3223 |
質問です。アイオワ級戦艦の主砲(16インチ50口径)の初速ですが、毎秒762mという記述をよく見かけます。しかし雑誌「世界の艦船」(海人社)No.518、p74に載っていたデータによるとアイオワ級の主砲の初速はSHS(弾重1224.7Kg)を使わないとき(弾重1016Kg)で毎秒808mだそうです。SHSを使っても砲弾の運動エネルギーは同じとするとSHS使用時には毎秒736m位になり、毎秒762mは高すぎる気がします。どちらが正しいのでしょう?アイオワ級の主砲に詳しい方がおられたら、御教授いただきたいと思います。 隼兵 |
- それでいいんです。
http://www.navweaps.com/Weapons/WNUS_16-50_mk7.htm
表中の「Propellant Charge」と「Muzzle Velocity」に注目。
第二次大戦時の初速は739m/sですから。
762m/sは大戦後に装薬の種類を変更して出るようになった数字です。
まなかじ
- >隼兵さん
>SHSを使っても砲弾の運動エネルギーは同じとするとSHS使用時には毎秒736m位になり
こういった場合、運動エネルギーではなく、運動量で比較する方が宜しいのではないでしょうか?
>#1 まなかじさん
ご紹介のページには
AP - 2,500 fps (762 mps) (new gun)
AP - 2,425 fps (739 mps) (average gun)
と記述されていますが、この"new gun"、"average gun"というのは、装薬の種類ではなく、"砲齢が新しい時点での初速"、"新品砲身の使い始めから、砲身交換をひかえた砲身の、どんどん低下する初速の平均"ということなのではないでしょうか?
セミララ
- Mk5とMk8とで装薬の量が違うのも原因でしょう。
tackow
- ごく一般論で言うと、同じ砲口威力(運動エネルギー)の場合、軽量x高速である方が、装薬の不完全燃焼と最大とう圧増加を招きます。
不完全燃焼は装薬が全部燃える前に砲弾が砲身から出てしまう事で、つまりは装薬威力を十分に砲弾に乗せられないという事です。とう圧はこの不完全燃焼を避ける為に急速燃焼する装薬を用いるか、もしくはより大量の装薬を使う事で、重量弾と同等の威力にしようとする為に起きます。
逆に言うなら、大重量砲弾は同じ量の装薬ないしとう圧制限下で、より効率よく砲弾の運動エネルギーに転換できるんです。
この差異は砲の設定次第ですが、日本海軍が20糎砲の試験で125kgと108kgの砲弾で行った範囲では、3〜5%程度装薬を増しとう圧も少し高めにしないと108kg砲弾は125kg砲弾と同じ砲口威力は出ませんでした(装薬の燃焼特性でも変わりますが)
但し、この20糎砲弾で装薬量は30kg前後で、弾量差に応じた装薬量差は1kg程度ですから、軽量砲弾に大装薬のほうが、全体では軽くて装填もしやすいので、単純に優劣は論じれません。
また、こっちのスペック
http://www.navweaps.com/Weapons/WNUS_16-50_mk2.htm
アイオワの砲の原型ともいえる16/50のMK.2砲ですが、沿岸砲台用で 2,240 lbs. (1,016 kg) AP - 2,650 fps (808 mps)となってます。
恐らく、これと同じ砲弾と装薬を用いれば、この性能になるだろうということなんだと思いますが、装薬量(Propellant Charge)648 lbs. (294 kg)と記されてます。
アイオワのMK.7砲の場合は664.6 lbs. (301.5 kg)と、こっちの方が少し多いんですね。SHSのほうが効率がよい上に装薬量が多いのですから、SHSのほうが多少上に来るのは自然なことだと思われます。
SUDO
- >ごく一般論で言うと、同じ砲口威力(運動エネルギー)の場合、軽量x高速である方が、装薬の不完全燃焼と最大とう圧増加を招きます。
Mk7と大和の46cmを比べた場合、最大トウ圧がMk7で2910気圧、大和3200気圧、残存圧力がMk7の3.5気圧に大して大和50気圧程度となっています。
