イタリア陸軍砲兵データベース
伊式兵器復習家:まなかじ
manakaji@pop21.odn.ne.jp
やたらと資料の少ない第二次大戦時のイタリア陸軍砲兵ですが、昭和16年当時の我が帝国陸軍技術本部作成の資料を見出しましたので、報告がてらにちょこっと書いてみることにします。
野砲兵
イタリア軍の師団砲兵連隊は100ミリ榴弾砲一個大隊と、75ミリ野砲または山砲二個大隊からなる。山砲で野砲を代替する傾向にあるが、これはイタリア本土の地形に即したものと思われる。
リビアの砂漠では、おそらく英軍の25ポンド砲にアウトレンジされる場面が多かったのではないだろうか。
75ミリ27口径M1911野砲 |
段隔螺式閉鎖機 開脚砲架 |
俯仰角 | +65度〜−15度 |
方向射界 | 52度 |
放列重量 | 1100kg |
初速 | 510m/s |
最大射程 | 8,400m(尖鋭弾使用10,240m) |
砲弾重量 | 6.5kg |
発射速度 | 4〜6発/分 |
師団砲兵に使用される75ミリ野砲で、1911年制式であるが、性能的には日本の九五式野砲に近い。薬莢を使うのに段隔螺式閉鎖機を使うのはフランス風である。
75ミリ13口径山砲 |
段隔螺式閉鎖機 単脚 |
俯仰角 | +50度〜−10度 |
方向射界 | 7度 |
放列重量 | 600kg |
初速 | AP 354m/s HE 349m/s |
最大射程 | 6,800m(M1932尖鋭弾使用 8,250m) |
発射速度 | 4〜8発/分 |
制式年度が不明だが、かなりの旧式砲と思われる。日本軍でいえば四一式山砲あたりに相当するだろうか。
野山砲として方向射界7度というのはかなりさみしいものがある。この砲も師団砲兵用ということだが、こういうのを持たされる師団というのは…。
75ミリ18口径M1934山砲 |
水平鎖栓式閉鎖機 開脚砲架 |
俯仰角 | +65度〜−10度 |
方向射界 | 48度 |
放列重量 | 780kg |
初速 | 430m/s |
砲弾重量 | 6.35kg(HE 炸薬量346g) |
日本の九四式山砲にほぼ匹敵する山砲で、イタリア陸軍の主力野砲でもある。師団砲兵として広く使用され、歩兵連隊砲としても配備されている。
75ミリ18口径M1935山砲 |
水平鎖栓式閉鎖機 開脚砲架 |
俯仰角 | +45度〜−10度 |
方向射界 | 50度 |
放列重量 | 710kg |
M1935の砲架をより軽量化した、アルプス師団、山岳師団及び快速師団(必ずしも全機械化師団というわけではない)用の山砲で、砲身その他はM1935と同一。射撃性能にもほとんど差異はない。
100ミリ17口径M1914榴弾砲 |
水平鎖栓式閉鎖機 単脚 |
俯仰角 | +48度〜−8度 |
方向射界 | 5度21分 |
放列重量 | 1,400kg |
初速 | 399m/s 〜430m/s |
最大射程 | 8,200m(M1932尖鋭弾使用 9,290m) |
砲弾重量 | 13kg |
発射速度 | 4〜6発/分 |
一般師団砲兵連隊の「重」大隊が標準的に装備する10榴。日本の九一式十榴にあたるが、各師団への充足率は高かったようである。
100ミリ17口径M1916榴弾砲 |
水平鎖栓式閉鎖機 単脚 |
俯仰角 | +70度〜−8度 |
方向射界 | 5.5度 |
放列重量 | 1,224kg |
アルプス師団、山岳師団の砲兵連隊の「重」大隊が装備する、10糎山砲ともいうべき榴弾砲。日本軍の九九式山砲に相当するだろう。例によってM1914と砲架以外は共通である。10糎級ともなると、こうした砲架の変更は射程の減少を招くと思われるが、残念ながら数値がない。
野戦重砲兵
ほぼ日本軍と似たようなラインナップで、やはり、やや射程が短い傾向が見られる。冶金や造砲の技術力では、日本とイタリアはいい勝負だったのではないだろうか。
十五加、十五榴の口径はドイツや日本と同じく149ミリを主用している。
105ミリ28口径加農砲(シュナイダー) |
段隔螺式閉鎖機 開脚砲架 |
俯仰角 | +35度〜−5度 |
方向射界 | 14度 |
放列重量 | 2,500kg |
最大射程 | 11,400m(尖鋭弾13,600m) |
砲弾重量 | 16kg |
発射速度 | 2発/3分 |
おそらく、第一次大戦時にフランスから供与または購入した砲と思われる。
105ミリ32口径新加農砲 |
最大射程 | 16,000m |
これといってデータがなく、昭和16年当時まだ日本に情報が伝わっていなかったか、時代的に考えて試作どまりに終わっていた可能性もある。欧州では十加は中途半端な砲種と考えられている節もあり…。
