1936年発布

赤軍臨時野外教令


第七章 攻撃
  1. 其の四 河川を渡河して行う攻撃
    1. 第213
      渡河の為最も有利なる地区左の如し
      1. 敵に対し側射若しくは十字砲火を加え、渡河中の部隊を敵に遮蔽し得るが如き、河川の我が方に屈曲せる部分
      2. 我が方の河岸やや高くして敵陣地の内部を通観し得、渡河部隊の近接を敵に遮蔽し得る方面
      3. 浅瀬若しくは中洲を有し、河床良好にして架橋に便なる部分
    2. 第214
      渡河攻撃成功の要件左の如し
      1. 渡河の奇襲、準備の秘匿、遺憾なき諸準備の遮蔽
      2. 為し得る限り数箇所に於ける一斉渡河
      3. 陽渡河を以ってする欺騙行動
      4. 周到なる渡河計画、豊富なる渡河材料の準備
      5. 敵岸に於ける火力資材の制圧に十分なる制圧資材の配属
      6. 良好なる渡河点の対空防禦
    3. 第215
      渡河攻撃に先んじて実施すべき事項左の如し
      1. 予め河川及び其の沿岸地区の地形を偵察す
      2. 我岸に於ける敵の前方部隊を掃蕩す
      3. あらゆる渡河材料を渡河点に運搬集結す(敵に偵知せられざる如く、主として夜間之を行う)
      4. 渡河計画を策定す
    4. 第216
      予想渡河点の偵察は、空中写真、地誌、地図、及び地方住民の言に依りて得たる情報を基礎として実施せらる。凡て此れ等の情報は到底之を以って幕僚幹部の偵察、及び河川其のものに対する技術兵の専門的偵察の結果に代え得るものにあらず
      我が方の河岸地区に在る敵の部隊及び捜索機関は予め之を掃蕩し、若し毒化地域あらば速かに之を消毒せざるべからず
      一般的ならびに技術的偵察と共に、其の他の各兵種も亦夫々所要の偵察を行う
    5. 第217
      師団地区に於いては渡河部隊相互の協同動作を容易ならしむる如く、為し得る限り2又は3個以上の渡河点を設定すべし。渡河点の数を決定するに当りては、何れの渡河点に対しても砲兵の支援を与え、十分なる渡河材料を配当し得べきことを考慮せざるべからず。殊に師団打撃部隊に対しては大部の渡河材料を配当するを要す
      某渡河点に於いて渡河する兵団(部隊)の指揮官は渡河指揮官となり、各種技術資材、砲兵資材、及び其の他の資材を配属せらる
      配属技術部隊の技術幹部は渡河の技術的指導者なり。某渡河点に於いて渡河作業に任ずる技術兵指揮官は、当該渡河点司令官を命ぜらるるものとす
    6. 第218
      渡河計画は敵岸に於ける戦闘計画を基礎として立案せらるるを要す
      兵団幕僚は、砲兵、技術兵、通信、及び化学勤務の各長官と共に渡河計画を立案す
      渡河計画に於いて考慮すべき事項左の如し
      1. 各渡河点に応ずる兵力資材の配当
      2. 一回の渡航に於ける渡河材料の積載能力
      3. 各渡航所要時間
      4. 軽架橋及び縦隊橋架設を掩護する為、敵岸に於いて占領すべき線
      5. 各橋梁架設所要時間
      6. 水陸両用戦車の渡河
      7. 浅瀬の利用
      渡河計画は計画表として渡河各部隊に配布せらる。本計画に示すべき事項左の如し
      1. 軍隊区分ならびに各渡河点に対する渡河材料の配当
      2. 梯団毎に軍隊の渡河順序ならびに上陸点
      3. 各梯団渡河時期の概定
    7. 第219
      渡河は夜暗を利用して奇襲的に実施せらる
      装備優良なる歩兵の小部隊は、夜暗を利用し軽渡河材料を以って迅速に渡河を決行し、先ず敵の第一線火点を占領す。次いで諸兵連合の部隊渡河を開始し、師団砲兵は弾幕射撃を以って夜間占領を予定せる地線獲得に必要なる地域を掩護す
    8. 第220
      昼間渡河を行う場合に在りては砲兵の準備砲撃は特に重要なり。其の実施要領は一般攻撃戦闘の原則に準拠す。但し此の際、特に敵の観測所及び直接渡河点を火制し得べき火点の制圧に努むるを要す
      歩兵重火器(機関銃、連大隊砲)も亦本期間渡河準備射撃を行う。之が為、此れ等の重火器は予め河岸に推進せられざるべからず
      渡河部隊渡河後、砲兵は歩兵及び戦車の前進に伴い火力を以って之に随伴し、敵砲兵陣地地域に到るまで之を継続す
    9. 第221
      準備砲撃の掩護の下に水陸両用戦車先ず泳行し、次いで先遣部隊たる歩兵の一部軽渡河材料を以って敵岸に前進し、我が砲兵の撲滅し得ざる直接河岸に在る敵火点を制圧す
      続いて第一梯団(前衛)は、努めて広正面を以って速かに渡河し、敵機関銃火力及び砲兵観測に対し渡河地区を確保する為の地歩を獲得す。戦車、連大隊砲、及び師団ならびに配属砲兵の連絡班は第一梯団と同時に渡河す
      主力は第一梯団の掩護の下に渡河し、所定の計画に従い攻撃を行う
      砲兵は常に主力の渡河及び対岸に於ける行動を支援し得る如く、逐次梯団区分を以って敵岸に移る。馬は通常泳行して渡河せしむ。渡河せる砲兵部隊は通常歩兵指揮官の指揮に入るものとす
      舟橋は第一梯団の対岸占領後架設せらる
    10. 第222
      渡河点の対空防禦は特に緊要なり
      渡河地域は十分なる高射砲及び高射機関銃を以って掩護せらるる外、敵をして渡河点を確認し得しめざる為、煙を以って之を遮蔽するを要す。然れども、煙の使用は之に依りて渡河点を暴露するが如きことあるべからず。却って之を陽渡河点に使用するを有利とすることあり
      高射機関銃は架橋開始迄に敵岸に移る
      駆逐飛行隊は、橋梁ならびに之に依る軍隊の渡河を掩護す
      襲撃飛行隊は敵砲兵及び近接中の予備隊を襲撃す
    11. 第223
      状況に依り(追撃の場合、敵の志気衰えある時、或は敵が急遽防禦に立ちたる場合等)河川に近接し、直ちに渡河を行い得ることあり。此の際、先ず以って敵の破壊し得ざりし橋梁を占領すること肝要なり
      狙撃各部隊は、自己の携行材料又は所在の渡河材料を以って、各種の地点に於いて広正面に亙り迅速に渡河す
      砲兵は其の火力を以って渡河点を掩護し(囲繞弾幕)敵砲兵を制圧す。連大隊砲は河岸より敵の火点を直射す
      渡河せる部隊の頑強なる行動と、敵の側面及び背面に向う勇敢なる攻撃とは、成功の主要条件なり