空母搭載機の真実
旧式空母搭載家 BUN
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みなさん、こんにちは。日々仕事に勉強に精を出しては結局酒に溺れて全てを失う運命を甘受しているBUNです。今日は我が帝国海軍の航空母艦の搭載機について検討してみましょう。
空母というのは空と海との両方に関わりのあるロマンチックで大変結構な艦種ではありますが、世の中というものはうまく行かないもので、空ファンからはフネである航空母艦については考察されることが無く、船ファンからは飛行機について本腰を入れた検証が為されることが無い為に、空母搭載機の常識というものは、何だか首を傾げたくなるものが多く今ひとつスッキリしません。そこで今日は「何を食べても美味しい」性質の私が少々の考察を述べたく思います。
常識その1 大型化した新型機搭載の為に搭載機数が減少した?
航空母艦の搭載機は計画当初の搭載機が代替わりして新型になると、新型機の寸法拡大の為に搭載数が減少して行った、と思われている方が比較的多いように見受けられます。無理もありません。そう書いてある本が多いからです。しかし本当にそうなのでしょうか。確かに零戦は九六式艦戦よりも多少大きな機体であるような気がします。新型機は確かに少しずつ大きくなっているようです。ですが、それならば何が何メートル大きくなった為に何機減少せざるを得なくなったのか、何かで補われなくてはならなかったはずの空母の航空攻撃能力は一体どう考えられていたのか、そうしたことを明確に語った解説書は実に少ないものです。次の表を御覧ください。
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これは昭和16年の各航空母艦の新旧搭載機搭載状況です。
この表にある通り、各航空母艦は九六艦戦、九六艦爆、九七艦攻当時に対して零戦、九九艦爆、九七艦攻に搭載機を変更しても、その常用機数はほぼ変化が無いことが判ります。
常用機数、すなわち実際に戦力となる機数はほぼ変化がありません。空母の戦力として海戦当日に使用できる機数は旧型機搭載時と変わりが無いのです。その代わり補用機の数が、特に艦爆において目立って減少しています。これは図面などから推測すると、恐らく新しい九九艦爆は分解格納時にとことん分解できる九六艦爆より遥かに場所をとってしまうことが大きく響いていると考えられます。影響したのは新型機の大きさだけではないのです。
また、補用機も含めた搭載機数の減少率も表に付け加えていますが、ここにも注目してください。隼鷹以上の大型の空母では多少の差はありますが、新機種搭載による搭載機の減少はほぼ10%程度に収まっています。ところが、小型空母の搭載機の減少は20%程度とより大きな減少率を示しています。この原因はどうも飛行甲板上にあるようなのです。
常識その2 日本空母は搭載機の露天繋止をしない?
小型空母搭載機数は格納庫収容機数とす 戦闘機及び爆撃機補用機は分解格納す |
上の表を見てください。これは各航空母艦の搭載機の格納状況を調べたものです。この表で注目すべきことは各母艦の搭載機の内、それなりの機数が飛行甲板上に露天繋止されていることです。赤城も加賀も翔鶴、瑞鶴も露天繋止が常識だったのです。露天繋止される機種が艦爆であるのは、艦爆が前路哨戒の任務を負っていたことに関係があるのではないかと想像しますが、とにかく主力空母の飛行甲板上には露天繋止された搭載機の姿が常にあったのです。更により小型の空母を見ると、この露天繋止機がありません。常識的に考えると格納庫の収容能力の小さい小型空母ほど搭載機の露天繋止を実施していそうなはずですが、現実は逆であり、露天繋止機は大型空母にしか見ることができません。
これはその航空母艦の搭載機格納能力よりも、飛行甲板の幅、長さが問題であり、発着に影響が出る為に露天繋止できないことが原本の備考欄に触れられています。瑞鳳等の小型空母に零戦を5機まで露天繋止できる余地があるが、熟練搭乗員の配置が前提である、との注記があるのです。
日本空母は露天繋止を常に実施しており、それは小型空母ではなく大型空母において行われるものだったのです。
常識その3 戦闘機の搭載数が少ないのが日本空母の欠点?
次の表はミッドウェー直前の各航空母艦の零戦搭載余力についての調査です。
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この表では、各航空母艦が定数の搭載機を搭載した上に何機の零戦を増載できるかということを示しているのですが、注目したいのは増載するのが、艦攻でも艦爆でもなく、戦闘機である零戦だと言うことです。
実際にはミッドウェー海戦でのミッドウェー島進出予定の六空零戦隊の搭載と海戦での戦闘参加、という形でこの表の内容はほぼ実施されていますが、その際の全搭載機に対する戦闘機の割合を計算してみましょう。赤城で38%、翔鶴型においては全搭載機の44%が戦闘機で占められることになります。搭載機の定数は定数、しかし、決戦局面では航空母艦は戦闘機を増載して出撃する、ということがこの表の内容なのです。よく戦記などで搭載機の割合について批判されますが、調べてみれば日本空母が戦闘機の搭載に消極的であったとは早計な結論であることがわかります。
常識その4 補用機は分解格納される?
