5402 先日さる冒険家が4万km以上の無着陸無給油飛行に成功しました。そのとき使用した気体が双胴のジェット機にみえたのですが、双胴の機体は航続力で利点があるのでしょうか?その他双胴機の特徴を教えていただけたらと思います。
ど素人

  1. ヴァージンアトランティック・グローバル・フライヤー号ですね。
    http://www.virginatlanticglobalflyer.com/

    同じ設計者バート・ルタンによる前作(「単独」ではない世界初の無着陸地球一周飛行機)のヴォイジャーも先尾翼の3胴機となっています。
    http://www.nasm.si.edu/research/aero/aircraft/rutanvoy.htm

    飛行機というのは空飛ぶヤジロベエです。主翼の発生する主揚力+尾翼・先翼などで発生する補助揚力(トリム)の指す中心位置が、飛行機が地球に引っ張られる力(つまり重量バランスの中心=重心)に一致しなければ飛行できません。

    そして燃料は飛行中にどんどん重量が減ってゆく荷物ですから、例えば機首先端に燃料タンクを積んで離陸した場合、飛行中にどんどん機首が軽くなってゆき、遂には飛行不能となってしまいます。そのため燃料タンクは重心位置のなるべく近くに置き、それができない場合は重心を挟んで前後に振り分け均等に減ってゆくような配慮を行う必要があります。

    通常、旅客機では主翼基部が燃料タンクとなっておりそこに燃料を充填しています。主翼は必然的に重心と近い位置にあるし(注:先尾翼機や串型機の場合はこの限りではない)、胴体はお客さんや貨物を積む必要があるので、主翼をタンクに用いるのはとても合理的です。

    軍用ジェット戦闘機などは翼が薄くて燃料格納に適さないので、ふつうは胴体中央部に燃料タンクを配置しており、必要に応じて主翼に増槽をぶら下げます。

    さてルタンのヴォイジャーやグローバルフライヤーですが、基本的には増槽がばかでかくなって機体構造と一体化したものと見なすことができるでしょう。中央胴体には乗員と推進器を格納し、左右の長大な「ブーム」部分に大量の燃料を搭載しています。

    燃料を左右に振り分けることにより、離陸荷重状態で主翼にかかる曲げモーメント負荷を減らす効果もあり(真ん中一箇所にすべての重量物を詰め込み左右からヨイショと持ち上げるよりも、重量物を二箇所に振りわけて左右と真ん中(中央翼の発生する揚力)の三箇所から持ち上げるほうが楽)、これによって若干の軽量化にも寄与していると思います。

    ささき

  2. ついでにゴミレス。旅客機の座席ポケットには「安全のしおり(笑)」が入っており、緊急時の脱出手順がイラストで説明されていますが、機種によって少しづつ手順が異なります。たとえば B-747 ジャンボで水上に不時着したとき、原則として二階席の脱出シュートは使いません。DC-9 や CRJ などリヤエンジン装備機では、水上不時着時に機体後部の脱出口使用を禁じている機種もあります。(これらの機種は後ろから沈んでゆく可能性が高いらしい)

    さて本題。B-777 や B-737-900 のような新しい機種は別として、通常胴体中央の脱出口はフルサイズのドアではなく、窓枠を外して脱出するものになっています。問題はその「窓枠の外し方」で、緊急手順をよく見ると、多くの機種では外した窓枠を「機内に残して」脱出せよと書いてあります。これは上で書いたように主翼基部は燃料タンクとなっている場合が多く、外した窓枠を投げ捨てた場合、主翼を貫いて燃料タンクを破り燃料漏れを起こす危険を避けるためと思われます。リヤエンジン機では主翼も後ろ寄りにオフセットされており、タンクを破る危険がないので「窓枠を外に投げ捨てて」脱出せよと書いてあるものがあります。
    ささき

  3. なるほど増槽の巨大化から、増槽をそのまま翼にして揚力を得ようとしたらあのような形になるわけですね。確かに機体中央に巨大タンクを作ってたら空気抵抗がでかくてしょうがないでしょうね。
    ど素人

  4. >3
     単純に抵抗だけを考えるなら三胴型よりも三倍の長さの単胴一本の方が有利ですし、また同じ形で三倍の内部容積を持つ胴体の方が機体表面の誘導抵抗や構造重量で有利になります。
     ただし胴体をあまりに細長くすれば必要な強度を得るための構造に重量を取られて不利になります。また、ささきさんもおっしゃっているように、アスペクト比の高い長距離航空機で翼の中央部だけに重量が集中すれば、それだけ翼の構造を強化しなければならずやはり重くなります(離陸時に燃料を満載した状態の超長距離機は機体構造が耐えられるぎりぎりの重さであるということにご留意下さい)。
     グローバル・フライヤーはこれらの問題の利害得失を勘案した上で三胴を選択したのであって、その主な理由はトータルの構造重量を押さえるためと考えるべきでしょう。もし現在よりはるかに強くて軽量の素材で機体や翼をつくることが出来るとしたら、グローバル・フライヤーはもっと細長く前後に燃料タンクを装備した単胴機になっていたでしょう。
    カンタニャック

