自衛隊こぼれ話

直方財務事務所

 私の勤務していた直方財務事務所は、地方事務所税務課が分離独立したもので、地方税法に 基づき県税の徴収を実施する機関であった。事業税・特別所得税などの直接税と、遊興飲食税 や入場税などの間接税を徴収していた。担当地区は、直方市・鞍手郡・遠賀郡であった。  私は直税課に配属され、法人事業税の賦課徴収を担当させられた。当時の福岡県は県知事が 社会党系のため、平衡交付金などが他県に比較して冷遇されていた。一種の嫌がらせである。 だから予算折衝なども、知事では相手にされないため、知事に代わって副知事が上京していた。 そのため、財源確保のため自前の税収入に重点がおかれていたのである。  また、こんな事もありました。鞍手郡吉川村(当時)に犬鳴という集落があります。此処では 竹細工か゛行われていました。当時これに「事業税」を賦課していました。私は所長に申請し、 「これは単に農家の内職で、事業ではありません。」そう言って賦課を廃止させました。農家 の三男坊としての意地です。  間もなく新地方税法修学のための税務講習が、福岡市の百地にあった職員研修所で行われる ことになり、交代で派遣された。4週間泊り込みである。地方税法を始め、会社の書類を閲覧 する能力を高めるためか、簿記の講義まで含まれていた。  この講習で一番印象に残っているのは、福岡商大吉川教授の簿記の講義であった。教授は米 国留学の経験を面白可笑しく話された。私は旧制商業学校の卒業で、簿記については一応の知 識は持っていた。ところが商業学校ではどの先生からも教えられず疑問に思ったことを、いと も簡単に説明して頂き納得することができた。
税務研修。前列右端吉川教授。
 話が長くなるが、今の学生にも参考になると思うので説明する。簿記を習い始めて誰でも疑 問に思うことがある。それは借入金勘定の借方(DR)と貸方(CR)の問題である。借入金勘定 では、借り入れの場合は貸方(右側)に記入し返済した場合は借方(左側)に記入する。商業学校 の先生は、簿記の約束事だからそのように覚えなさいとしか説明されなかった。  ところが、吉川教授の説明は欧米と日本では何事も反対であることを認識しなさいと言って、 色々な例をを挙げた。のこぎりは日本では引くときに切るが米国では反対に押すときに切る。 物の貸し借りも、日本人は金を貸した、金を借りたと自己を中心にするが、欧米人は彼が私に 貸した、彼が私から借りたと表現する。  このよぅに、欧米での生活習慣から簿記の借方や貸方が日本人の表現からみれば逆になる。 ちなみにある行為の頂点での言葉は、「go!」ではなくて、「comeing!」だそうである。  また釣銭の計算は日本人は引き算で、欧米人は足し算で計算する。8円の品物を買い10円 出した場合、10円から8円を引けば2円だから2円の釣銭となる。ところが、8弗の品物を 買い10弗出せば8弗に2弗加えて10弗になるから2弗の釣銭ということになる。 数年後私は自衛隊に入って、米軍と共同生活をしたが、この時の講義が非常に役立った。
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