帰ってきた性能標準 / 爆撃機編


旧式兵器勉強家 BUN
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 みなさん、こんにちは。
 今日は長らくお待たせしておりました、海軍機の性能標準・爆撃機編です。テーマが爆撃機ですので、戦闘機よりも内容はやや地味で面白みに欠け、表も大きく読み辛く、文章は長くてクドく、辛抱強くて冷静で早合点しない賢明な読者諸兄におかれましては、もう本当に読むのが苦痛なことでしょうが、どうせ大概の事は私が悪いのです。一式陸攻がお盆の迎え火の如く良く燃えるのも、二式大艇が御殿女中の長刀の如く雷撃装備しちゃうのも、富嶽が用も無いのに一万五千メートルまで上昇しようとするのも、全て私に責任があります。悪かったです。もうしません。今度やる時は気をつけたいと思います。またやりたいと思います。それでは、本題に入りましょう。


昭和五年の春の宵


昭和五年 航本技極秘題四四六号
所要航空機種及性能標準

機種 攻撃機 偵察兼攻撃機 大型飛行艇 硬式飛行船
使用別 大型空母
局地
主力艦
空母
特空母
局地
局地 局地
用途 爆撃
雷撃
爆撃
雷撃
煙幕展張
捜索
偵察
遠距離捜索 大遠距離捜索
局地爆撃
一般性能 1.雷撃能力大

2.仮想敵国の攻撃機より(有爆弾魚雷)時 航続力大なること

3.少なくとも大型空母より発着可能

4.自衛力大

5.三座以上
1.偵察力、航続力大なること

2.雷撃能力大 煙幕展張に適 雷爆転換迅速なること

3.発着艦可能

4.射出に適

5.自衛力相当大

6.水陸互換式

7.三座
1.航続距離大なること

2.航法設備完備、通信力、偵察力特に大

3.機体堅牢荒天に堪え発動機持久力特に大

4.自衛力大なること

5.爆撃力相当優秀

6.耐波性大但し当分は環礁内の相当荒波に堪え発着可能の程度
1.船体強度大にて荒天に堪えうること

2.航続力、偵察能力大

3.飛行中小破は自力修理可能

4.搭乗員は戦闘配置を充足しうること

5.日常航空は各部当直3直以上なること
航続力爆弾(魚雷)有 8時間以上
80ノット
6時間以上
80ノット

捜索偵察時
10時間以上
80ノット
20時間以上
100ノット
100時間以上
70ノット
航続力 15時間
80ノット
12時間以上
80ノット
20時間以上
100ノット
150時間以上
70ノット
最高速力 120ノット以上 120ノット以上 115ノット以上 80ノット以上
上昇力 3000m
20分以内
有爆弾時
3000m
15分以内
有爆弾時
要求無し 3000m
6分以内
上昇限度 4000m以上 5000m以上 3000m以上 4000m以上
機銃 旋回銃前方連*1

後方連*1

後下方単*1
固定銃*1

旋回銃連*1

以上
旋回銃20粍*2

単装、連装*10
旋回銃*20以上
爆弾又は魚雷 爆弾1000kg*1
又は魚雷54cm*1
以上
爆弾500kg*1
又は魚雷45cm*1
爆弾1000kg*4
又は魚雷54cm*2
爆弾10トン以上
通信力 250浬以上 250浬以上 2000浬以上 偵察兼戦闘機5機搭載
要求順序 1.雷爆撃能力

2.航続力

3.自衛力
1.航続力偵察能力

2.雷爆撃 煙幕展張能力

3.自衛力
1.航続力偵察能力 雷爆撃能力

2.自衛力
1.船体強度

2.航続力

3.自衛力

4.上昇力

5.速力

6.爆撃能力
備考 1.本標準において水陸互換を要求せる飛行機の性能はすべて車輪付のものとしてのものを示す
2.空母以外艦船の搭載機収容に関しては要すればこれが為に特空母を附す。但し付近に利用しうべき空母または基地ある場合はこれを使用するものとす





 昭和五年の性能標準は世に残る性能標準の中で私の一番好きな性能標準であります。何か、こう、新しい航空軍備を最初から作り上げようという意気込みと理想を感じます。また、後年の物のように戦訓という切迫した要求より、どこか現実離れした、発想優先で組立てられた雰囲気の各機種の性能が読んでいて楽しく好もしい印象があります。
 さて、この昭和五年の性能標準で注目すべき点は陸上攻撃機の不在と、大型飛行艇の性能です。ここで構想された大型飛行艇は、爆弾4トンまたは54センチ、恐らく1.5トンの大型魚雷2本を搭載した極めて大きな攻撃能力を持っています。陸上攻撃機の構想以前に、海軍の大型攻撃航空機の構想はこうした飛行艇から始まっているのです。ですから海軍の大型攻撃航空機は飛行艇が本筋だったということですね。双発の一式陸攻に較べて二式飛行艇が立派な四発機であるのもこうした伝統に連なるものなのです。雷装可能な大型飛行艇である二式飛行艇が特異な機体という訳では無いのです。
 次に見ていただきたいのは硬式飛行船の項です。勿論軟式飛行船の項も存在しますが、それは攻撃兵装を持たない哨戒航空機に当たるものですので別の機会に取り上げます。しかし、この硬式飛行船のスペックには驚かざるを得ません。爆弾10トンを搭載し、旋回機銃20丁以上装備、しかも護衛兼索敵攻撃機を五機搭載した大型硬式飛行船は最大速度と上昇性能を除けばこれはある意味であの幻の巨人機、富嶽を超えています。航続距離10000海里、乗員は三直制で行動は時間単位というよりも日単位、しかも作戦飛行中に軽微な損傷であれば自己修理もするという、まさに空中軍艦の姿がここにあります。また、余談ですが、当時の研究の中には構造を強化した大型硬式飛行船に着水能力を与えて水上艦艇との連携能力を強化する構想もありましたから、もはやこれは航空機というよりも飛行軍艦と呼ぶのが相応しい存在です。海軍の飛行船については、性能標準とは別の機会にまとめる予定ですが、とにかく海軍の大型攻撃航空機のルーツが陸上攻撃機ではないことを押さえて欲しい所です。