149ミリ35口径加農砲 |
段隔螺式閉鎖機 単脚 |
俯仰角 | +35度〜−10度 |
方向射界 | ナシ |
放列重量 | 8,200kg |
最大射程 | 12,900m |
初速 | 584m/s 〜234m/s |
砲弾重量 | 41kg |
発射速度 | 8〜10発/毎時 |
駐退機を持たず、砲車を履板(放物線斜面になっている後台と、車輪止めのセット)に載せて駐退復座をさせる旧式砲。とはいえ、英軍や仏軍もこの手の砲を第二次大戦で使っており、イタリアばかりがボロっちいというわけでは決してない。ドイツがこの手の砲を持ってないのはベルサイユ条約で取り上げられてしまったからだし、日本やアメリカは重砲そのものが遅れてて、ロシアも革命の混乱があって、ということにすぎないのだ。
152ミリ37口径加農砲(正確には36.62口径) |
段隔螺式閉鎖機 単脚 |
俯仰角 | +45度〜−6度 |
方向射界 | 6度 |
放列重量 | 13,000kg |
最大射程 | 20,000m |
砲弾重量 | 46kg |
発射速度 | 8〜10発/毎時 |
牽引は二車、砲架車7.9トン、砲身車8.5トン |
152ミリというのはイタリア軍が常用する口径ではないので、チェコあたりから買った砲かもしれない。
149ミリ40口径M1935加農砲 |
段隔螺式閉鎖機 開脚砲架 |
俯仰角 | +60度〜0度 |
方向射界 | 45度 |
放列重量 | 11,300kg |
最大射程 | 22,600m |
初速 | 800m/s |
砲弾重量 | 46kg |
発射速度 | 1発/分 |
牽引は二車、砲架車6.54トン、砲身車7.8トン |
日本でいうと八九式十五加に近いが、やや重く、多少長射程。同様に二車に分割して牽引する。まともな加農砲はこれくらいしかないようだが…。
152ミリ13口径榴弾砲 |
前装 火門式 単脚 |
俯仰角 | +45度〜0度 |
方向射界 | 8度 |
放列重量 | 3,700kg |
最大射程 | 9,500m |
砲弾重量 | 45kg |
発射速度 | 8〜10発/毎時 |
これは、さすがにこの世のモノではない。おそらく、9500mの射程と45kgの砲弾重量を買われて、駐退機を追加するなど改装を重ねて現役に踏みとどまっていたのだろうが…。前装砲とは。
149ミリ12口径M1914榴弾砲(クルップ) |
水平鎖栓式閉鎖機 単脚 |
俯仰角 | +43度〜−5度 |
方向射界 | 5度 |
放列重量 | 2,344kg |
最大射程 | 6,800m |
初速 | 300〜207m/s |
砲弾重量 | 41kg |
発射速度 | 2発/3分 |
同じくクルップ製の三八式十五榴を、軽量化して射程を延ばした感じ。9年のうちのクルップの設計技術の進歩が感じられる。
149ミリ13口径榴弾砲 |
水平鎖栓式閉鎖機 単脚 |
俯仰角 | +70度〜−5度 |
方向射界 | 8度 |
放列重量 | 2,800kg |
最大射程 | 8,200m |
初速 | 346〜213m/s |
砲弾重量 | 41kg |
発射速度 | 2発/3分 |
日本の四年式十五榴にほぼ相当する性能である。M1914を改良の上、国産化した砲なのだが制式年度が記されていない。
149ミリ19口径M1937榴弾砲 |
段隔螺式閉鎖機 開脚砲架 |
詳細データの記載はなし。これも比較的新型の砲のため、データ収集が間に合わなかったか。「九七式」なので、期待できそうなのだが…。変わっているのは、俯仰を車輪にかませたジャッキで行なうことで、おそらく砲車の軽量化及び簡易化を狙ったものと思われる。
攻城重砲
この砲種では、日本よりも若干充実していると言える。痩せても枯れてもヨーロッパの陸軍である。
305ミリ17口径榴弾砲 |
段隔螺式閉鎖機 架筐式砲架 |
俯仰角 | +70度〜−5度 |
方向射界 | 360度 |
放列重量 | 33,800kg |
最大射程 | 17,000m 〜14,000m |
砲弾重量 | (軽量弾)300kg (重量弾) 350kg |
発射速度 | 5発/毎時 |
四分割牽引 |
これはかなりの優秀砲と言える。発射速度が速いのは、駆動に電動機を使用して、全機力で旋回俯仰装填を行なえるからである。
210ミリ22口径榴弾砲 |
段隔螺式閉鎖機 開脚砲架 |
俯仰角 | +70度〜0度 |
方向射界 | 75度 |
放列重量 | 15,880kg |
初速 | 570m/s(一号装薬) |
最大射程 | 16,000m(一号装薬・10kg) |
