砲兵戦術講授録　原則之部

第六節　遭遇戦に於ける砲兵用法

• • 仏軍砲兵は接敵前進に於て 高級指揮官は一般の行軍部署中 砲兵の安全を顧慮し 且 迅速に戦闘に加入し得る如く 前進間に於て砲兵の部署を命じ 砲兵各中隊は 現出すべき敵砲兵に対し 其火力を以って 迅速に之を捕捉し得る如く 常に準備しあるを要す
  • 砲兵は敵に近づくに従い隊形を疎開し 各部隊間の距離を逐次増加し 触接の時期近づくや砲兵は梯次に進行し 其一部は常に戦闘に加入し得る方法を以って陣地より躍進す
  • 状況急を要する場合には 中隊は観測所に近く放列を布置す
  • 接敵前進に於て 軍団砲兵司令官は師団砲兵の弾薬補充を確実ならしめ 全砲兵を迅速に戦闘に参加せしむる如く努力す 運動性大なる軍団砲兵（一〇五粍砲）は 師団前進地区を 陣地より陣地に躍進す
  • 師団砲兵指揮官は師団長より各前衛の達すべき逐次の線、次いで砲兵が第一線を成形すべき歩兵連隊の部署に適合することに関し必要なる支持を受け 直接支援の為 砲兵群の編組展開及を準備す 又 戦況地形に依り接敵前進間 臨機歩兵を支援する為 逐次占領すべき砲兵の陣地区域を決定す
  • 師団軽砲兵は高級指揮官の予定せる逐次の躍進間 絶えず歩兵を支援し得る如く梯次に前進す
  • 戦闘開始の当初に於ては 通常師団砲兵は其一部を使用し 師団正面適度にして指揮分散を要せざるときは全般任務の砲兵群の兵力を増大す 対砲兵戦は 師団砲兵と連絡密なる軍団重砲の砲兵群 若は 大隊を以ってするか 師団の全般任務の砲兵群を以ってす
  • 接敵前進前 及 接敵前進間 砲兵群長は 上級指揮官の下に 地図及空中写真を深刻に研究する等 射撃準備を良好ならしむるの処置を講じ 戦闘加入を準備し 又 連絡の為 空中線を最大限に利用す
  • 砲兵群長は 支援すべき歩兵部隊 及 増加せられるべき砲兵部隊と 機会ある毎に自ら触接し 連絡に努む
  • 部分的戦闘は統一せらるるを要するも 斯くの如き場合 砲兵の運用は 上級指揮官詳細に規正し得ざるを以って 一般任務を砲兵群長に与え 群長は之を各大隊長に分担せしむ 此際 弾薬の消費を厳に監督するものとす
  • 要するに 仏軍の典範に於て 遭遇戦なる特別の条章なし、故に前進の事項は 接敵 及 触接時期の部分より総合せるものなり
  • 隣接国情に依り 開戦当初より大軍の運用に徹底し記述せるものと推察するも 世界大戦の遺彩紛々として 皇軍砲兵として直に模範を許さざる点は銘刻するの要あり
• • 赤軍砲兵に在りては遭遇戦の条章ありて 其通則中 本隊戦闘に加入するに至れば 砲兵各中隊と歩兵の各中大隊とを速やかに連絡せしめ 重要なる方向に火力を集中すべしと述べるが如き 赤軍の特色を表現せるものなり
  • 軍団砲兵は遭遇戦に在りては 全部各師団に分属す
  • 師団砲兵部長は 遭遇戦場の地形を研究し 時間に余裕あれば 前夜宿営中 要図を調整し 彼我の道路、砲兵の観測所、陣地 及 各部の制高関係を記入し 之を各大隊に配布す
  • 大隊長以下 各中隊の指揮小隊長に至る迄 幹部は要図を調整準備するを要すと云えるは 一特徴として看過すべからず
  • 遭遇戦を予期する場合の行軍部署左の如し