現実と立ち向かう昭和十一年


(昭和十一年軍令部より海軍省へ商議のもの)
航空機種及性能標準

機種 艦上爆撃機 艦上攻撃機 陸上攻撃機 飛行艇
使用別 航空母艦 航空母艦 基地 基地
用途 敵艦艇撃破(特に空母) 敵艦艇撃破 1) 敵艦艇撃破
2) 捜索偵察
哨戒
捜索
偵察
座席数 2 3 7又は6 6又は7
特性 1) 急降下爆撃容易

2) 航続力なるべく大
速力上昇力並びに空戦操縦性能(無爆時)
優秀なること
下記能力を満足する範囲にて速力の大なること 速力なるべく大にして
操縦性は雷撃動作に適すること
下記航続力を満足する範囲において速力
特に巡航速力はなるべく大なること
航続力 2000m
800海里以上
巡航160ノット以上にて
2000mにて500浬
巡航140ノット以上にて
過荷重1300海里以上 要求無し
航続力(無爆) 要求無し 2000mにて1500浬
巡航140ノットにて
過荷重2500海里 過負荷3000浬
機銃 7.7固定*2(弾薬包一銃200)

7.7旋回*1(弾薬包400)
7.7旋回*1 旋回*3(7.7粍*2 20粍*1) 7.7*2 20旋回*1
爆弾又は魚雷 250kg爆弾*1 800kg魚雷*1又は800kgg爆弾*1 1500kg魚雷*1 または1500kg爆弾*1 250kg爆弾*2
通信力 800海里以上
長短兼用
隊内通信可能
帰投装置
800海里以上
長短兼用
隊内通信可能
帰投装置
1500浬以上
長短兼用
隊内通信可能
帰投装置付
機上方位測定機
500浬以上
陸攻と同じ
実用高度 2000m
乃至
4000m
2000m
乃至
4000m
2000m 2000m
記事 1) 離艦性能容易なること

離艦距離合成風速10m/秒にて100m以内

2) 夜間飛行容易なること
1) 離艦性能容易なること

2) 夜間飛行容易なること

3) 爆弾または魚雷の代りに煙幕展張器または増槽を装備しうること

4) 爆弾魚雷煙幕展張器は同一投下器で使用し迅速に換装しうること

5) 250kg爆弾搭載時効果爆撃可能なること

6) 同上のとき1000以上の航続距離を有することに関し考慮すること

7) なるべく複操縦しうること
1) 長時間飛行容易なること

2) 夜間飛行容易なること

3) 離陸促進装置、着陸制動装置の使用に適する

4) 無風過負荷時離陸促進装置使用せず2600m以内にて離陸しうること

5) 自動操縦装置
1) 長時間飛行可能

2) 夜間飛行容易

3) 耐波性は特定基地海面にて離水差支無き程度

4) 自動操縦装置附
固有性能を充足せば解決を要望 単座とし150kg爆弾を搭載
航続距離を1200海里程度と
なしうるよう考慮し度
自動操縦装置を考慮すること 過負荷(40%)時、航続力
3000浬以上となるよう研究すること
1) 上記性能を低下せざる範囲にて耐波性増進を研究すること
2) 500kg爆弾2個または800kg魚雷1搭載を研究する





 昭和十一年の性能標準は一転して内容が現実的です。
 大型攻撃飛行艇の姿は無く、攻撃航空機の主力は陸攻に移っています。その陸攻の兵装も昭和五年時の大型飛行艇に較べるとかなり抑制された現実的な数値です。そしてここで初めて現れた陸攻の特性が「操縦性は雷撃に適すること」との一文にある通り、雷撃に重点を置いていることも覚えて置くべき所です。この年の性能標準に漂う現実的というか、やや控えめな雰囲気はこの時代は海軍航空隊が自前の優秀機を開発できず、やや弱気になりつつある九試単戦採用直前の雰囲気を伝えているのではないでしょうか。後は時代を反映して急降下爆撃機である艦上爆撃機の項目が追加されています。艦上爆撃機の「用途」の項には「敵艦艇撃破(特に空母)」とあります。これは艦爆が敵空母の撃破を第一の目的とした機種であることを示しており、その後の性能標準にも受け継がれて行きます。日本の艦上爆撃機とは汎用の爆撃機ではなく、海戦において第一撃を敵航空母艦にかけ、その行動を封殺する為の存在であったことがここでわかります。
 次に艦攻の「記事」の4番に「爆弾魚雷煙幕展張器は同一投下器で使用し迅速に交換し得ること」とあるのも重要でしょう。もし、仮にちゃんと性能標準通りの仕様で爆弾、魚雷共通で迅速交換可能に製作していればミッドウェーでああも手酷く敗北しなかったのではないでしょうか?事情は色々ある事柄なのですが、どうにも惜しまれます。


再び夢想に走る昭和十三年


航空機種及び性能標準案
(昭和十三年九月三十日 横須賀海軍航空隊司令より軍令部次長宛のもの)

