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砲兵戦術講授録 原則之部

附録 外国軍砲兵の用法

第十六節 陣地戦

第一款 防御
  1. 其一 赤軍
    1. 一、 通則

      防者は敵の意志に依り某程度の束縛を受くべしと雖も 敵の突撃に対する計画を密ならしむるときは 著しく不利を減じ得べく 特に砲兵は戦闘の経過に応じ 機械的に行動し得る如く準備せざるべからず

    2. 二、 指揮
      • 砲兵の統一指揮師団を単位として完全に行われ 対砲兵戦を任とする部隊は軍団のもの全部を統一することあり
      • 射撃の協同援助の区署は 高級砲兵指揮官(通常軍団砲兵部長)之を実施す
      • 敵の攻撃攻撃準備偵察の端緒となる徴候中に 砲兵に関するものは 観測所の新設、新たなる砲兵の現出 及 試射の実施を列挙せり
      • 軍隊区分左の如し
        1. イ、 連隊砲兵

          通常歩兵連隊長の隷下に在るも 防御砲兵の区分に入り 一般計画に従い行動す

        2. ロ、 師団砲兵

          全部師団砲兵部長の手裡に存す

          歩兵支援砲兵群
          ――― 運動戦に準じ動作す
          遠距離射撃砲兵群
          ――― 軍団砲を以って編成し 師団砲兵として之を欠くこと屡々なり
        3. ハ、 軍団砲兵
          • 遠距離射撃砲兵群を構成す
          • 但 七十六粍平射砲中隊は 重要なる地区の歩兵支援砲兵群に配属することあり
        4. ニ、 総司令官の砲兵予備

          遠距離射撃砲兵群 又は 歩兵支援砲兵群に増加配属することあり

    3. 三、 防御組織

      砲兵戦闘計画一覧表、情況図の立案には 歩兵連隊長 及 全般指揮に任ずる司令部員を参与せしめ 又 砲兵指揮官は歩兵部隊の戦闘計画を詳細に研究し 自己の計画を之に適合せしめ 又 師団に関するものは各砲兵群長 及 歩兵連隊長に 砲兵群に関するものは群内各中隊長 及 関係歩兵大隊長に配布す

