リノ・エアレース観戦記 2012年 スポーツクラス・ゴールド決勝



リノ・エアレースの華はもちろん3000hp/500mphのアンリミテッドですが、メカニックとしての工夫はスポーツ・クラスやフォーミュラー・ワンも興味深いものです。(ときどき複葉機のバイプレーン・クラスも突発的に気狂いカスタム機の饗宴になることがありますが…70年代には No.1「Sundancer」No.89「Sorceress」No.2「Cobra」など 200mph 級のスーパーバイプレーンが暴れ周り、挙句の果てには「翼が2枚あれば複葉だろ」という屁理屈を振りかざしてバート・ルタンの串型機 Quickie No.3「Amsoil Racer」が殴り込んだりしてました。それ以降しばらくおとなしかったのですが、2000 年頃にデヴィッド・ローズがカミソリみたいな薄翼の一葉半機 No.3「Rags」を持ち込んで以来、毎年1機か2機、金に糸目をつけないバカレーサーが参加してます。今年も4枚ペラで逆ガル下翼のトム・アーブルの No.62「Phantom」が日曜最下位からのスタートで、半周で全機を抜いてトップに躍り出て、2番手を除く全機を周回抜きして優勝という一人芝居をやっておりました)

フォーミュラー・ワンというのは100馬力の4気筒空冷エンジンを無改造で搭載することをレギュレーションとしたレースで、大人一人がやっと納まるくらいの小型自作機(ホームビルト機)のレースです。レギュレーションが厳しいだけに機体や操縦技量の差が一番如実に出るクラスではあるのですが、なんせ機体が小さくて見栄えがせず、肉眼では何番の機体が何番手につけているのか追跡するのも困難なレースなので、リノでもちょっと通好みのクラスになります。F1クラスはレイ・コートの駆る No.16「Shoestring」が 68 年から 81 年まで通算9回の優勝を飾ったり、ジョン・シャープの駆る No.3「Nemesis」が 91 年 99 年まで9回連続優勝を飾るなど、アンリミのようにエンジン吹っ飛ばしてリタイヤという番狂わせが少ないだけに、強者と弱者の差が如実に表れるクラスでもあります。
ここ数年はゲイリー・ハーバーの No.95「Mariah」とスティーブン・セネガルの No.11「Endeavor」が上位入賞を続けていましたが、今年はレースファンの魂を鷲掴みにする新鋭機が登場しました。ブライアン・レベリーの No.13「Septemeber Fate」、カーボンコンポジットで殆ど継ぎ目のない流麗な仕上げの機体。主翼前縁を三日月状にスイープバックした逆ガル翼はハインケル He70 とかコードロンのレーサーを連想させ、しかし主翼翼型は最厚位置を翼根部で弦長 70% 位置(!)に置いた強烈な層流翼、エルロン上面も含めた主翼後縁は傍目にもわかる逆カンバーで、刃物のように鋭い主翼後縁には地上ではカバーをかけているという徹底ぶりです。筋金入りのエアレースマニア集団「セクション3」の連中からも圧倒的な人気を得たこの機体、レース本戦ではまだ熟成が足りなかったのか、決勝戦で3位まで追い上げたものの熟練の技で飛ばす No.11 を捉えることができませんでした。

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スポーツ・クラスはアンリミテッドとF1の間くらいのクラスで、1998 年に新設されて以来、数々のアイデアにあふれた機体が登場してファンを楽しませてくれています。かのダリル・グリネマイヤー御大が「Lancair Legacy」を駆り、溜息の出るような旋回技量を披露して4年連続優勝をかっさらったのもスポーツクラス。以前僕のmixi日記にも、スポーツクラス開設以来ずっと予選で1・2位を争いながらも、一度も優勝経験のないサンダーマスタングのことを書いたりもしました。昨年 2011 年の予選ではとても快調に飛ばしていたのですが、金曜日の墜落事故でイベントキャンセルに見舞われました…。 2012 年スポーツ・クラスの見ものは悲願の優勝に賭けるジョン・パーカーの No.352 サンダーマスタング、かつて猛威を振るったランスエア・レガシイ勢、ロシア製星型 M-14 エンジンを積んだピーター・マローンの No.105「Radial Rocket」、そして在りし日のツナミを思わせるシボレー水冷 V-8 エンジン搭載の GP-5 型 No.5「Sweet Dreams」を駆るリー・ベイヘルという、アイデアに満ちた多彩なレーサー機の接戦が期待されていました。

しかし事前の予想に反して、常に先頭を切って飛んだのはジェフ・ラヴェルの駆る No.39グラスエア III。いわゆる「セスナ機」みたいな並列複座の角ばった胴体、傍目にはどう見ても速そうに見えないこの機体が飛ばすこと飛ばすこと、ヒューンという甲高いエンジン音はアンリミテッドのレーシングマーリンのように異様な爆音です。ジョン・パーカーのサンダーマスタングは土曜日の予選でトラブルを起こし、日曜の決勝戦では最下位からのスタートとなりましたが、かの「タイガー」ディステファニーを彷彿とさせる猛烈なアタックをかけ最初の半周で3位まで一気に駆け上がります。二番手のランスエア・レガシイも抜いて2位まで上がりますが、先頭を飛ぶ No.39 との距離を詰められないどころか離されるばかり…結局1着がグラスエア、2着がサンダーマスタング、3着ランスエア・レガシイ、GP-5 は4着という結果となりました。まぁエアレースの世界において、多少の空力的洗練よりも馬力がモノをいうことは何度も目撃していますが、それにしてもあのランスエアは異常だよなぁ、なんかイケナイこと(ADI 噴射など規定外のパワーアップ)をやってたんじゃないか?!と、レース後の夕食会では花が咲きました。星型エンジンの No.105 ラジアル・ロケットはゴールドレースも出られず、シルバークラスで3位でした。

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