作戦要務令

第三部


第8篇 宣伝の実施及び防衛

第2章 宣伝の防衛
  1. 第300
    敵の宣伝を防衛すべき根本要件は、我が戦争の本義を理解し、全軍の結束を愈々堅実にし、忠勇義烈、戦捷の一途に邁進すると共に、常に環境に注意し、苟も敵の宣伝に乗ぜらるるの隙なからしむるに在り
  2. 第301
    宣伝は、敵に先んぜらるるときは其の先入感(原文ママ)の是正困難なり。故に、我が軍に対する敵の宣伝を予想するときは、直ちに将兵に十分なる理解と自覚とを与え、又、我が軍に関する宣伝を予想するときは之に先んじて反宣伝を行う等、防衛の実施は極めて機を制し、主導的に行うこと緊要なり
  3. 第302
    敵の宣伝に対しては、速やかに其の侵入の途を精査し、適切なる方法に依り之を遮断するを要す。之が為、作戦地及び関係ある地方に於ける各種思想団体其の他の結社、金融機関、通信機関等に深く留意し、各種刊行物、郵便物、無線其の他の通信、絵画、写真、檄文等の点検及び取締ならびに各種秘密通信の捜査を周到ならしむること緊要なり。此の際、屡々内地よりの私信を装う危険文書あるに注意するを要す
  4. 第303
    宣伝に関する敵の企図、宣伝の内容等を詳細に探査し、常に之が実況を明かならしめ、又、敵の宣伝の信憑するに足らざる事実を調査するは、宣伝の防衛を的確有効ならしむる為緊要なり
    各種情報を整理統合するときは、往々敵の宣伝企図、又は其の内容等を判断し得るものとす
  5. 第304
    敵は突然荒唐無稽の辛辣なる宣伝を行い、之が対策を講ずるの遑なからしめ、或は我が注意を他に牽制し、又は頻時の対策に疲れしめ、或は全く隠密なる方法を長時日に亙り反復する等、各種の手段を尽くして我が意表に出でんことに勉むべきを以って、之が対策を誤らざるを要す
  6. 第305
    流布せられたる敵の宣伝に対しては、其の虚偽に属する点を摘発し、深刻なる反駁を加えて、之を無効に終らしめ、或は其の宣伝材料を巧に逆用し、却って敵の弱点を立証する等、臨機の対策を適切ならしむるを要す
  7. 第306
    敵の宣伝及び我が対策が如何なる効果を呈しつつありやは常に細心の注意を以って観察し、機宜の処置に於いて欠くる所なきを要す。一笑に附するが如き敵の宣伝と雖も、之を執拗に反復せらるるときは不知不識の間に之を信ずることあるに注意するを要す
  8. 第307
    我が軍以外に対して行わるる敵の宣伝に関しても亦、其の特質上深き考慮を要するものあり。就中、我と我が同盟国軍民とを離間し、或は我が軍背後に反軍思想を扶植し、或は我が後方の住民を使嗾して騒擾を惹起せしめんとする場合等に於いては、之が防衛の為、軍は関係諸機関と協力し必要の処置を講ずるを要す