  5.  あんまり性能の上の理由じゃないと思いますよ。
     別に単胴でも作れるし、そう不利にもなりません。
     この記録は単純な長距離機ではなくて、時間記録達成機であったという点に注意が必要です。
     つまり高速で飛ぶための工夫が併用されるのです。
     また民間企業、それも航空会社のスポンサードを受けての挑戦ですから、事故は絶対に許されないのも予想できるでしょう。
     つまり
    ・エンジンの推力を無駄なく使うために、エンジン後方は空いていてほしい。
    ・何か予期せぬトラブルがあった場合でもなんとか事故を避けられるだけの多重化された安全機能を備えるべき。
     こうなると双尾翼というのはかなりアリですし、双尾翼を前提とするならば、双胴はアリになるのです。
     もちろん、人気のあるP-38みたいな格好にするというのも、アピールとして大きな利点があるでしょう(私にはよく理解できませんが、アメリカ人はあの格好が好きみたいですから)
     以上の点は、恐らく重量がどうのとか強度がどうのとかよりも、大きなウェイトを閉めてると思いますよ。
     どうせ、記録達成そのものは無事完走すれば確実なんですし。
    SUDO

  6. >5
     グローバル・フライヤーは、総重量の83%が燃料という、燃料タンクに翼とエンジンつけたような機体ですから、やはり設計の要点は、必要なだけの燃料を積める機体を、最大負荷での離陸時でも安全なだけのセーフティマージンを取った上で軽く(かつ抵抗をすくなく)できるか、にあるのではないでしょうか。
     付け加えれば、燃料を満載した双胴の重心近くに置かれた主脚も重量軽減に有効です。地上での直進安定性は悪そうですが、単胴や翼に主脚を押し込むよりは無理のない設計が出来るでしょう。
    カンタニャック

  7. >5. なるほど、面白い着眼点ですね。ボーイング747だって無給油で地球を半周できるんだから、貨物室や客室に増槽を積み、巡航時は適時双発飛行に切り替えるとかすれば、地球一周する「だけ」ならいけちゃうかも知れません。しかしこれだとロマンはないし、その為だけに747を大改造するのはあまりにコストパフォーマンスが悪いでしょう。ヴォイジャーもフライヤーも確かに目的のため最適化設計した形状なのでしょうが、「こんなヘンテコな形だけど性能はスゴイんだぜ!」という「ルタンの空飛ぶ看板」という意図もありそうですね。
    ささき

  8. >6
     いえ、ですから、三胴だと軽くなるとか抵抗が小さくなるということは「ない」んですよ。
     最善の答えは、主翼をインテグラル・タンクにでもして、ついでに全翼にすれば良いんです。
     怖いなら尻尾伸ばして尾翼をつければOKで、グローバル・フライヤーよりも軽くて高性能な飛行機になるのは確定でしょう。
     ちょっとでも知識があれば誰でも類似の、胴体最小で主翼最大になるようなデザインをします。ましてや飛行時間ではなく、飛行速度も狙う以上、この方向で挑戦しないほうがオカシイんです。
     最適解があるのに敢えて外してる以上、真っ当な意味での理由は無いのです。
     ていうか、B-52が半分の距離までは達成しているんですよ。B-52やTu95あたりで燃料を倍積めば数字的に塗り替えることはかなり容易なのです。
     つまり特異な形態を敢えて選ばなくても、全然問題なんか無いんです。
     それこそ、あの形は、今こうして我々のような航空に興味を持つ人間が色々と語り合う、ひいてはスポンサーのヴァージン・アトランティックの利益に繋がるという部分が大きいのです。
     最適解でもなければ、より容易な形でもない以上、他の理由なんか後付けに近いんです。
    SUDO

  9. 多発多座機で大西洋を横断できることが実証されているのに、わざわざ奇形的な単発単座の専用機を作って横断してみせたリンドバーグみたいなものですかね。
    ささき

  10. SUDOさんに度々盾突くようで申し訳ないのですが、実機の速度、延いては航続力に対する小面積の薄翼が果たす役割はかなり大きいのではないでしょうか。
    ルタンの初期スケッチにもオーソドックスな単胴の左右に長いタンクが描かれています。
    基礎検討で既に膨大な容量のインテグラルタンクを形成する大きく厚い翼では、トライアルとして成立しなかったとも考えられます。
    皆さんが既に挙げられているとおり、荷重の分散による軽量化やコンポジット製尾翼のブラスト回避など、合理的なレイアウトと言えるのではないかと思います。
    APOC