    1. イ、 数縦隊前進の場合 砲兵の編組

       縦隊が敵と遭遇せる場合を顧慮し砲兵を編組し 迂回隊 又は森林、隔絶地等を行動する縦隊の砲兵には 独力戦闘するの実力を具備せしめ統一指揮の企図を投擲す

       又 各縦隊前衛には攻勢任務を果たすに十分なる砲兵（歩兵一大隊に対し砲兵二、三中隊）を附し 爾余の砲兵の全部又は大部は 本隊の先頭に前進せしむ

       前衛には榴弾砲を附し 為し得れば一〇七粍加農を附するを可とす

    2. ロ、 一縦隊となり前進の場合 砲兵の編組

       此際 砲兵の各大隊は 戦闘に方り 支援すべき歩兵連隊と同行するか 或は 之と確実なる連絡を維持す

  • 前衛砲兵の動作中 特異なるもの左の如し
  • 師団が連隊毎に一縦隊となり行軍するときは 各縦隊本隊の砲兵は 師団が一縦隊となり前進するときの前衛砲兵の動作に準ず
  • 前衛砲兵の各大隊長は 歩兵部隊長と同行し 或は 連絡を保持し 前衛司令官が各歩兵大（中）隊長に任務を命ずるや 砲兵大（中）隊の連絡分隊は 直ちに支援すべき歩兵大（中）隊の許に到る
  • 前衛砲兵の各大、中隊は 自己の判断と歩兵の要求に依り射撃を開始し 前衛司令官 又は 大隊長と 電話開通後始めて前衛砲兵の指揮は統一せらる
  • 前衛砲兵は任務受領後 遅くも三十分以内に射撃を開始すべし
  • 前衛砲兵は 遭遇戦初期に於て敵砲兵と対戦するは本旨にあらず 唯 前衛砲兵に危害を与える敵の暴露砲兵のみには 射撃を加えることあるべし
  • 本隊砲兵は所属縦隊の戦闘加入に伴い 独立して戦闘に参加す
  • 縦隊の砲兵指揮官は縦隊長の指示に基き 概略の任務を指示し 爾後の展開 及 射撃中任務を確定し 各部隊は歩兵の要求に応じ射撃するものとす
  • 師団砲兵部長は 要すれば師団長の名を以って各縦隊に他の縦隊の砲兵を増加す 又 主力縦隊に於て師団長攻撃の決心を定むるや 速やかに軍隊区分を為し 各大隊に 支援すべき歩兵部隊 及 連絡すべき箇所を指示す
  • 本隊砲兵の展開時間は 各種状況に依り差あるも 概ね一時間を標準とす
  • 砲兵の軍隊区分は 歩兵との連絡の難易、全師団地区 及 各歩兵連隊地区の地形を顧慮し 左の如く決定す

    1. イ、

       歩兵支援（直協）砲兵群として 各歩兵隊に分属す（正規の方法）

    2. ロ、

       自ら統一指揮す（変則にして 二又は三縦隊となりて行軍するときは 統一指揮は著しく困難なり）

  • 前衛砲兵は 其儘 歩兵連隊長の隷下におくを可とす
  • 遠距離射撃群を区分するは例外にして 直協砲兵群をして対砲兵戦の目的を達せしむ
  • 遭遇線に於ては 側射的使用は 迅速簡単に展開するの本旨に反し実施困難なるも 砲兵一中隊と雖も 側方近距離遭遇戦（師団野砲二粁半 榴弾砲三粁以内）より縦射を行うときは 一大隊の正面射に匹敵する効力あり
  • 最大射程利用の為 屡々軍団砲兵の長射程加農中隊を成るべく前方に展開使用す
  • 夜間の遭遇戦を予期するときは 縦隊先頭の砲兵を成るべく小ならしむ 警戒部隊に榴弾砲 及 迫撃砲を附するは 士気上の効果大なり
  • 戦闘は地図を用い 敵の後方を射撃し 又 認識し得る敵砲兵を射撃すべし 大部の砲兵は控置するものとす
• • 独軍砲兵に在りては 遭遇戦の為 陣地の偵察は大中隊長の任とし 大隊長以上の指揮官は 偵察の後選定せる戦闘司令所又は観測所に止るものとす
  • 前車は 陣地の側方 又は 後方二〜三、〇〇〇米の所在物 又は 火力の及ぼさざる地域を求めて位置す
  • 右の外 大なる着意点を認めず