作戦要務令

第四部


湿地及び密林地帯に於ける行動

通則
  1. 第1
    本書は作戦要務令の一部として、湿地及び密林地帯に於ける行動に関し、特異の事項を記述するものとす
  2. 第2
    湿地及び密林地帯に於いては、障碍の連続、連絡の杜絶、宿営及び給養の不便、補給の困難、密林内に於ける方向維持の困難及び通視距離の短小、湿地内に於ける障碍程度の不明等に依り、其の行動に著しく制限を受け、動もすれば将兵に不安の念を与え錯誤撞着に陥り易し。然れども、此の種地形に於ける訓練と体験とを有する軍隊は、著しく困難なる行動をも敢行し得るものとす
  3. 第3
    湿地及び密林地帯を行動するに方りては、軍隊は準備を周到にし、如何なる湿地又は密林に遭遇するも、必ず之を克服するの自信力を保持し、地形の特質に応ずる軍隊の部署、及び臨機の装備を適切ならしめ、困苦欠乏に堪え、堅確なる意志と旺盛なる企図心とを以って、一意任務の遂行に邁進するを要す
  4. 第4
    湿地及び密林地帯に於ける行動は、通過地帯の全深に亙る偵察、其の他周到なる事前準備を整えたる後実施すること緊要なり。然れども、軍隊は準備の余裕少なき場合、或は全深に亙る偵察不可能なる場合に於いても、逐次の偵察と機宜に適する処置とを以って行動し得ざるべからず
  5. 第5
    湿地地帯の夜間行動及び密林地帯の行動に於いては方向の維持極めて緊要なり。之が為、局地の地形に幻惑せらるることなく通路の決定を適切にし、手段を尽くして其の方向を維持し、且つ行動間常に之が点検を実施するを要す。磁針の局所偏差を有する地帯の通過、及び不正確なる地図を使用する場合に於いて特に然り
  6. 第6
    湿地地帯に於いては遮蔽物に乏しく、且つ草原内に生ずる交通跡は敵の空中捜索に対し之を秘匿すること困難なるを以って、軍隊は夜間、濃霧等を利用するの外、特に対空警戒を厳にするを要す
    密林地帯に於いては軍隊を遮蔽するに適すと雖も、一度其の企図を暴露するときは敵をして対応の処置を講ずる為十分の余裕を得しめ、且つ我が不利なる態勢に乗ぜしむるの危険大なるを以って、将兵は厳に不用意なる行動を戒め、敵に捜索の端緒を与えざること緊要なり
  7. 第7
    湿地及び密林地帯に於ける行動の難易、特に通過速度は編成装備に依り著しく差異あり。故に、軍隊は之に創意を加え、又臨機改編して地形に適応せしむること緊要なり
    湿地及び密林地帯を通過する縦隊は其の行動を容易ならしむる為、之を適宜梯隊に区分し、行李、車輌部隊等は別の梯隊と為し、所用の施設を行いつつ続行せしむること少なからず
  8. 第8
    湿地及び密林地帯に於ける行動の成否は進路開設の適否に関すること最も大なり。之が為、進路の選定及び作業隊の部署を適切にし、又、軍隊は開設作業の進捗のみを待つことなく自ら進路を補修し、或は進んで作業を援助し、協同一致迅速なる行動を為し得ざるべからず
    将校は兵種を問わず各種地障に於ける通過設備の要領に通じ、軽易なる施設は各兵自ら之を実施し得ざるべからず
  9. 第9
    湿地及び密林地帯に於ける補給は適時に行われ難きを以って、軍隊は作戦の推移を予察し、所要の弾薬、糧秣等を自ら携行するを要す