      • 戦闘計画は 左の要求に合するを要す
        1. 重要地区に至短時間に多数砲火集中
        2. 破壊射撃を為す敵砲兵に対し 威力大なる砲兵火を以って応射す
        3. 陣地帯内部の戦闘に方り 歩兵を有効に援助す
      • 計画中に予定すべき事項 左の如し
        1. イ、 軍団砲兵
          1. 対砲兵戦(担任正面は軍団正面より狭からず 且 補足正面として左右両側に五粁以上を附加す
          2. 隣接師団砲兵相互の支援
          3. 攻勢移転 又は退却の為 師団に配属する砲兵(軍団砲兵 又は総司令官の砲兵予備
          4. 弾薬補充
        2. ロ、 師団砲兵
          1. 歩兵支援砲兵群の行動 及 相互の支援
          2. 各部隊の翼 及 接合部の掩護
          3. 対砲兵戦参加に関する事項
          4. 弾薬補充
        3. ハ、 歩兵支援砲兵群
          1. 各中隊の目標配当(地物に依る
          2. 中隊と歩兵との連絡法
      • 砲兵の配置に於て 斜射側射の利を発揮すること特に緊要にして 之が為 一部の砲兵を 師団 又は軍団の地区外に配置することあり(外翼師団に在りては 寧ろ一般の状態なり
      • 屡々百八十度の射向変換を要するを以って 各火砲は 二 又は 三個の陣地を準備す
      • 縦深配備は 特に化学攻撃を受くるとき必要なり
      • 各中隊は 少なくも三個の観測所を設け 通視し得ざる区域は 成るべく 全周三百六十度に亙り 情況図上に描画す
    4. 四、 戦闘間の行動
      • 敵の集中地に逆襲的射撃を加えるときは 一時的の陣地を占領し 急襲射を加う
      • 敵が瓦斯発生筒を準備しあるを探知せば 時々短時間の急射撃を加え 瓦斯を放出するや 砲兵の大部は発生筒の位置に向かい猛烈なる射撃を加う
      • 敵 突撃を開始せば 弾幕射撃を行い第一線を阻止す(註 射撃は歩兵の要求後二分以内に開始し得ざるべからず
  2. 其二 獨軍
    1. 一、 準備
      • 時宜に依り 突破し来る敵に対する警戒の為 若干の中隊を繋駕の儘位置せしめ 又 待機陣地に就かしむ
      • 戦車に対しては 個々の砲車 又は 小隊を 繋駕せしめおき(又は 牽引自動車、装軌道車を用う) 戦車に対し前進せしむ
      • 砲兵指揮官は 其司令部に情報班を設け 敵陣地、其活動状態 及 企図を詳に判定す
      • 諸観測所間の電話通信を維持し 且 最も良く利用する為 諸観測所は 一砲兵群内 又は一小群内にて共同交換に加入するを有利とす 然るときは 一観測所より望見し得ざる目標に対しては 他の観測所より観測し得るのみならず 使用し得ざる観測所の代わりに 尚現存せる観測所より観測するを得べし
      • 霧の際は 歩兵要求遞送の為 濃霧哨 又は 聴音信号等を要す
      • 師団砲兵指揮官は 師団長の射撃計画に基き 火力運用 及 砲兵戦闘計画を策定す
      • 敵が射撃すの故を以って 単に其応答 又は 報酬として射撃するは 過失なり
      • 戦闘正面に於ては 兵力を消耗するを以って屡々交代す 時として 砲車は其儘とし 人員のみ交代することあり(器材愛護上は不利なり
    2. 二、 防御実行
      • 防御会戦の為増援砲兵は 各師団重要の度に従い 師団に配属するを原則とす(交代用 或は 高級指揮官準備用の控置砲兵は 此限りにあらず
      • 又 長射程砲は 軍、集団 又は 軍団司令部に配属せらるることあり
      • 敵の攻撃準備時期(攻撃開始後も忽にせず)に於ける 敵砲兵の制圧は 砲兵の主要任務の一なり
      • 敵砲兵陣地は之を目標 及 集団に区分し 師団より群 又は小群に分配す 地図の方眼 又は 歩兵の戦闘地域に従い 区分不明瞭に指示するは適当ならず
      • 敵の攻撃準備位置 及 其攻撃其ものに対しては 予め準備し 特別の処置を取るを要す 此際 移動殲滅射撃は 固定阻止射撃よりも効果大なり
      • 正面射撃を行うを通常とし 休止中隊を生ぜしとき間隙を生ぜざる為 中隊の射撃を重畳するは 希望する所なり
      • 攻勢移転前 攻撃目標(特に機関銃)を強大なる火力を以って粉砕するを要す
第二款 攻撃
  1. 其一 赤軍
    1. 一、 通則
      • 陣地戦に於ける攻撃砲兵の任務は 運動戦に準ずるも 其範囲と実施の形式とを異にす
      • 任務中 着目すべきものを挙げれば左の如し
        1. 歩兵の突撃準備位置(防御陣地帯の前縁より二百米以内)の占領掩護
        2. 突破孔両側の敵を拘束し 突破口を拡大す
      • 陣地戦に於ける砲兵行動は 機械の如く正確にして 不時の故障を生ぜざるを要す
      • 砲兵の行動は 詳細なる計画表として 歩兵各級指揮官にも予め十分研究せしめおくを要す
      • 陣地戦の攻撃は 砲飛の兵力絶対優勢ならざるときは 守兵の指揮沮喪せるが如き情況にあらざれば 奏効不可能なり
    2. 二、 準備
      • 陣地戦に於ける突撃は 軍団に於て部署するを原則とす
      • 第一線師団の担任正面左の如し
        敵陣地速成的にして 強度大ならざるとき
        一粁半 乃至 二粁
        強度大なるとき
        一粁半以下
      • 軍団砲兵部長 作戦上の任務を受くれば砲兵司令部を編成す 其編成 左の如し
        • 参謀長
        • 作戦部長
        • 捜索部長
        • 連絡部長
        • 化学勤務部長
        • 衛生司令 及 補佐官(騎兵一小隊、歩兵一小隊以上を有す
        • 砲兵特種捜索部長
        • 航空部長
        • 工兵小隊長
        • 書記 及 図工
        • 電信小隊(附属)
        • ラヂオ通信所(附属)
        • 各砲兵群より幹部一名 連絡
      • 砲兵司令部準備作業の主なるものは 突撃地区に関する情報の蒐集(地図の準備、陣地占領図調整、陣地観測所道路の要図、縦深十二〜十五粁の空中写真)にあり
      • 所要砲兵材料計画の基礎 左の如し
        1. 歩兵制圧、散兵壕、機関銃掩蔽部 及 棲息所破壊の為 火砲一門の負担正面 五十米、三十米、二十米、一粁正面火砲数 二十、三十五、五十門とす
        2. 七十六粍平射砲は 全火砲の 四分の一〜二分の一とす
        3. 障害物の通路第一線小隊に各一条 師団の為 十六条とし 主として七十六粍平射砲 及 各種迫撃砲を用う
        4. 要するに 対砲兵戦用を含み 敵線一粁正面に 砲兵数 十乃至十五中隊とするを標準とす
        5. 主攻撃正面には 右標準以下に低下せるか 或は 戦車に依り其不備を補う
      • 突撃地区の選定に於て 人工障害物を望見し得 我が軍の方に突出し 側射に便なることを述べあり 砲兵部長は 現地偵察後 部隊を陣地に配置す
      • 突撃の為軍隊区分の要旨 左の如し
        • 総司令官の砲兵予備を配属せられたるときは 一般の要領に依り軍隊区分す
          歩兵支援砲兵群
          1. 各師団一群とす 群長は当該師団の砲兵連隊長
          2. 連隊砲大隊は所属連隊の障害物破壊に任ず (砲兵部長は砲兵数に入れ射撃の順序時期を統一す)
          3. 砲兵の半数を以って 散兵壕破壊 及 歩兵の制圧に 爾余の半数を以って障害物破壊、対砲兵戦、後方地区の射撃に任ず
          遠距離射撃砲兵群