  11. >10
     それが成立するなら、世界の旅客機はみな増槽を積んだドライウイングになってるのでは?
    SUDO

  12. 量産が前提にない機体を安く作ろうと思えばあの形になると思います。
    全翼機でアドバンテージを得るには、もっと大型の機体でなければ・・・
    ガス欠飛行連隊

  13. >10, 12
    「地球を一周する」という以外に何の使い道もなく、長距離機でありながらわざわざ変形双発複座(ヴォイジャー)とか単発単座(フライヤー)という基本形態を採用しているということじたい、SUDOさんの言うところの「わざわざ最適解を外した」「常識に反する」前提なのでしょうね。その前提内で最適設計すればあの形状にたどり着くのかも知れないけれど、そもそも前提条件が最初から「最適解」を外したところにあるだろうと。そこに加えて、奇をてらった設計が売りのルタン(コンポジット・デザイン社)が自らの技術的の優位性を宣伝するにあたっても、あえて非常識的な形態である事が望まれた…という具合でしょうか。


    ささき

  14. 目的を絞って特化された飛行機ですから、旅客機との比較は正直なところ考えていませんでした。
    ルタンの造形には生理的に反りの合わない部分も多いのですが、手法としては現実的な最適解に近い結果を出していると思います。
    仰るとおり、良くも悪くも仕様自体の「狙い過ぎ」の成せる業ではあるでしょうね。
    APOC

  15.  皆様ご回答ありがとうございます。インテグラルタンクの全翼機というとB2みたいなやつですね。確かに航続力長そうです。P-38みたいな格好が米国で人気があるとはしりませんでした。山本長官撃墜くらいしか知りませんが、あれもやたらと航続距離長かったですね。確かにあの形が受け狙いとうわれれば、そんな気もします。
    ど素人

  16.  ああ、飲んだくれている間に出遅れました。すみません。

     機体総重量の八割以上が燃料で機体重量が1トン半ぐらいの機体を設計するなら、あの設計は奇をてらったというより筋の通った合理的なものだと思います。
     他の解として、常に理論的にはベストな全翼機は、皆さんもおっしゃっているようにこのサイズで必要な燃料を積もうとすれば翼厚が大きくなりすぎてむずかしいでしょう。
     もう一つの解としては、素直に単胴式のモーターグライダー風に設計するという方法があると思います。胴体自体の構造重量と空気抵抗だけを考えるなら、この方が合理的でしょう。(って、>3でそう書いたつもりなのですがわかりにくかったようです。すみません。)ただし、その場合のデメリットは、翼の構造強化よる重量増加、脚の設計のむずかしさ(おそらく自転車+補助輪式降着装置がベスト(重量最重視なら一輪車+補助輪もあり)でしょうが、重量的には三輪式と同じ程度かあるいは少し軽くなっても、グローバル・フライヤーはモーターグライダーと違い離陸重量が10トン程あるので、もともと一番危険な離陸がもっと難しくなるでしょう。)、あと単胴の場合、尾部にエンジンをつけるのが一番合理的でしょうがこの場合はかなりヤワな胴体構造の強化が必要になる可能性が出てきます。グローバル・フライヤーのように胴体上に載せる手もあるでしょうが、その場合は胴体と近すぎればエンジン後流が気になり、かといってクリアランスをたっぷり取れば構造重量が増えるでしょう。
     だから三胴式の方がよかったかというと、正直いってそうは思っていません。どちらも利点欠点はあり、三胴機が絶対的にすぐれているとはいえないでしょう。ですから、それなのにわざわざ普通の単胴を採用しないのは、受けねらいだとSUDOさんがおっしゃるのも、一般論としては同意できます。
     しかし、設計者の視点から考えるとそうはいえない気がします。
     ルタン氏が先に設計した三胴機ヴォイジャーは、変則三発先尾翼式プロペラ機ですが、ヴォィジャーは離昇から機体重量が重いうちは三発で飛び、その後は双発で飛行することで燃料消費を押さえるという基本発想から生まれた機体ですから(その発想がベストかはさておき)、それぞれのエンジンとプロペラのうしろに胴体をつけて三胴式にするというのは極めて自然です。また揚力を稼ぐために採用した比較的大型の先翼の支持という点でも三胴式はメリットがあったでしょう。
     そして、ヴォイジャーで成功し、三胴機の設計や特性についての経験を積んだルタン氏が、類似の機体を設計するときにそれまでのノウハウを元に、>5でSUDOさんもおっしゃっているように冒険をさけて、エンテを止め、ジェットエンジンの装備位置と後流から発生するかも知れない問題や、自転車式降着装置の採用による新たな問題を回避した結果が、あのP-38風の機体なのではないでしょうか。
    カンタニャック

  17. ああ、わたしの前の回答は3じゃなくて4でした。すみません。
    カンタニャック


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