機種 艦上爆撃機 艦上攻撃機 中型攻撃機
使用別 空母 空母 基地
用途 艦艇(特に空母)の撃破 艦艇撃破 1) 艦艇及び航空基地撃破

2) 捜索偵察
座席数 2 3 7
特性 1) 急降下爆撃容易

2) 速力上昇力優秀

3) 下記性能満足の上は極力格闘戦能力を向上せしむ
1) 高速水平爆撃容易

2) 下記性能満足の上は極力最高速力上昇限度を増加す
1) 高速水平爆撃容易

2) 操縦性雷撃に適

3) 下記性能満足の上は極力最高速力上昇限度を増加す
航続力(爆又は雷あるとき) 4000m
1000浬以上
巡航速力200ノット以上
4000m
1000浬以上
巡航速力200ノット以上
4000m
2000浬以上
巡航200ノット
航続力 要求無し 4000m
2000浬以上
200ノット以上
4000m
3000浬以上
巡航速力200ノット以上
機銃 7.7固*2(各銃600発以上)

7.7旋回*1
7.7旋回*1(600発以上)

後下方射界の増大をはかること
20旋回*1(450発以上)

7.7旋回*4(600発以上)
爆弾又は魚雷 250kg爆弾*1 800kg魚雷又は爆弾*1 800kg魚雷又は爆弾*1
通信力 1500浬以上
長短兼用
隊内通信可能
帰投装置
1500浬以上
長短兼用
隊内通信可能
帰投装置
2500海里以上
電信機*2(長短兼用)
隊通信機
帰投方位測定器
主用高度 3000m
乃至
8000m
3000m
乃至
8000m
3000m
乃至
8000m
記事 1) 離着艦性良好

2) 離艦距離、合成風速12m/秒にて100m以内

3) 500kg爆弾搭載可能
1) 2) 3)は艦爆と同じ

4) 爆弾又は魚雷の代りに煙幕展張装置

5) 自動操縦装置
1) 長時間及び夜間飛行容易

2) 編隊行動容易

3) 攻撃過荷重にて無風離陸滑走距離600m以下

4) 離陸促進装置着陸制動装置使用に適
    13粍機銃を考慮すること

下方銃装備を考慮すること
1500kgの魚雷(爆弾)搭載を考慮すること

13粍機銃装備


機種 大型攻撃機 偵察飛行艇 攻撃飛行艇
使用別 基地 基地 基地
用途 1) 艦艇及び航空基地撃破

2) 捜索偵察
遠距離偵察(攻撃) 1) 艦艇及び航空基地撃破

2) 捜索偵察哨戒
座席数 10 7 10
特性 1) 高速水平爆撃容易

2) 操縦性雷撃に適

3) 下記性能満足の上は極力最高速力上昇限度を増加す
1) 遠距離偵察に適

2) 長時間夜間飛行容易

3) 極力上昇限度最高速力大
1) 高速水平爆撃容易

2) 操縦性雷撃に適

3) 下記性能満足の上は極力最高速力を増加
航続力(爆又は雷あるとき) 4000m
3000浬以上
巡航200ノット以上
4000m
2500浬以上
巡航180ノット
4000m
3000浬以上
巡航180ノット以上
航続力 4000m
4500浬以上
巡航200ノット以上
4000m
5000浬以上
巡航180ノット
4000m
4500浬以上
180ノット以上
機銃 20旋回*2(各450発以上)

7.7旋回*4(600発以上)
7.7旋なるべく多数 20粍*2(各400発以上)

7.7粍*4(各600発以上)
爆弾又は魚雷 1500kg魚雷又は爆弾*2 要求無し 1500kg魚雷又は爆弾*2
通信力 2500海里以上
電信機*2(長短兼用)
隊通信機
帰投方位測定器
2500海里以上
長短兼用
帰投方位測定装置
2500海里以上
長短兼用
帰投方位測定装置
主用高度 3000m
乃至
10000m
3000m
乃至
8000m
3000m
乃至
8000m
記事 1) 長時間及び夜間飛行容易

2) 編隊行動容易

3) 攻撃過荷重にて無風離陸滑走距離600m以下

4) 離陸促進装置着陸制動装置使用に適
800kg魚雷又は同爆弾*2
装備可能を考慮すること
1) 長時間及び夜間飛行可能

2) 編隊行動容易
  13粍機銃装備    
備考 1.各機に消炎法を講ず
2.敵弾の被害を極めて小ならしむるごとき構造及び儀装とす
3.火災局限法を講ず
4.戦闘機爆撃機攻撃機等長時間高高度を行動するものに対しては機種に応じ傍観施設及凍結防止装置を施す
5.多発飛行機は減軸飛行を可能ならしむ
6.南方作戦に使用する機種は耐熱施設を行う





 十三年度の性能標準案には大型攻撃機の項目が加わり、十一年で一旦消え去った大型飛行艇はその名を攻撃飛行艇と変えて復活しています。そして、重要な注目点はこの年から、攻撃機の特性の第一項目が全て「高速水平爆撃」に変更されている事です。ちょうど、この頃、対艦攻撃用爆弾が専門的な発達を見せ、優秀な徹甲爆弾が開発され始めたのを反映しての特性の変更です。密集編隊による高速水平爆撃を行う任務が追加されたからこそ、各機種の「記事」の中に「編隊行動容易なること」との文言が盛り込まれているのです。軍艦の主砲弾に匹敵する徹甲爆弾を一斉射分、密集編隊で敵艦の上空から照準して投下する高速水平爆撃は、当然のことながら軍艦の主砲射撃よりもはるかに命中率の高いものでした。大型攻撃機と攻撃飛行艇の爆弾搭載量1500kgX2発であり、計画中の1.5トン徹甲爆弾を編隊で投下して敵主力艦への必殺攻撃を実施する、という意味なのです。
 また、この性能標準の欄外の備考には各機種共通事項として、防火防弾の強化について触れています。例えば十二試である一式陸攻も実は本格的な試作研究が開始されたのはこの年からですので、この性能標準案の影響下にあるはずです。本来ならば一式陸攻は日本の双発攻撃機で最初に防弾装備を充実させた機体として登場するべき存在だったことになりますが、実際にはほぼ無装備のまま、従来機よりも更に火災の危険の高い燃料搭載方式を採用するに至ります。ですから性能標準を読む限りにおいては、一式陸攻をワンショットライターに貶めた事に関しては海軍当局ばかりではなく、設計側にも十分に責任があったのではないかと考えられなくはありません。あれほどの損害と山本五十六司令長官の戦死さえも、もし仕様通りの防弾装備があれば、防げた可能性が高いのではないでしょうか。