次に補用機について少し説明します。字面だけではお馴染みのこの言葉も、果たしてその実態が説明された市販資料はほとんどありません。資料の無いまま憶測のみが伝わっていますが、補用機とはどんな存在だったのでしょうか。
航空隊に配備される機数の内、常用機は日常、訓練、演習などに使用される機体のことです。各部隊はこの常用機の機数をベースに訓練、作戦する訳ですが、これは年度の予算で配備されるもので、事故などで損失した場合、訓練等の業務に支障が出る為に補用機が常用機に加えて配備されます。もし、この補用機まで損失してしまった場合、追加の補充はまず年度内には望めず、次年度の補充まで、業務に支障が出ようとも原則として厳しく放置されるのが常識でした。ですからこの補用機というものは、特に平時においては「何号機の調子が悪いので補用機を出す」といった形で簡単に使用されるものではありません。非常の際以外は原則として手をつけない本当の予備機だったのです。
戦時の航空母艦においてもそうした原則のもとに補用機は扱われていますが、戦時の補用機は平時のそれとは少しニュアンスが異なります。
補用機は分解格納されている、と一般には考えられがちですが、これは全ての機種に当てはまる訳ではなく、艦戦、艦爆の補用機は分解格納、艦攻の補用機は組み立てた状態で格納とされています。しかも、分解格納される原則の艦戦、艦爆も、実際には分解格納機と組み立てた状態で格納される機とに分かれており、補用機の性格が段々と準常用機に近づいて行く傾向が見られ、その後戦争後期に向かうに従い、補用機そのものの姿が母艦上から段々と消えて行きます。
常識その5 次期搭載機は烈風・流星?
次は新型搭載機を現用空母に搭載した場合の試算です。
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空母の搭載機は真珠湾の三機種の次に彗星、天山の組み合わせがあり、その後烈風、流星の組み合わせに移行すると考えられがちですが、流星は十六試艦爆兼艦攻であり、烈風よりも実用化が早いと見込まれた機体なのですから、当然、ある時期には零戦と流星の組み合わせが検討されていてもおかしくない訳です。
この表では流星搭載の為に搭載機数が減少する様子がはっきりと読み取れます。これはプラモを作る方ならば常識でしょうが、流星が九七艦攻に較べて大型化した為ではありません。流星の格納状態は九七艦攻と殆ど差がない大きさです。ということは新型機である流星の発着問題が響いていると考えて良いでしょう。
しかし流星も満載状態での発艦は困難だったと思われますが、彩雲も心配ですね。満載状態での通常の発艦は相当困難だったのではないでしょうか。カタパルト、発艦促進ロケットの研究試作が進められた背景がこうした新型機の発着性能であったことは疑えません。
しかし、この表で楽しいのは「昭和十九年末の空母赤城」といった架空の設定で模型を作る際にリアリティのスパイスを効かせることが出来ることですね。単に本当の事が判るだけではなく、楽しめなければ苦労して調べる甲斐がありません。
常識その6 大鳳の搭載能力は小さい?
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これは建造中の航空母艦の搭載機についての一覧です。
この時建造が進んでいた大鳳の搭載機の予定数は各機種合わせて82機、決して少ない数ではありません。大鳳の搭載定数として伝えられる数字とのギャップの謎は今後の宿題ですが、例えばここで飛行機隊、一隊18機、で三隊半搭載、補用機19機として計算されている搭載定数と実際の搭載能力とは別のものであるということです。
改大鳳型の搭載数は流星の搭載を前提に計算されていますがやはり減少しています。一方、改三〇二型、雲龍の改型では搭載機が増加しており、これも謎なのですが、この頃研究されていたカタパルトの装備か、搭載方法の改良がこの艦型から実施される予定であったと考えることもできます。
常識その7 信濃の搭載機は47機?
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これが最後の資料ですが、レイテ海戦直前の航空母艦の搭載機です。もちろんこの構成のまま実戦に参加した訳ではありませんが、本来の状態としてこうした機種をこの機数だけ搭載する予定であったということだと思ってください。
中でも信濃の搭載機が各機種合計50機であることも面白い数字です。この50機という機数は信濃の格納庫に全て収容できる機数(艦戦、艦攻合計約50機が収容可能と考えられます)のようで、信濃の飛行甲板上は常時クリーンで発着自由であったものと思われます。これは信濃の独特の運用構想が影響しているのでしょうか。しかし広大な甲板上での露天繋止可能機数を考えると空母信濃の最大搭載時の攻撃力はかなりのものと考えられます。雲龍型二隻を潰して信濃の建造を行った甲斐があるというものです。信濃ファンの方々、良かったですね。
終わりに
日本の航空母艦の搭載機について、いくつかの通説に挑戦してみましたが、ここで挙げた搭載機数と搭載機種の内容はその時点での唯一のものではなく、実施可能である幾つかの案と共に提示される性質のものです。例えば翔鶴第一案、第二案、と続き、ある時期の飛鷹などでは第七案までの組み合わせが存在するのです。その辺も含み置いて今回の資料の数字を想像の元として楽しんでいただきたいと思います。
資料発掘も数字調べも、楽しくなけりゃやる意味が無いですからネ。
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