          全砲数の 二十五 乃至 三十五%を以って之に充つ

      • 敵陣地の細部偵察は二、三日を使用す
      • 歩兵支援砲兵群長は 左の如く任務を配当す
        • 各大隊長(全中隊長)に地図、散兵壕の写真図、情況図 及 射界配当図を配布し 各大隊長の射界、監視界、観測所の番号 及 射撃陣地選定地区を指定す
        • 又 各中隊指揮官用観測所に就き 中隊長の担任射界了解の度を点検す 此際 成るべく歩兵指揮官を立会わしむ
      • 遠距離射撃砲兵群長は 左の如く準備す
        1. 飛行機(一週少なくも一回 敵砲兵予想陣地の地区を撮影す)を各大隊に配属す
        2. 増加砲兵の幹部を成るべく早く突撃地区に招致す
        3. 敵砲兵の砲種口径を正確に偵知し 番号(敵陣地を縦線に二部に分け 右方は一〜二〇 左方は二一〜四〇の一連番号)を附す
        4. 突撃正面より左右五粁の敵砲兵を射撃す
        5. 指揮の便宜上 小群に区分す
        6. 突撃日(記号)時(記号)は秘密保持の為 記号的に表す
        7. 斜射側射の威力を発揮せんが為 時として 一部の中隊を 五百 乃至 千米後退せしむ
        8. 各中隊間の誤解紛争は 衛兵司令補佐官にて処理し 若し 不可能なるときは 衛兵司令 又は 砲兵部長の裁断に委す
        9. 戦闘開始前 一日 又は 二日 砲兵部長 及 一般軍隊司令官は砲兵準備作業の点検をなす
        10. 陣地進入は成るべく遅きを可とし 一部と雖も 突撃日の前夜進入するに努めしむ
    3. 三、 突撃準備射撃

