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インターネット初心者です。偶然このサイトを見つけました。 大岡昇平のレイテ戦記に「沖縄戦の段階では、基地を飛び立つと共に司令官室めがけて突入の擬態を見せてから飛び去る特攻士があったという噂が語られる。」とあります。 これは本当にあったことなのでしょうか? もしそうであれば、その特攻士の処遇はどうなったのでしょうか? やはり2階級特進、もしくは何らかの処罰があったのでしょうか。 佐藤早苗の「特攻の町知覧」には何某中尉が突入を計画した話が出てきます。ひょっとして同じ話のヴァリエーションではないかという懸念もあります。 どなたかのご教示をいただければ、非常に幸いです。 ふらいぶるく |
- もともと生きて還らない建前なので、処罰はないと考えるのが妥当でしょう。特進も当然ありです。もしそれしきのことで処罰が励行されるのでは隊の士気に関わること必然となります。それを考えて、司令官も幕僚も黙って受け止めるのがスジと考えられます。この類の事を表沙汰に取上げてしまうと、上下より司令官の統率能力が疑われてしまうと云う影響もありましょう。
あるめ
- 「月光の夏」と云う映画の一節です。参考にしてください。
北条圭一中尉と村上伍長との会話。(振武寮の一室)
北条「村上伍長、はいれ」
北条「お前に頼みがある」
北条「お前は、あす、雁ノ巣飛行場で一式戦闘機一機を受領し、
知覧へ飛び、特攻出撃する。間違いないか」
村上「はい。本日命令をいただきました」
北条「俺の頼みを聞いてくれ!」
村上「はっ?」
北条「おれは、悪天候で、やむなく部下をたちを連れて引き返した。
むだ死にさせないためだ。いのちは惜しまぬ。だが、むだにはしにたくない。
的確に敵空母を狙うために出直すつもりだ」
村上「(うなずく)」
北条「矢ケ島参謀は、おれがいのち惜しさに引き返したと、頭から疑ってかかった。
やつは、特攻で出ていった者を侮辱している。特攻の精神をも冒涜するものだ!
机の上で作戦を立てて、指図だけしているやつになにがわかる。ここにいるみんな、
腹の中で怒っている。悔し涙を飲んでいる。お前もわかるなっ」
村上「はい」
北条「おれは、矢ケ島参謀を許さん。……殺したい」
北条「おれはやつにニラまれ、どこえも行かせてもらえない。生殺しにあっている」
村上「……」
北条「軍刀でも拳銃でもいい、あればおれの手で殺る。差し違えてやる。お前に頼みはしない」
北条「村上。あす、雁ノ巣を離陸したら、司令部の矢ケ島参謀の部屋めがけて突っ込んでくれ」
北条「頼む」
村上「中尉殿……」
村上「勘弁してください……、中尉殿。私には、とても、できません……」
北条「そうだろうなぁ。頼んだおれが悪い。お前にも、残される親御さんがいるんだ」
村上「中尉殿のお気持ちは、私にもわかります。ですが……」
北条「もうよい。すまなかった。忘れてくれ」
村上「すみません……。私は、こんどは必ず、敵艦に体当たりいたします」
北条「ここでは、自決のしようもない……」
以上は台本からの転用です。昔の軍人は「恥」を心得ていました。一旦特攻出撃を決心した以上、
卑怯未練な振る舞いをすれば、残された親兄弟の恥であり、一家一族の恥とされていました。
私も、特攻隊の生き残りとして、村上伍長のお気持ちは理解できます。
蒼空
- 回答ありがとうございます。
あるめ様
「それしきのこと」と言い切ってしまっていいのかどうか、躊躇を感じます。噂になったという以上、公然の秘密であった可能性があります。きっちり処分してしまったほうが「隊の士気」には良いのではないかと思いますが、いかかでしょうか?
個人的にはむしろ、この噂、戦後のデッチ上げではないかという考えに傾いているのですが。
蒼空様
この話の元ネタは「特攻の町知覧」にあります。細部に多少違いはありますが(一式でなく二式戦闘機であるとか、伍長でなく少尉であったりなど)、同一の話と見て間違いないと思います。
私には村上伍長の躊躇だけでなく北条中尉の怒りも十分に理解できるのですが。
ふらいぶるく
- 旧軍もお役所なので、お役所同様の思考様式があり、例えばこのケースの場合、司令官が事を表沙汰にして懲罰を実行すれば、当人を管理すべき出撃隊長や待機中の後続出撃隊のメンバーにどのような影響を与えるかを考えれば、一番簡単な方法は「これしきのこと」では実際なかったとしても、「これしきのこと」としてしまって、何も無かったように振舞うのが八方おさまります。もし処分を実行しようとすれば、当人は既に決死攻撃のために名誉の殉職をしており、あるいはそのために進撃中であり、その特進の手続きも迅速にとられつつあるところなので、この手順を中断すると相当ややこしい事になり、当該司令官を管轄する上級司令部では、「あの司令官は自分さえ我慢して太っ腹を見せておればいっさい納まるべき事をいちいちとりあげて上申してきおって、統率力に欠けるところはなはだ大なり」と判断し、当然に司令官を補佐して意見具申した筈の参謀も無能の烙印を押されることになります。「(参謀の司令官への)補佐が足りん、あいつ(当該参謀)が附いていながら、何を云うてきおるか」となるわけです。実際には、司令官が「断然、処分する」と強硬であっても、参謀や副官がのろのろとしか動かなかったり、その逆もあり、たいていは「まあ、よいではないか。命をかけて働く者に對し、後に残る者が何を云えようか」に落着くことになります。もし処分を実行すれば、基地に待機中の攻撃隊の士氣は著しく損なわれる、あるいは混亂することに頭がいかない司令官はきっとないと思われます。士氣のバランスが崩れるリスクをおかすかどうか、その結果がどのようなことになるかにつき、責任をおえるか、の問題となります。
隊長を困らせる目的で、とんでもない悪戯を公然としでかす部下を、隊長は「元氣があって、たいへんよろしい」と軽くいなして、ことをおさめるケースがよくあり、また厳格にルールを適用するように見えて、誰からも文句のでない抜け道を示して当人を救おうとするケースもあり、軍隊のように命のやりとりを扱う組織では、そういう統率手法や機転が司令官やその補佐役に期待されていたフシもあります。以上が「それしきのこと」の理由説明です。
あるめ