昭和十四年、十五年の動き


航空機性能標準(案)
昭和十四年二月 軍令部

機種 艦上爆撃機 艦上攻撃機 中型攻撃機 大型攻撃機
使用別 航空母艦 航空母艦 基地 基地
用途 敵艦艇(特に航空母艦)撃破 敵艦艇撃破 1) 敵艦艇及び航空基地撃破

2) 捜索偵察
1) 敵艦艇及び航空基地撃破

2) 捜索偵察
座席数 2 3 7 10
特性 1) 急降下爆撃容易なること

2) 速力上昇力優秀なること

3) 下記性能満足の上は極力格闘戦性能の向上をはかること
1) 高速水平爆撃容易なること

2) 雷撃運動容易なること

3) 下記性能満足の上は極力最高速力の増加をはかること
1) 高速水平爆撃容易なること

2) 雷撃運動容易なること
3) 下記性能満足の上は極力最高速力の増加をはかること
1) 高速水平爆撃容易なること

2) 雷撃運動容易なること

3) 下記性能満足の上は極力最高速力の増加をはかること
最高速力 290ノット以上
4000m
270ノット以上
4000m
265ノット以上
4000m
260ノット以上
4000m
航続力爆弾又は魚雷搭載 高度4000m
巡航速力200ノット以上にて
1000浬以上
高度4000m
巡航速力200ノット以上にて
1000浬以上
高度4000m
巡航速力200ノット以上
2000浬以上
高度4000m
巡航速力200ノット以上
2800浬以上
航続力 要求無し 高度4000m
巡航速力200ノット以上
2000浬以上
高度4000m
巡航速力200ノット以上
3000浬以上
高度4000m
巡航速力200ノット以上
4000浬以上
機銃 7.7粍*2(各銃600発以上)

7.7粍旋回銃*1(600発以上)
7.7粍旋回銃*1(600発以上)

後下方射界増大をはかること
20粍旋回銃*1(450発以上)

7.7粍旋回銃*5(各銃700発以上)
20粍旋回銃*2(各450発以上)

7.7粍旋回銃*5(各銃700発以上)
爆弾又は魚雷 500kg爆弾*1 800kg魚雷又は同爆弾*1 800kg魚雷又は同爆弾*1 1500kg魚雷又は同爆弾*2
通信力 1000浬以上
長短兼用
隊内通信可能
帰投装置装備
1500浬以上
長短兼用
隊内通信可能
帰投装置装備
主装置1500浬以上(短波)
副装置1000浬以上
長短兼用
隊内通信可能
帰投装置装備
主装置1500浬以上(短波)
副装置1000浬以上
長短兼用
隊内通信可能
帰投装置装備
主用高度 2000m
乃至
8000m
2000m
乃至
8000m
2000m
乃至
8000m
2000m
乃至
8000m
記事 1) 離着艦性能良好なること

2) 離艦距離合成風速12m/秒にて100m以内

3) 夜間飛行夜間着艦容易なること

4) 500kg爆弾搭載可能なること
1) 2) 3) 艦爆に同じ

4) 爆弾または魚雷の代りに煙幕展張装置を装備しうること

5) 自動操縦装置装備のこと
1) 長時間及び夜間飛行容易なること

2) 編隊行動容易なること

3) 攻撃過荷重状態にて無風時離陸距離600m以下なること
1) 2) 中攻に同じ
着水耐波性良好なること

3) 攻撃過荷重状態にて無風時離陸距離700m以下
    1) 13粍機銃又は7.7粍連装機銃の装備に関し考慮

2) 下方銃装備に関し考慮のこと
1) 1500kg魚雷爆弾搭載に関し考慮のこと

2) 7.7粍の連装銃13粍装備に関して考慮のこと

3) 離陸促進装置並に着陸制動装置考慮
1) 13粍機銃又は7.7粍連装機銃の装備に関し考慮

2) 超過荷重の場合攻撃状態にて3000浬偵察状態にて4500浬の航続力を考慮のこと


機種 中型飛行艇 大型飛行艇 特殊飛行艇
使用別 基地 基地 基地
用途 1) 遠距離偵察

2) 攻撃
敵艦艇及び航空基地撃破 遠距離偵察
座席数 7 10 7
特性 1) 遠距離偵察に適すること

2) 特に長時間夜間飛行容易なること

3) 下記性能満足の上には極力最高速力の増加をはかること
1) 高速水平爆撃容易なること

2) 雷撃運動容易なること

3) 下記性能満足の上には極力最高速力の増加をはかること
1) 遠距離偵察に適すること

2) 特に長時間夜間飛行容易なること

3) 下記性能満足の上には極力最高速力の増加をはかること
最高速力 250ノット以上
4000m
240ノット以上
4000m
220ノット以上
4000m
航続力爆弾又は魚雷搭載 高度4000m
巡航190ノット以上にて
2000浬
高度4000m
巡航180ノット以上にて
2800浬以上
要求無し
航続力 高度4000m
巡航速力200ノット以上
4000浬
高度4000m
180ノット以上
4000浬以上
高度4000m
180ノット以上
5000浬以上
機銃 20粍旋回銃*1(各450発以上)

