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今月の日本ガスタービン学会誌に、某大学の某教授が「ジェットエンジンで世界初の飛行を遂げたのはグロスター」と書いているのですが、He178の方が早いですよね? じゃまんちお |
- それは論文として掲載されていたのでしょうか?
その手の会誌には、息抜きとして2〜3ページ、コラムとか雑感コーナーがありますが、あくまでも執筆者のお遊びの文章で、学会の権威とは関係のないものです。
日本ガスタービン学会は飛行機を直接扱う学会ではないでしょうから、もし論文の体裁になっていないなら、そんなことはどうでもいいのでは。
通りすがり
- 通りすがり様、確かに、この文章はPaperではなくTechnical Comments and Reportsとして掲載されているのですが、これはドイツ機の名誉に関わる問題ですので。
じゃまんちお
- 直接該当誌または執筆者にその旨ご連絡してはいかがでしょうか。
通りすがりその2
- こういうときは、時系列にものごとを整理してみます。
1929年10月頃 フランク=ホイットル(英)、ターボジェットを着想
1930年1月 ホイットル、ターボジェットの原理の特許を出願
1932年半ば ホイットル特許、認められる
1935年1月 ホイットル特許、手数料不足から更新されず
1935年5月 ホイットル、ターボジェットの機構の特許を出願
1935年11月 フォン・オハイン(独)、ターボジェットの特許を取得
1936年3月 ホイットル、パワージェット社を設立
ホイットル、ターボファンの特許を出願
1936年4月 フォン・オハイン、ハインケルに入社
(ハインケルのグンダーマン技師、ホイットル特許を調査)
(ユンカース、ジェットエンジン開発を開始)
1937年4月 ホイットル、実証エンジンの試験開始
1937年9月 ハインケル、実証エンジンの実験開始
1938年夏頃 ドイツ航空省、ジェット機開発計画を決定
(BMW、ブラモ、ユンカースのジェットエンジン計画本格化)
1938年10月 ハインケルHeS3エンジン、試験開始
1939年8月 ハインケルHe178V1、HeS3エンジンにより初飛行
1940年4月 伊カプロニ・カンピーニN.1、初飛行
1940年12月 ホイットルW.1エンジン、試験開始
1940年10月 イギリス航空機製造省、グロスターF9/40戦闘機を発注
1941年5月 グロスターE28/39、W.1エンジンにより初飛行
…エンジン開発まで含めると、ドイツの名誉がどうしたってほどのことでもないですね。
各国の技術・宣伝に係る政策やマスコミの自由度の違いからこれらの情報が正しい時系列で把握されるようになったのはどうやら昭和30年代のようです。ですので、それまでに「ヒコーキ好き」になった人の認識は、我々と違っていて当然です。
ファシスト政権が宣伝熱心だったおかげで、戦中派の方だと「世界初のジェット機はカプロニ・カンピーニ」と憶えていることもありますし、グロスターE28/39の場合は、戦後早い時期にテストパイロットの報告書が公にされるなどしたのが初期の知名度に貢献しているようです。
Schump
- 通りすがりその2様、御尤もです。執筆者に直接、出典を訊いてみることにします。
Schump様、詳細な情報のご提供ありがとうございました。
英米系の著者の出版物ではホイットルの業績ばかりヨイショするものが多く、ドイツモノは刺し身のツマ程度に扱われるのが常、ましてネ-20なぞ、まず出てこないので、つねひごろフンガイしておりました。
じゃまんちお
- Schump様、いくつか指摘&質問があります。
(1)戦前に発行された原動機関係の論文を読んでみると1913年にドイツのGuillaumeの特許DE330014が世界で最初のターボジェットの発明で、ホイットルのターボジェットの1930年の特許GB347206はDE330014の改良型であると書いてあります。実際にDE330014を見てみると軸流式ターボジェットに見えます。
(2)「1936年ホイットル、ターボファンの特許を出願」というのは、GB471368 Improvements relating to the Propulsion of Aircraft
のことを指しておられるのですよね?
(ホイットルの1936年の特許はこの1件しかないので。)
GB471368の本文はまだ読んでいないのですが、最期のページに描いてある断面図を見ると素人目にはターボファンには見えないのですが、やっぱりターボファンなのでしょうか?
ろく
- >6
自律運転できる内燃式(圧縮機駆動用の別動力を持たない)ガスタービンエンジン、というだけなら、米GE社のサンフォード=モス(後に過給器用排気タービンの設計で有名)が1907年に運転に成功したものがあったり、フランスのギヨームが1922年に特許をとった軸流式ターボジェットエンジンがあったりします。
また、反動推進についての理論的研究も、19世紀末のツィオルコフスキー(ロシア)や、そこに結実する先行の業績、ルネ=ロラン(1908年・仏)からH.Sモリス(1917年・英)といったエンジンジェットの研究などの蓄積がありましたから、1930年代後半までにはジェットエンジンにつながる要素技術は先進工業国で同時多発的に出揃いつつあり、誰が最初に実用エンジンを作り上げるかは時間の問題になっていたと考るべきで、「誰が先か」論争をするのはあまり生産的ではないと思います。
ホイットルの「ターボファン」ですが、現在ではあまり例のないアフトファン方式であったり、バイパス比が小さくて予備圧縮機にしか見えなかったりと、現代のジェットエンジンの常識とはちょっと違うものだと私も思います。
Schump
- ツィオルコフスキーを出すならゴダードも出してあげてほしい。
む