対方位に修正するを要するときは最小夾叉闊度の四分の一を修正し 爾後連続同方位に修正するを要するに至るまで此修正量を用いる
    効力射間連続同方位に修正するを要するときは 通常前回の修正量の二倍を修正し速やかに夾叉若は反対方位の射弾を得ることに勉むるを要す
  22. 第二百七十
    縦速小なる目標に対する目測射撃は 機測射撃の法則を準用し 要すれば適宜修正量を増大するものとす
  23. 第二百七十一
    縦速大なる目標に対する目測射撃の一距離効力射は 射弾の遠近に応じ縦速量を顧慮し 絶えず目標を効力界内に捕捉する如く射距離を修正するものとす 又縦速量判定の精度不良なるときは 目標の更新方向に弾着せる射弾に応ずる某射距離を以って反対方位の射弾を得るまで修正を行うことなく射撃するを可とすることあり
  24. 第二節 数距離効力射

    第二百七十二
    数距離効力射は通常級梯の射距離を以って略ゝ同時に発射するものとす 其距離差は射撃の目的、目標の状態、射距離公算躱避並びに射撃諸元の精度等を考慮して定むべきものにして 通常百米若は二百米或は此距離に応ずる角度(一度又はハンドに省略す)を用い 射弾の景況に依り要すれば距離差を変更するものとす
  25. 第二百七十三
    数距離効力射間 級梯の射距離を以って確実に目標を夾叉しある間は 射距離の修正を行わず 但縦速大なる目標に対する目測射撃に在りては毎回射距離に縦速量を修正するものとす
    目標級梯の射距離の限界を脱せんとするの虞あるときは 速やかに次回の射撃諸元に修正を行うものとす
  26. 第五章 二段射撃

    第二百七十四
    二段射撃は射弾観測の結果を待つことなく次回の射撃を行うものにして 通常大口径火砲の遠距離射撃及縦速大なる目標に対する速射加農の目測射撃等に用いるものとす
  27. 第二百七十五
    二段射撃の法則は 本章に拠るの外第三篇第四章を準用するものとす
  28. 第二百七十六
    機測に依る二段射撃に在りては 第一回の発射後修正を行う事無く第二回を発射し 第一回の射弾悉く近(遠)きときは通常最小夾叉闊度に応ずる量を遠(近)く修正し第三回を発射す 次に第二回の射弾を観測せる結果第一回と反対方位又は命中弾、夾叉弾なるときは第四回の為通常第三回の修正量を近(遠)く修正し効力射に移る 然れども第二回の射弾第一回と同方位なるときは修正を行うことなく第四回を発射し 第三回の射弾を観測せる結果第二回と反対方位なるときは最小夾叉闊度の半量を修正し効力射に移る 若第一回の射弾命中弾又は夾叉弾なるときは修正を行うことなく第三回を発射し効力射に移るものとす
    効力射間に於ける修正は試射に同じ 但修正量は通常最小夾叉闊度の半量とす
  29. 第二百七十七
    目測に依る二段射撃に在りては 目標の状態を顧慮し射弾観測を待つことなく 連続射距離を増加するか若は減少して発射し目標を夾叉して効力射に移る 若第一回の射弾射距離を増加若は減少せる方位と同一方位なるときは 目標及射弾の景況を顧慮し逐次射距離を反対方位に修正し目標を夾叉す
    縦速大なる目標に対する効力射は目標退却(前進)するに応じ試射に於て夾叉せる遠(近)方位の射距離を以って待撃を為し 近(遠)弾を得るや縦速量を顧慮し逐次に射距離を増加(減少)して再び目標を夾叉し 爾後同法を復行するものとす
    縦速小なる目標に対する効力射は 試射に於いて夾叉せる最後の射弾遠(近)きときは射距離通常百米を逐次に減少(増加)し 近(遠)弾を得るや射距離通常百米を逐次に増加(減少)し 爾後此方法を復行するものとす
    横行する目標に対しては機測に依る二段射撃の法則を準用するものとす
  30. 第六章 夜間射撃、照明弾射撃、潜水艦に対する射撃

    第二百七十八
    電燈に依り目標を照明するときは 概ね昼間に於けると同要領に依り射撃を実施するものとす
  31. 第二百七十九
    射弾観測の為 照明弾射撃を行うに方りては 目標の横速並びに風向、風速を顧慮し其先頭若は稍ゝ前方の遠方位に破裂点を導くこと必要なり 而して射撃は通常最大射距離を以って開始し照明の景況に応じ要すれば射距離を逓減するものとす
  32. 第二百八十
    潜水艦に対しては目測に依り決定せる諸元を基準とし 最初より散布に依り効力射を行うを通常とす 而して此場合に於ては通常分火間隔を約五十米、距離差を百米とし 一方向、一距離毎に一射弾を発射するものとす