砲弾重量 | 102kg(炸薬量15.7kg) |
発射速度 | 0.5発/分(仰角20度) 0.25発/分(仰角60度) |
砲身命数 | 1000発 |
内筒交換所要時間 | 1時間 |
放列布置所要時間 | 20分 |
砲手 | 12名 |
二分割牽引(M1932重牽引車を使用) 砲架車10,800kg 砲身車8,200kg |
イタリア軍砲兵の白眉と言える優秀砲で、陸軍も大いに興味があったのか、データ収集も詳細である。これだけの性能の大口径砲を16トン以内で開脚砲架にまとめたというのは、スゴイ。M1937十五榴にも使われている車輪託板上下式の俯仰システムを採用している。
305ミリ10口径臼砲(正確には9.5口径) |
水平鎖栓式閉鎖機 砲床式砲架 |
俯仰角 | +65度〜+45度 |
方向射界 | 360度 |
放列重量 | 23,000kg |
砲弾重量 | 320kg |
発射速度 | 5発/毎時 |
三分割牽引11,800kg 11,900kg 12,100kg |
水平鎖栓を使用しているということは、ドイツ製の可能性が高い。
260ミリ9口径M1916臼砲 |
段隔螺式閉鎖機 架筐式砲架 |
俯仰角 | +65度〜+20度 |
方向射界 | 6度(有限旋回60度) |
放列重量 | 11,800kg |
最大射程 | 9,100m |
砲弾重量 | 220kg |
発射速度 | 5発/毎時 |
210ミリ8口径臼砲(DS) (正確には8.8口径) |
段隔螺式閉鎖機 砲床式砲架 |
俯仰角 | +70度〜−15度 |
方向射界 | 360度 |
放列重量 | 7,800kg |
初速 | 345m/s 〜183m/s |
砲弾重量 | 100kg |
発射速度 | 8〜10発/毎時 |
DSとは、何の略だろうか…? 臼砲としては俯角が取れるというのが珍しい。
高射砲兵
こちらはあまり芳しい砲がない。おそらく100ミリ級の重高射砲もあるはずなのだが、この資料には抜けているようである。ドイツから相当数の88oFlakの供与も受けているが…。また、高射機関砲ももう少しあるはずである。
75ミリ46口径M1934高射砲 |
水平鎖栓式閉鎖機 十字砲架 |
俯仰角 | +90度〜0度 |
方向射界 | 360度 |
放列重量 | 3,300kg |
初速 | 800m/s |
最大射程 | 15,400m |
最大射高 | 10,400m |
弾薬筒重量 | 10.7kg |
砲弾重量 | 6.5kg |
発射速度 | 25発/分 |
75ミリ級としてはかなりましな部類に入ると思うのだが…次に制式化されたM1935との兼ね合いはどういうものなのだろうか?
75ミリ40口径M1935高射砲 |
水平鎖栓式閉鎖機 十字砲架 |
俯仰角 | +80度〜0度 |
方向射界 | 360度 |
放列重量 | 3,300kg |
初速 | 690m/s |
最大射程 | 10,000m |
最大射高 | 6,000m |
砲弾重量 | 6.3kg |
発射速度 | 25発/分 |
これは…おそらくまるきりの新型砲ではないだろう。旧式のものの改造か、砲架を変更した転用砲なのではないだろうか?
イソタ20ミリ高射機関砲 |
ガス圧/反動利用式 三脚砲架 |
砲身長 | 1.47m |
俯仰角 | +85度〜−10度 |
方向射界 | 360度 |
放列重量 | 300kg |
初速 | 830m/s |
最大射程 | 3,500m |
最大射高 | 2,000m |
発射速度 | 280〜300発/分 |
12連保弾板(5.58kg) AP500mで30o鋼鈑を射貫 挽曳1頭 五分割駄載 |
ブレダ20ミリM1935高射機関砲 |
ガス圧利用式 三脚砲架 |
砲身長 | 1.3m |
俯仰角 | +80度〜−10度 |
放列重量 | 308kg |
初速 | AA 830m/s AP 900m/s |
最大射程 | 5,000m |
最大射高 | 2,000m |
発射速度 | 200発/分 |
結び
原本は図も何もないデータのみ記載の資料ですし、抜けている部分、誤植と思われる部分も多く、また未記載の砲種がまだかなりあるものと思われます。
ただ、まとまって(日本語で)読めるイタリア陸軍兵器の資料としては貴重なものと思えましたので、単純ミスと思われる部分以外はほとんどそのまま引用して、ごく簡単にコメントをつけてみました。
読者諸賢のご叱正を賜れれば幸いです。
参考文献
伊國陸軍兵器資料(昭和16年1月・陸軍技術本部)
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