      試射は成るべく避くべきも 障害物破壊の為には試射を全然省略する能わず

      陣地に在る砲兵は 突撃日に先ち 各中隊時期を異にして行い 増加砲兵は突撃当日に行う

      弾幕射撃は特に重要なる方面の狭き地帯に行うべく 陣地戦に在りては 各中隊の射弾を 同一地帯に重複して指向せしむることを得

  2. 其二 獨軍
    1. 一、 通則

      陣地戦の攻撃は 通常 新式軍隊が整備しあるが如き 極めて強大なる砲兵を以ってのみ行うことを得

      然れども 独逸陸軍は 決勝方面に砲兵を集中し 又は急襲 或は夜暗の利用に依り 陣地戦の攻撃を実施し得ざるべからず

      以下述べる所は新式軍隊の戦法を記せるものなり

    2. 二、 準備
      • 攻撃準備は広範にして時間を要す 過急不適当に短縮するときは失敗に終わる
      • 指揮官攻撃の決心を為すや 増加砲兵の諸本部を招致し 従来其地区に在りし砲兵指揮官指導の下に敵陣地 及 其後方地形の細部に通暁せしむ
      • 攻者の全砲兵の編組は形式的に束縛せらるるものにあらず 単に一の準縄を示せば左の如し
        • 対砲兵砲兵群 (各集団 及 軍団毎に一群 敵砲兵の制圧
        • 対歩兵砲兵群 (第一線各師団毎に一群、敵歩兵陣地、支トウ点 、陣内、並中間地区射撃
        • 遠戦砲兵群 (各集団 及 軍団毎に一群、気球、野営地、村落、司令部、無線電信所、前進路射撃
        • 最重平射砲兵群 (軍地区毎に一群、最遠距離目標の射撃
      • 各砲兵群は 所要に応じ 小群 並びに 小地区に区分す
      • 非攻撃正面に於ける欺瞞行動(夜間車輪の喧騒、爆鳴等)を忽にすべからず
      • 選定したる陣地は 遮蔽の度に従い 之に適応する如く進入の時期を左の如く区分す
        1. 第一時期の諸中隊 (空中偵察に掩護せられたる森林、村落、庭園等の陣地を占領するもの

          任意の時期に進入し得るも 人馬車輌に依り新痕跡を残さざるを要す

        2. 第二時期の諸中隊 (陣地は空中に暴露するも 其近傍に遮蔽せられたる位置を有するもの

          攻撃の少前に臂力を以って陣地に進入す

        3. 第三時期の諸中隊 (空中に暴露し 且 進入に際し 最近の遮蔽地より輓馬 又は牽引自動車に依るを要するもの

          攻撃の前々夜(前夜は歩兵の為 道路を開放するを要す)迄に陣地に進入するか 又は 陣地の近傍に秘匿して運搬せらる

      • 諸廠に到る車輌縦列は迷彩し 新轍痕は抹殺すべし 夜間の進入に方り敵砲火を蒙る道路は迂回するか 小群と成り通過し 困難なる路部には人員 又は輓馬を準備す
    3. 三、 攻撃実行
      • 運動戦に於ける射撃方式 及 射撃指揮の原則は陣地戦にも適用す 高級者が細部に立ち入ることは通常避け難し
      • 約三時間内に正面百米の一塹壕の守兵を震駭し 突撃し得る為 四門中隊を以ってする所要弾薬の標準 左の如し
        野砲
        一、二〇〇
        野戦軽榴弾砲
        九〇〇
        野戦重榴弾砲
        五〇〇
        臼砲
        三〇〇
      • 敵砲兵一中隊撲滅の為の所要弾数亦同じ
      • 火力運用の方法は一定の法則を以って律するを得ず
      • 臨機応変 各種の方法を採用するに従い 屡々敵を急襲するを得べく 又 敵をして対抗手段を講ずること能わざらしむ
      • 不規則なる時間間隔を置きて 時々射撃中止を行うときは 敵をして陣地に就かしめ 且 我が歩兵の攻撃時期を欺瞞し得べく 又 爾後の真攻撃の際の方法に依りて射撃を前方に移すときは 敵に真攻撃を秘匿する為 屡々良好の方法となるべし
      • 突撃は 火力を最高度に発揮したる後か 或は敵の注意を引くが如き 火力の発揚をなすことなく実行せらるるものとす
      • 直接支援の為には 移動弾幕射撃(要すれば歩兵との協調の為 一〜二粁毎に稍長く駐止す)に依るか 或は歩兵の停止に方り阻止射撃 又は殲滅射撃として 歩兵の前方に配置せらる
      • 移動弾幕射撃には算定するものと 観測するものとの二種あり
      • 弾痕地帯前進の為には予め準備せる無限軌道の火砲を可とす工兵を配属すること必要なり
      • 前方に進出すべき砲兵の隷属関係は適宜指定す 砲兵は日日の砲兵目標地図(最近二十四時間のもの) 及 定期目標地図(通常二万五千分の一)を調整す