砲兵操典

附録
其の四 対戦車肉薄攻撃
要則
  1. 第一
    砲兵の肉薄攻撃は自衛の目的を達成するため之を行うものとす
  2. 第二
    肉薄攻撃の要訣は好機に乗じて突如敵戦車に肉薄し決死の攻撃を敢行するにあり
    敵戦車の壕の超越、斜面の登坂、障害物の通過、故障の発生等戦車の速度遅緩するか又は戦車相互歩兵と戦車との分離せるとき並に夜間、黎明、薄暮等は通常攻撃の為好機なるに著意するを要す状況之を許せば煙を使用し或は戦車地雷を付置する等の手段を講じ積極的に自ら好機を作為すること必要なり

攻撃要領
  1. 第三
    肉薄攻撃の為には状況特に敵戦車の特性、地形、攻撃の為使用し得る人員及材料等を考慮し所要の肉薄攻撃班(組)を編成し攻撃の方法を定むる等予め周到なる準備を整え置くを要す
  2. 第四
    肉薄攻撃班(組)を準備せる部隊の長は敵戦車の攻撃を予期するや地形、対戦車射撃の準備、対戦車障害物を考慮し機を失せず対戦車攻撃班(組)を配置するものとす状況に依り予め所望の配置に就かしむること在り何れの場合に於ても肉薄攻撃班(組)の行動を援護するの処置を講ずるを可とす
  3. 第五
    肉薄攻撃班(組)を配置するに方りては其の位置、担任区域及対戦車射撃との関係を明示し要すれば連絡記号、攻撃要領、爾後の行動等を示すものとす此の際勉めて各兵を軽装せしめ偽装を十分ならしむること必要なり
  4. 第六
    肉薄攻撃班(組)長は其の任務に基き地形を観察し攻撃実施の要領を考案し為し得れば予め各組(兵)の配置、攻撃要領を示すものとす
  5. 第七
    敵戦車攻撃のためには一組に数戦車を配当するを通常とす此の際組長は一名を以て一戦車を攻撃せしむるかあるいは組を以て逐次攻撃するかは一に状況に依るものとす
  6. 第八
    肉薄攻撃の実施に方りては勇猛、機敏なる行動に一撃克く確実に奏功を期し得ざるべからず然れども若し効果確実ならざる時は執拗なる攻撃を反復し飽く迄其の目的を達成するを要す
  7. 第九
    肉薄攻撃班(組)長は攻撃を命ぜらるるか又は敵戦車の襲撃を受けんとするに方りては機を失せず各組(兵)を配置するものとす此の際兵の行動により其の企図を暴露せざること必要なり
  8. 第十
    肉薄攻撃の実施に方りては班(組)長は各組(兵)に的確に目標を示し適時攻撃を実施せしむるを通常とす此の際先ず戦闘戦車或は指揮官戦車を破砕する如く著意する事必要なり
  9. 第十一
    組は適宜散開して速やかに所命の配置に就き地形、地物を利用して潜伏し爆薬に点火の準備を為し隠忍適戦車の近迫するを待ち要すれば煙を使用し好機に常時突如躍進して戦車の死角内に突進し爆薬に点火し之を車体に装著し或は爆薬を履帯下に挿入し或は適宜の応用材料を以て攻撃するものとす此の際過早に躍進する時は動もすれば敵戦車をして回避行動を為さしめ或は戦車援護部隊等の為機に先立ち損害を受くることあるに注意するを要す
    戦車に爆薬を装置するには兵は先ず身を以て戦車に接著しなるべく平面部を選定し確実に爆薬を戦車に装著するに勉めるを要す
    爆薬を履帯下に挿入するには通常爆薬を木桿等に縛著し勉めて地質堅き地点を選び此を反対側の履帯下に入るるを可とす
    爆薬を車体に装著し或は履帯下に挿入せば速やかに数米離隔して伏臥し其の効果を確認したる後更に銃剣、手榴弾等を以て乗員を撲滅するものとす
    一戦車に対し組を以て攻撃する場合に於ては攻撃に任ずる兵相互に危害を蒙らざる如く攻撃の時期と地点とを適切ならしむるを要す
  10. 第十二
    敵戦車至近の距離に近迫して停止し我を射撃する場合に於ては肉薄攻撃班(組)は進んで之を攻撃するを要す
  11. 第十三
    攻撃奏功せば班(組)長は直ちに各組(兵)を指揮して敵の後続戦車を攻撃せしめ或は速やかに各組(兵)を掌握して爾後の行動を準備するものとす