7.7粍旋回銃*4(各銃700発以上)
20粍旋回銃*2(各450発以上)

7.7粍旋回銃*4(各銃700発以上)
7.7粍旋回銃*5(各銃600発以上)
爆弾又は魚雷 800kg魚雷又は同爆弾*2 1500kg魚雷又は同爆弾*2 爆撃装置装備
通信力 主装置2500浬以上(短波)
副装置1000浬以上
長短兼用
隊内通信可能
帰投装置装備
写真電送機装備
主装置2500浬以上(短波)
副装置1000浬以上
長短兼用
隊内通信可能
帰投装置装備
写真電送機装備
主装置3000浬以上(短波)
副装置1500浬以上
長短兼用
隊内通信可能
帰投装置装備
写真電送機装備
主用高度 2000m
乃至
8000m
2000m
乃至
8000m
2000m
乃至
8000m
記事 1) 編隊行動容易なること

2) 過荷重無風時50秒以内にて離水可能なること
1) 長時間及夜間飛行容易なること

2) 編隊行動容易なること
3) 過荷重無風60秒以内にて離水可能なること
 
  1) 13粍機銃又は7.7粍連装機銃の装備に関し考慮 1) 13粍機銃又は7.7粍連装機銃の装備に関し考慮

2) 超過荷重の場合攻撃状態にて3000浬偵察状態にて4500浬の航続力を考慮のこと
1) 800kg魚雷又は同爆弾二個装備に関し考慮のこと

2) 13粍機銃又は7.7粍連装機銃の装備に関し考慮

3) 写真電送機装備




航空機種性能標準(修正第一案)
昭和十五年七月十五日 軍令部

機種 艦上爆撃機 艦上攻撃機 中型攻撃機
使用別 航空母艦
基地
航空母艦 基地
用途 敵艦艇(特に航空母艦)撃破 1) 敵艦艇撃破
2) 偵察
1) 敵艦艇及び航空基地攻撃

2) 捜索偵察
座席数 2 3 6
特性 1) 急降下爆撃容易なること

2) 下記性能満足の上は極力格闘戦性能の向上をはかること
1) 高速水平爆撃容易なること

2) 編隊雷撃運動容易なること

3) 下記の性能満足の上は極力最高速力増加をはかること
1) 高速水平爆撃容易なること

2) 編隊雷撃運動容易なること

3) 下記の性能満足の上は極力最高速力増加をはかること
最高速力 300ノット
5000m
290ノット
5000m
280ノット以上
5000m
航続力(爆弾又は魚雷搭載) 高度4000m
巡航速力200ノットにて
1500浬
高度4000m
巡航速力200ノットにて
1500浬
高度4000m
巡航速力200ノット以上にて
3000浬
爆弾魚雷を半減し

3600浬
航続力 高度4000m
巡航速力200ノット
1800浬
高度4000m
巡航速力200ノット
1800浬
高度4000m
巡航速力200ノット
4000浬
機銃 7.7粍級固定銃*2(各銃500発以上)

7.7粍旋回銃*1(各銃500発以上)
7.7粍級固定銃*2(各銃500発以上)

7.7粍旋回銃*2(各銃500発以上)
20粍旋回機銃*2(各銃300)

7.7粍級旋回銃*5(各銃500発以上)
爆弾又は魚雷 50番爆弾*1 80番爆弾又は800kg魚雷*1 80番爆弾又は800kg魚雷*2
通信力 電信1500浬以上
隊内通信機装備
帰投装置装備
  主装置3000浬(短波)
副装置1500浬(長短兼用)
隊内通信機装備
帰投装置装備
主用高度 3000m
乃至
8000m
3000m
乃至
8000m
3000m
乃至 10000m
記事 1) 離艦距離合成風速12m/秒100m以内

2) 夜間飛行、夜間着艦容易なること

3) 自動操縦装置装備
1) 2) 3) 艦爆に同じ

4) 出来得れば二座機とし上記性能を概ね充当し、艦爆と同一式とすること
1) 長時間夜間飛行容易なこと

2) 攻撃過荷重状態にて無風時離陸滑走距離600m以下なること

3) 過荷状態において無風時着陸滑走距離600m以下なること

4) 翼端機として爆弾(魚雷)を減じ射撃兵装防御を増強す

5) 中型小型爆弾多数搭載可能なること

6) 1500kg魚雷または150番爆弾搭載可能

7) 離陸促進装置並びに着陸制動装置に関し考慮すること

8) 地上飛行機銃撃を考慮すること
機種 大型攻撃機 中型飛行艇 大型飛行艇
使用別 基地 基地 基地
用途 1) 敵艦艇及び航空基地攻撃

2) 捜索偵察
1) 敵艦艇及航空基地攻撃

2) 捜索偵察触接
1) 敵艦艇及航空基地攻撃

2) 捜索偵察
座席数 8 6 8
特性 1) 高速水平爆撃容易なること

2) 編隊雷撃運動容易なること

3) 下記の性能満足の上は極力最高速力増加をはかること
1) 2) 3) 中攻に同じ

4) 間触接容易なること
中攻に同じ
最高速力 280ノット
5000m
280ノット以上
5000m
300ノット以上
5000m
航続力(爆弾又は魚雷搭載) 高度4000m
巡航速力200ノット以上にて
4000浬
爆弾魚雷を半減し

4800浬
中攻に同じ 高度4000m
巡航速力200ノット以上にて
5500浬
航続力 高度4000m
巡航速力200ノット
5000浬
中攻に同じ 高度4000m
巡航速力200ノット
8000浬
機銃 20粍旋回機銃*2(各銃300)

