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日本爆撃機の離陸滑走距離要求が爆弾搭載量を規制するほどに特別なものである、
という認識は間違っています。
なぜなら第二次大戦期に最も爆弾搭載量が大きい(爆弾倉が大きい)傾向にある、
英軍爆撃機に対する離陸滑走距離要求の方が厳しいからです。
どれだけの要求が為されたかといえば
先に紹介したウエリントンの600ヤード(548.6m)だけでなく、
四発重爆であるスターリングでは爆弾2000ポンドで500ヤード(457.2m)、
4000ポンドで700ヤード(640.1m)という厳しいもので
後にランカスターに発展するマンチェスター、そしてハリファックスにも
500ヤード、700ヤードの要求が行われています。
では、日本はどうだったかと言えば、これより甘いのです。
600mの要求は海軍中型攻撃機の性能標準に記載されてますが、
陸軍では試作時の要求性能に具体的な数値が含まれていません。
実際に想定された数値ほぼ同様であることは推定できますが、
明確に規定されていないので、優先される項目を達成できれば
多少の超過は許されたことでしょう。
この傾向は九七式だけでなくその後の一〇〇式でも続きます。
離陸滑走距離の要求に関しては英軍が日本海軍よりもやや厳しく、
日本陸軍に比較すると、明確に甘いということですから、
離陸滑走距離要求が爆弾搭載量を制約した、という説は単なる勘違いに過ぎません。
そもそも大戦前半の英軍主力爆撃機となったウエリントンや、ハンプデンで
英空軍の要求性能は日本爆撃機と似ています。
離陸滑走距離要求が600ヤード(正確には600ヤード滑走した時点で高度60フィート以上に達していること、というもの)で、
爆弾搭載量の要求は1500ポンド(680.4kg)でしかありません。
離陸滑走距離で爆弾搭載量が制約されているのはむしろ英国爆撃機の方なのです。
九七式重爆はこれに対して最大1000kg(その分燃料を減じるので総重量は変わらない)ですし、一式陸攻も標準で1000kgです。
試作当初の爆弾搭載量要求はこのようなもので、
ウエリントンと九七重は主翼面積がどちらも69u付近で
エンジンの出力も同クラスというまるで姉妹のような機体です。
その後の英軍爆撃機の爆弾搭載量増加は試作計画時の要求に追加されたもので
主に戦術的な理由によるものです。
ほんの少し上のクラスになるB-25の場合も
最大離陸重量はマニュアルに記載される範囲であれば34000ポンドですから
ちょうど日本の一式陸攻22型とほぼ変わらない上に、
離陸滑走距離も同クラスです。
議論の前提がちょっと変、というか印象に傾いているんですね。
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