MK7の最大トウ圧が低いのは50口径のせいだと思っていたのですが、砲弾重量も関係していたのですね。
追加で申し訳ないのですが、最大トウ圧で300気圧程度の差と言うのは、砲身の設計に影響を与える程度の差なのでしょうか。
富士見町
- >5
当然影響するでしょう。
大和の砲も、アイオワの砲も、軽くする事にも努力が成されているのですから、無駄に強度を抱えて重くしたいとは思ってないはずです。
SUDO
- 皆様、御回答ありがとうございます。装薬が違っていたのですね。
ただ、御紹介いただいたサイトの中にある「new gun」と「average gun」の違いがよく分かりません。字面を見るとセミララさまの言うように新しい砲身と何発か撃った後の砲身かと思いますが初速がそんなに変わるのかと思ってしまいます。また、まなかじさまの言うようにWWII中とその後の装薬の違いかと思えば長門の主砲にも「new gun」と「average gun」があるようでどうもよく分かりません。重ねての質問ですが、どなたかお教えください。
隼兵
- 「average gun」の定義が判らないので比べようがないのですが。わが海軍の艦砲では砲齢半ばの数値として。長門型の40センチ砲の場合-20m/秒程度、重巡搭載の20センチ砲で-36m/秒程度、それぞれ新品と比較して初速が低下していますね。
tackow
- 端折りましたが「砲齢半ば」は文字通りに受け取ってもらって結構です。それと20センチ砲は正20センチ砲の場合です。
tackow
- >長門型の40センチ砲の場合-20m/秒程度、重巡搭載の20センチ砲で-36m/秒程度、それぞれ新品と比較して初速が低下していますね。
この原因は磨耗によってガスが逃げているでしょうか。それとも、内部摩擦抵抗の増大によるものなのでしょうか。
「計算機屋かく戦えり」という本に、94式高射指揮装置開発の話しが出てくるのですが、そこにも、「だんだん弾道特性が変わってきて、それは予測不可のため計算には入れていない」とありました。が、原因は書いてなかったです。
富士見町
- >10
命数内での初速低下の主原因は磨耗というか溶損によるガス漏れです。
砲身は尾栓部から見て、薬室部が5〜7口径ぐらいの長さ、弾丸が3〜5口径ぐらい、施条開始部は尾栓から10〜11口径部あたりから始まります。
つまり装填したとき、弾丸の肩部あたりから施条は本格的に始まっており、導環部は施条にかかってなくて、このあたりでは砲身と弾丸には隙間があるんです。
で装薬が燃焼すると、この隙間からガスがまず少し逃げます。続いて砲弾が前に進んで施条に導環が食い込み、これで密閉され、残燃焼ガスは逃げ道が無いので砲弾を強烈に推し進めるという流れになります。
この流れですから、装薬点火から、導環による密閉までがガスが一番逃げやすい訳で、狭い隙間を燃焼ガスが強引に逃げるので、消耗はこの施状開始部附近が最も酷くなり、当然ですが消耗が進むと余計に導環で密閉するのが遅れて逃げるガスが増します。
またこの消耗が進むと、導環が本格的に砲弾を旋転させるのも遅れますから、初速低下のみならず旋転速度が変ってしまい弾道特性は更に変わります。
これに加えて、弾の肩部や導環が施条を削っていきますが、こちらは全体的に進み、またそんなに強烈な影響は齎しません。
SUDO
- ああ、見落としがありました。
導環と、砲身及び施条の間隙からもガスは抜けますし、この際にこれらを削っていきます。
言うならば、砲の谷径が広がるといった感じでしょうか(でも消耗するのは施条が主ですので、厳密にはちょっと違う)
弾丸の肩部が削っていって広がるのは、砲の山径で、こっちは導環でフォローできる範囲ならば、ガス漏れや旋転不良はさほど大きな影響はありません。
SUDO
- >SUDOさん
詳しい説明有り難うございました。大和型の46/45の場合、N-x曲線の開始位置は10口径あたりになっていますね。実際には導環はあと2口径分ほど前進しないと施条には噛まないと思われます。確かに、この部分でガスは漏れますね。
しかし、初速の変化が2.5%とは、結構大きなロスですね。
富士見町
- 御回答ありがとうございます。そんなに初速が変わっていくとは・・・初めて知りました。
隼兵