7.7粍級旋回銃*5(各銃800発以上)
中攻に同じ 20粍旋回機銃*2(各銃450発以上)

13粍旋回銃*2(各銃600発以上)

7.7粍旋回銃*6(各銃800発以上)
爆弾又は魚雷 200番爆弾*2又は2000kg魚雷*2 中攻に同じ 200番爆弾又は2000kg魚雷*4以上
通信力 中攻に同じ 主装置3000浬(短波)
副装置1500浬(長短兼用)
隊内通信機装備
方位測定機装備
主装置3000浬(短波)
副装置1500浬(長短兼用)
隊内通信機装備
方位測定機装備
写真電送装置
主用高度 3000m
乃至
10000m
3000m
乃至
8000m
3000m
乃至
8000m
記事 中攻に同じ

燃料槽、主操縦者を防御す
1) 編隊行動容易なること

2) 過荷重無風時50秒以内において離水可能

3) 中型小型爆弾多数搭載可能なること

4) 1500kg魚雷または150番爆弾搭載可能

5) 翼端機として爆弾(魚雷)を減じ射撃兵装防御を増強す

6) 繋留中搭乗員約半数艇内に当直し得る設備あること

7) 写真は電送機装備を考慮すること

8) 地上飛行機銃撃を考慮すること
1) 3機程度編隊行動可能なること

2) 過荷重無風時60秒以内にて離水可能

3) 中型小型爆弾多数搭載可能なること

4) 燃料槽、主操縦者を防御す

5) 繋留中搭乗員約半数艇内に当直し得る設備あること

6) 写真は電送機装備を考慮すること

7) 地上飛行機銃撃を考慮すること





 昭和十三年の性能標準案はその後の海軍爆撃機群の性格をほぼ規定する内容を持っていましたのでその後の改定は部分的なものに留まりますが、艦爆の爆弾搭載量の増大が、後の艦爆、艦攻の機種統合の下地を形成し昭和十五年の艦攻の「記事」には艦爆との機種統合が見られるようになり、各種装備品の中には写真電送装置等、偵察用機器の充実もまた検討されています。防御火器としては13粍機銃の検討が始まり、支那事変の戦訓の取り入れが進みます。翼端援護機の発想も現れ、大攻の防弾についても燃料槽と操縦者という防御の重点が指示されるようになります。
 また、攻撃機の特性の第一は依然高速水平爆撃ですが、十五年には編隊雷撃という用語が現れ、雷撃への期待が復活した気配も見られます。この攻撃機の高速水平爆撃重視指向は、航空魚雷の開発の停滞もさることながら、支那事変勃発後の攻撃機の損害から、水平爆撃ですら対空砲火でこれだけの損害が出る以上、超低空攻撃となる航空雷撃は将来不可能になるのではないか、とする危惧から雷撃無用論が唱えられた、といった航空雷撃を取り巻く環境が反映された結果と見ることもできます。
 しかし、十三試大攻が試作される状況下で、将来の大型陸上攻撃機のスペックが段々とあの「富嶽」に近づいているような気がするのは私だけでしょうか。魚雷の多数装備、地上銃撃等、中島知久平がZ飛行機に託したコンセプトは、実は海軍航空本部内に既に存在していた物の延長線上にあるものだったとは考えられないでしょうか。


激戦に驚愕する昭和十八年


航空機機種及性能標準(案)
(練習機及飛行船を除く) 昭和十八年二月二十五日 軍令部

機種 艦上攻撃機 陸上爆撃機 中型攻撃機 大型攻撃機 中型飛行艇
使用別 航空母艦 基地 基地 基地 基地
用途 敵艦艇攻撃 艦船及び要地攻撃 要地又は艦船攻撃 中攻に同じ 偵察
捜索
触接
特性 1) 急降下爆撃容易なること

2) 高速水平爆撃容易なること
1) 降下爆撃(45度5G付近)容易なること

2) 高速水平爆撃、雷撃容易なること

3) 最高速力を極力向上す
1) 高速水平爆撃容易なること

2) 13粍以上機銃弾に対する防弾装置を考慮すること

3) 下記性能満足の上は極力最高速力航続力の増加をはかること
中攻に同じ 1) 偵察性能優秀なること

2) 高速水平爆撃可能なること

3) 13粍以上機銃弾に対する防弾装置を考慮すること

4) 下記性能満足の上は極力最高速力の増加をはかること
座席数 2 3 4又は5 6 6
速力 300ノット以上
6000m
爆撃状態

目標350ノット
8000m
300ノット以上
3000m

目標350ノット以上
8000m
290ノット以上
3000m

目標350ノット以上
8000m
中攻に同じ 280ノット以上
3000m

目標300ノット
6000m
航続力(爆弾魚雷搭載) 高度4000m 爆撃状態
巡航速力にて
1800浬以上
高度4000m
巡航速力にて
2500浬以上
高度4000m
巡航速力にて
1800浬以上
高度4000m
巡航速力にて
3500浬以上
高度4000m
巡航速力にて
3500浬以上
航続力   高度4000m
巡航速力にて
3500浬以上
高度4000m
巡航速力にて
3000浬以上
高度4000m
巡航速力にて
4500浬以上
高度4000m
巡航速力にて
4000浬以上

目標5500浬
機銃 7.9粍又は20粍固定銃*2(300発以上)

7.9粍又は13粍級旋回銃連装*1(500発以上)
20粍旋回銃*2(300発以上)

13粍旋回銃*2(400発以上)

