歩兵操典

第三篇 機関銃及び自動砲教練
第三章 戦闘
第二節 小隊
第一款 攻撃
  1. 第296
    戦闘の為前進する中隊疎開せば、小隊は地形地物を利用し、隊形を選び、偽装を施す等、手段を尽くして行動を秘匿し、速やかに敵に近接す
    卸下は通常中隊長の命に依る。此の際、馬の処置に関し別命なければ小隊長は指揮者を附し其の行動を命ず。卸下せば通常背嚢を駄載す
    卸下の前進に在りては、搬送法を適切にし、附近の部隊と類似の隊形を取るの着意を必要とす
  2. 第297
    小隊長は任務を受くるや、通常所要の人員を随え先行して陣地を偵察し、陣地進入、射撃等に関し準備を整う。此の際、附近に在る友軍の状態、小隊爾後の行動等を考慮す
  3. 第298
    陣地は、状況、特に任務に適合し、勉めて敵に近く、且つ遮蔽し、不意に射撃を開始し得るを要す。而して著明なる地物の附近を避け、遮蔽物、陰影等を利用し、背景に注意し、又偽装を施す等、極力所在を秘匿す
    連、大隊砲の陣地に於ける銃の間隔は30米を標準とし、適宜伸縮す
    対戦車射撃に任ずる自動砲の陣地は特に進入容易なるを要す
  4. 第299
    陣地進入は小隊長の号令又は命令に依る
    小隊長は、成るべく陣地進入に先だち、分隊長に分隊の陣地及び其の設備、中隊の基点、射撃目標、射距離、射法、進入法等を示す。又、進出地域の関係部隊に連絡し、要すれば爾後の射撃、又は前進等に関し協定す
  5. 第300
    射撃目標は、任務に基き、第一線歩兵に最も危害を与うるもの、若しくは速やかに撲滅を要するもの等、戦術上の価値に従い選択す
    機関銃小隊長は通常各分隊をして同一目標を射撃せしむ。状況に依り分隊毎に異なる目標を射撃せしむることあり
    自動砲小隊長は通常射撃すべき戦車群を示し、分隊をして其の対向せる部分に於いて有利なるものを射撃せしむ。側防機能等を射撃する場合に於いては通常分隊毎に目標を示す
  6. 第301
    自動砲は敵戦車に対し、機を失せず之を撲滅す。之が為、自ら監視に任ずると共に、速やかに陣地に進入し、有効なる射撃を実施し得る如く常に準備を整えあるを要す。此の際、過早に射撃を開始して、位置を暴露し損害を被らざる如く留意す
    機関銃は敵戦車に牽制せらるることなく、通常之に協同する歩兵を射撃す。然れども、至近距離に迫る戦車に対しては、中隊長の命令、又は独断に依り之を射撃することあり。此の場合に於いては、戦車の覘望孔、銃眼等に火力を集中し、或は徹甲実包を以って其の薄弱部を射撃す
  7. 第302
    戦闘間、小隊長は指揮に便なる所に位置し、戦況、地形及び射撃の効果を観察し、他の重火器等との弾丸先の協調を適切にし、分隊の行動、分隊長の射撃指揮等を監視し、且つ中隊長との連絡に注意す
    小隊長は射撃中止間分隊を遮蔽し、敵の意表に出で、或は損害を避けんが為、状況之を許せば銃《砲》の位置を移動して射撃せしむ
  8. 第303
    戦闘間、小隊は適時陣地変換を行う。但し、機関銃中隊に在りては通常中隊長の命令に依る
    陣地変換は通常小隊同時に行う。状況に依り梯次に行うことあり。但し、中隊機関銃に在りては梯次に行うこと多し
    陣地変換に方りては、小隊長は予め前進地点、進路、前進要領等を示し前進を命ず。分隊の運動は分隊長直接指揮す
  9. 第304
    第一線歩兵突撃を準備するに至れば、機関銃は最も有利なる位置に進出し、準備を周到にし、第一線歩兵に密に連絡し、我が突撃を妨害すべき敵、特に側防機能を撲滅若しくは制圧すべし
    突撃の機熟するや、機関銃は火力を最高度に発揚し、歩兵の突撃を誘起すべし
    側防機能の射撃に専任すべき機関銃及び自動砲は、地形地物を利用し、予め周到なる準備を整う
    機関銃、鉄條網を破壊するに方りては、突撃部隊に密に連絡し、勉めて敵に近く進出し、短時間に目的を達するを要す
  10. 第305
    第一線歩兵突撃を開始するや、機関銃は新たに現出する敵の自動火器、就中側防機能を速やかに射撃し、突撃の支援に万遺憾なきを期すべし。此の任務に専任する銃《砲》に於いて特に然り
  11. 第306
    第一線歩兵敵陣に突入せば、小隊は機を失せず最前線に進出し、陣内の攻撃に密に協同すべし。特に自動砲は行動を機敏にし、対戦車射撃に遺憾なからしむ。此の際、一地に蝟集して無益の損害を被らざるを要す。此の時機に於ける幹部以下の勇敢なる動作及び戦機に投ずる射撃は、戦闘の成果を特に大ならしむるものなり