砲兵戦術講授録　原則之部

第十二節　山地戦

• • 仏軍砲兵に於て着目すべき要点 左の如し
  • 山地に於ては 縦射斜射を実施するに適する陣地を発見する事容易なり 此種目的の為 平射砲を用うべきものにして其効果屡々決定的なり
  • 交通遮断射撃は極めて重要なり
  • 良好なる陣地を占領せる短重砲部隊に対する対砲兵戦は実施著しく困難なり 稜線附近に陣地を占領する平射砲部隊に対する制圧的曳火射撃は容易なり
  • 軍団砲兵は屡々各師団に配属せらる
  • 戦闘間 兵力分散の結果 大隊は殆ど常に分割せらるるも 中隊は為し得る限り分割を避け 以って火力運用の一単位たらしむべし
  • 列車重砲兵は特に急襲、火力配合 及 遠距離の交通遮断に任ず 谷地内の該砲兵は 迅速に陣地を変換し容易に弾薬を補充し得るの利あり
• • 赤軍砲兵に於て着目すべき点 左の如し
  • 山地に於ける射撃開始は 敏速なる能わざるを以って 前衛に大なる砲兵を附せず 本隊砲兵も先頭に全部を集むることなく歩兵中隊と砲兵中隊とを交互に位置せしめ 歩兵をして砲兵を護衛し 坂路の如き行進困難なる場合には援助せしむるを可とす
  • 山地の行進は極めて困難にして 道路の傾斜に依り速度を異にし 坂路急峻なるときは輓馬を増加し 一門宛行進の為 多大の時間を費やし 一時間の速度 一乃至二粁に過ぎざることあり 一昼夜の行程 八乃至十粁を限度とす
  • 本隊は 通常 迂回機動を必要とし 前衛と同方向に展開するは稀有の場合に属す 故に本隊砲兵の斥候は本隊の先頭に位置すべきも 偵察の為 前方に進出するは 本隊の展開方向決定し 砲兵各中隊が任務を受けたる後に於てすべし 山地に於ては 射撃修正 及 目標指示の為 飛行機の効用 特に大なり
  • 適当なる陣地なき場合 就中 退却に際しては 単一火砲の近距離直接照準射撃を為さしむることあり
  • 山地に在りては補充困難なるを以って 弾薬の節用に意を用うべし
• • 独軍砲兵に在りて着目すべき点 左の如し
  • 砲兵の使用は各種砲兵混成部隊を以ってするを容易なりとす
  • 野砲の低伸弾道の使用を断念するときは 軽砲兵の小群は 軽榴弾砲二中隊 野砲一中隊を以って編成するを適当とす
  • 地形上屡々中隊を小隊 又は砲車毎に使用するを有利とすることあり 山砲兵中隊は 元来 之が為 独立小隊に分割し得る如く編成しあるものとす
  • 砲兵斥候は 火砲の弾道性 及 運動性を熟知するを要す 故に射法、磁針儀、遮蔽角測定器を携行すべし 冬季はスキー又は雪靴を用い偵察す
  • 中隊の観測所は広地域に分散す
  • 地形不利なる為 敵が我が砲兵の現出を予想しあらざる地に砲兵を進むる時は 直ちに良果を期待し得るものとす
  • 前衛に個々の中隊を配属せんとするときは 軽榴弾砲を以ってするを可とす 前方に在る谷地 又は道路を扼止する為 前兵と共に若干門を前進せしむるを得べし
  • 砲兵の配置は地形に関するも 広正面排列に勉め 又 屡々大なる縦深梯隊に配置するを要すること多し 側射の効果は 巧みに配置せられたる砲車 就中 山砲に依り 達成せらるるものとす