又は7.9粍旋回銃*2
20粍又は30粍旋回機銃(各300発以上)*2

13粍旋回機銃(各400発以上)*2
20粍又は30粍旋回機銃
(各300発以上)*4〜6

13粍旋回銃、7.9粍旋回銃
(各800発以上)*2〜4
20粍旋回銃(300発以上)*2

13粍旋回銃、7.9粍旋回銃
(各800発以上)*4
魚雷又は爆弾 80番爆弾*1
又は魚雷(1200kg)*1
又は25番爆弾*3以上
80番爆弾*1
又は魚雷(1200kg)*1
80番爆弾*1
又は魚雷(1400kg)*1
200番爆弾*1〜2
魚雷(2000kg)*2
25番爆弾*4

目標
25番爆弾*6〜8
6番爆弾*16〜20
通信兵器 電信2000浬(長短兼用)
隊内通信機
帰投装置
電波探信儀
電信3000浬(長短兼用)
隊内通信機
方位測定機
陸爆に同じ 陸爆に同じ 電信3000浬(長短兼用)
方位測定機
電波探信儀
実用高度 2000m
乃至
10000m

目標12000m
2000m
乃至
10000m

目標12000m
2000m
乃至
12000m

目標15000m
2000m
乃至
12000m

目標15000m
3000m
乃至
10000m
記事 1) 離昇距離過荷重状態合成風速12m/秒にて100m以内

2) 夜間飛行夜間発着艦容易なること

3) 高高度雷撃に適する如く考慮すること

4) 爆弾の代りに燃料増槽を装備しうること

5) 煙幕展張装置を装備しうること

6) 80番爆弾1 又は25番爆弾2搭載可能なること

7) 自動操縦装置装備

8) 将来連装旋回銃の装備を考慮すること
固有性能を概ね満足せば極力防御力の増強を図る
1) 中型小型爆弾多数搭載しうること

2) 高高度雷撃に適する如く考慮すること

3) 地上(水上)飛行機銃撃容易なること

4) 夜間飛行容易なること

5) 燃料槽を13粍機銃弾に耐る如く防弾すること

6) 自動操縦装置装備

7) 固有性能を満足せば極力防御力の増強を図る
1) 夜間飛行容易なること

2) 200番爆弾1、80番爆弾2又は200番爆弾1搭載可能なること

3) 高高度雷撃に適する如く考慮すること

4) 中型小型爆弾多数搭載しうること

5) 13粍以上の機銃に対する防弾装置、燃料槽の消火装置

6) 自動操縦装置装備
1) 1) 3) 4) 6) 中攻に同じ

2) 25番爆弾6以上を搭載しうること

3) 搭乗員及燃料槽を20粍機銃弾に対し防御すること
1) 過荷重無風状態50秒以内において離水可能なること

2) 繋留中搭乗員約半数艇内に当直しうること

3) 夜間飛行容易なること

4) 地(水)上飛行機を銃撃しうること

5) 操縦者及燃料槽を13粍以上機銃弾に対し防御す
備考 1.試作緩急順序を次の通とす
  第一 B戦 哨戒兼夜戦 陸攻
  第二 A戦 陸爆 陸偵
  第三 艦攻 艦偵 陸輸
  第四 水戦 水偵 飛行艇
  第五 潜偵 哨戒機 水輸
2.各飛行機に対し左記を考慮す
  イ 陸上機離昇(過荷重状態)距離及び降着距離を700m以下とす
  ロ 敵弾の被害を極小ならしめ且つ修理容易なるが如き構造とす
  ハ 火災防止又は局限法を講ず 機種に応じ搭乗員及燃料槽を防御す
  二 機種に応じ耐熱耐寒儀装及酸素吸入器を整備す
  ホ 消焔消音法を講ず
  へ 艦上機は課荷重重量6500kg以下格納時の折畳み幅8.5m、長さ12m、高さ4.1m以下。艦載水上機は過荷重重量4500kg以下格納時の折畳み幅7.0m、長さ10.9m高さ4.2m以下とす
  ト 遠隔管制射撃装置及び動力銃座を極力利用するものとす
  チ 多発飛行機は前方視界を良好ならしむ
  リ 艦上機及び陸上機は浮揚装置考慮す
  ヌ 艦上偵察機は艦上戦闘機の、哨戒兼夜戦は陸上戦闘機の誘導に任じ得る如く巡航速度を考慮す
  ル 指揮官機を考慮す




 昭和十七年の激戦を経験した海軍は自前の攻撃機の大損害に大きな衝撃を受けていたことがこの性能標準からも理解できます。各機種に防弾防火装備について必ず記述があり、今後13粍以上の口径の機銃弾に対しても防御する必要があることが述べられています。
 艦攻、艦爆は一本化され、新たに急降下爆撃能力を持った陸上長距離攻撃機である陸爆が加えられています。また、陸爆、中型攻撃機とも、夜間行動が重視されていること、雷撃に関しては、今までの編隊雷撃といった構想優先の戦術から魚雷の発達を見込んだ高々度雷撃に予定の戦術が変更されています。これらも大東亜戦争の開戦以降の厳しい戦訓の反映と読むことができます。
 しかし、攻撃面での各機種の特性はさほど変化が無く、開戦後一年が経過したこの時期でも海軍の攻撃機は出来る限り大型の爆弾、または魚雷を以ってする対艦攻撃を重視していたようです。魚雷も従来の九一式(重量はこの頃の型で約1000kg)から1200kg、1400kg、果ては2000kgまで大型化されています。この大攻の搭載する2トン魚雷は連山用の試製魚雷Mを指し、連山が諸外国の四発爆撃機とは異なる長距離対艦攻撃機であることがわかります。四発の大型攻撃機の構想がこうした内容ですので、今度は陸爆の登場とに挟まれた形の中型攻撃機の特徴が曖昧なものになって来ています。陸上攻撃機がその後に大型攻撃機に統合される背景はこうした事情によるのです。また、欄外の各機種開発のプライオリティと航空母艦搭載機の重量、寸法の制限も興味深い所です。


陸海軍機種統合計画


陸海軍協同試作機種及要求性能標準
(昭和十八年六月二十二日軍令部より海軍省に商議したもの)

機種 艦爆 陸爆 近爆 陸攻 遠爆
主要任務 1) 敵艦船の撃沈

2) 敵要地破壊
1) 敵艦船の撃沈

2) 敵要地破壊
1) 敵飛行場攻撃

2) 敵要地破壊

3) 敵艦船撃沈
1) 敵要地破壊

2) 敵艦船の撃沈

3) 遠距離偵察
1) 敵要地破壊

2) 遠距離偵察
特性 1) 急降下爆撃又雷撃容易なること

2) 高速水平爆撃容易なること
1) 急降下爆撃又雷撃容易なること

2) 低高度において優秀なること

3) 高速水平爆撃可能なること
1) 高高度水平爆撃容易なること

2) 急降下爆撃及雷撃可能なること
1) 昼夜間高高度水平爆撃容易なること

2) 雷撃容易なること
1) 昼夜間高高度水平爆撃容易なること
座席数 2 3 4 7 7
速力 650キロ以上
350ノット以上
9000m
艦爆に同じ 650キロ以上
350ノット以上
10000m
600キロ以上
325ノット以上
9000m
600キロ以上
325ノット以上 10000m
航続力(爆弾又は魚雷搭載) 巡航 4000m
465キロ / 250ノットにて
3000km 1800浬以上
巡航 4000m
465キロ / 250ノットにて
3000km 1800浬以上
陸爆に同じ 巡航 4000m
375キロ以上
200ノット以上にて
6500km
3500浬以上
巡航 4000m
375キロ以上
200ノット以上にて
9000km
4900浬以上
航続力       巡航 4000m
7500km以上
4000浬以上
巡航 4000m
10000km以上
5400浬以上
機銃 固定砲20粍*2(各砲150発)

旋回砲20粍(200発)
固定砲20粍*2(各砲150発)

旋回砲20粍二連*2(200発)
固定砲20粍*2

旋回砲20粍二連*2(200発)
旋回砲

前方13粍二連(各砲200発)

尾部20粍二連(200発)

側方13粍二連
左右各一基(各砲200発)

上方及下方
20粍二連各一基(各砲200発)
旋回砲

前方13粍二連(各砲200発)

尾部20粍二連(200発)

側方20粍二連

左右各一基(各砲200発)

上方及下方

20粍二連各一基(各砲200発)
爆弾(魚雷) 500kgを標準とし1200kg魚雷*1
又は800kg爆弾*1を装備し得しむ
500kgを標準とし1200kg魚雷*1
又は800kg爆弾*1を装備し得しむ
陸爆に同じ 1トンを標準とし3トンに増加し得しむ 2トンを標準とし4トンに増加し得しむ
通信兵器 1) 通信装備

2) 無線帰投
方位測定装置
(機上方向探知機)
1) 通信装備

2) 無線帰投
方位測定装置
(機上方向探知機)
電波探信儀
1) 通信装備

2) 無線帰投
方位測定装置
(機上方向探知機)
電波探信儀
1) 通信装備

2) 無線帰投
方位測定装置
(機上方向探知機) 電波探信儀
1) 通信装備

2) 無線帰投
方位測定装置
(機上方向探知機)
電波探信儀
実用上昇限度 12000m 12000m 13000m 13000m 15000m
防護 軽防御   中防御 重防御 重防御
審査完成時期 昭和20年度末 昭和21年度末 昭和20年度末 昭和20年度末 昭和21年度末
摘要 1) 離昇距離は過荷重の場合において合成風速12m/秒にて120m以内とす

2) 自動操縦装置の装備可能なること

3) 雪上装置の装備可能なること

4) 固有性能を満足せば極力防御力の増強をはかること

5) 機上索敵装置(電探)の装備に付研究す
1) 自動操縦装置の装備可能なること

2) 固有性能を満足せば極力航続力の増大をはかること
1) 自動操縦装置装備可能なること

2) 固有性能を満足せば極力防御力の増強をはかること
1) 自動操縦装置装備可能なること

2) 固有性能を満足せば極力防御力及び航続力の増強をはかること
1) 自動操縦装置装備可能なること

2) 固有性能を満足せば極力航続距離及び爆弾搭載量の増大をはかること
備考 防御の基準は13粍弾以上(20粍を目途とす)に対し重防御にありては完全に、中防御にありては略完全に、軽防御にありては可及的実施するものとす
陸爆に関しては十五試双発陸上爆撃機の実験成果により要求性能を変更することあり




 昭和十八年の大きな変化は陸海軍の航空機機種統合が検討され始めた点です。この十八年六月の時点では、単純に陸海軍の機種を併記したに過ぎませんが、この性能標準を読み込めば、どの機種とどの機種とが統合の可能性があるかは比較的簡単にイメージできると思います。事実、そのように機種統合は行われてゆくのです。
 防御面でも、対象を20粍機銃に一本化し、それに対して軽防御、中防御、重防御の三段階のモデルを規定しています。簡潔で判りやすく、標準とは本来こういうものを指すのでしょう。
 この最後の性能標準を見ると、今まで様々な機種が検討されてきた海軍の爆撃機も、突き詰めれば僅かな機種に絞り込めたのではないかとの感想を覚えます。海軍の爆撃機コンセプトをこのように肥大させた原因は何だったのでしょうか。特殊兵器として発達した航空魚雷と大型徹甲弾の為でしょうか。あるいはそれらを生み出した戦術思想でしょうか。それとも、海軍航空隊の存在そのものなのでしょうか。



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