空母艦攻隊 1998-8 日本出版社
☆私のHPの掲示板に、「雷電飛曹長」の名で投稿されているある若い方から、この本
を参考にして映画の脚本を作成したいので、体験者としてのご意見を聞かせて欲しい
との申し出を受けました。一読しましたところ、用語や画像それぞれに多数の間違い
が見受けられました。若い読者の方々に正しい史実を伝えるために、著者には失礼で
すが、敢えて問題点を解説致したいと思います。
☆隊内での通常会話について。
海軍で相手を呼ぶ場合、士官に対しては職名で呼びます。下士官同士なら「何何兵曹」
と呼び「何々さん」とは呼びません。各頁とも間違いです。また、海軍での一人称は
「私」で「自分」は陸軍でしか使います。「殿」も陸軍では付けますが、海軍では使
いません。(49頁・151頁) 全頁とも「何々さん」となっていますが事実では
ありません。
☆出発や帰投の際の報告は、機長のみが敬礼して行います。(31頁・45頁)
☆進撃中や爆撃の際での編隊の隊形が間違っています。(各頁)
正しい編隊を組んでいれば、40頁のような弾着にはなりません。
☆操縦員と偵察員では落下傘が違います。当然落下傘バンドも違います。
画像はすべてが操縦員用と見受けられます。(28頁・179頁・その他)
次を参照。 http://www.warbirds.jp/senri/23ura/33/ssb.html
☆九七艦攻の魚雷や爆弾の投下杷柄は操縦席の左前にあります。艦攻の水平爆撃は偵察員
が照準し「ヨーイ テー」で、操縦員が投下杷柄を引きます。
54頁の画像は、偵察員がボイコーを覗きながら右手で投下杷柄を引っ張っています。
164頁では、「偵察員は嚮導機の合図に従って爆弾を投下せよ!」とあります。
何れも事実ではありません。
☆九七艦攻のパス速度は最低65ノット。57ノットでは失速墜落。(59頁)
☆「搭乗割」が当時の名称です。「編制割」などありません。(93頁)
☆当時の下士官兵はすべて丸坊主でした。長髪は一部の士官に限られていました。(各頁)
☆無線方位測定儀と無線帰投装置とを混同しているようです。(99頁)
☆飛行服に略帽は不自然です。飛行服を着た場合は当然飛行帽です。
搭乗する場合、いちいちデッキに飛行帽をとりに帰るのでしょうか? (各頁)
☆受信不能な飛行機の方位を測定しても、方位を連絡できないのだから意味がありません。
何の目的で方位測定するのでしょか? (115頁)
☆「突撃準備隊形作レ(トツレ)」について。
「突撃準備隊形」とは雷撃隊が編隊を組んで進撃し、敵艦を発見した場合、雷撃のために
一定の隊形を作ってから「突撃」します。この訓練を「襲撃運動」と呼んでいました。
通常の雷撃での「突撃準備隊形」は、敵艦に約1万メートルまで近づいた時点で、指揮官
が「突撃準備隊形作レ(トツレ)」の命令を発します。各機は編隊を解散して単縦陣になり
ながら敵艦を包囲する隊形を作ります。これを「馬蹄形包囲陣」と呼んでいました。
次に「突撃セヨ(トトトト)」の命令で一斉に敵艦に向かって突撃し、魚雷を発射します。
この「馬蹄形包囲陣」が従来の戦法でした。しかし、これだと包囲陣形成に時間がかかり、
その間に敵の護衛戦闘機に攻撃される恐れがあります。
そこで、新しい戦法として「扇形挟撃」又は「鶴翼の陣」と言って、敵艦を発見と同時に
「突撃準備隊形作レ(トツレ)」を発令します。指揮官機は敵艦に方向を変え直進します。
列機は左右にそれぞれ5度の間隔を開きながら増速前進し、両翼が敵艦の横に達した時点
で「突撃セヨ(トトトト)」を命令します。各機はそれぞれ敵艦に向かって突撃を開始し
魚雷を発射します。
「突撃準備態勢作レ」「突撃準備隊形作レ」の間違いです。(146頁)
「トツレ」は雷撃の場合の命令で水平爆撃にこの命令は不自然です。(22頁・69頁)
☆海軍に「飛行学校」はありません。(157頁)
☆雷撃の照準が間違っています。停泊艦は別として、雷撃は敵艦の進行方向の前方を狙わ
なければ魚雷は命中しません。(194頁〜198頁) 「雷撃の理論と訓練」参照。
http://www.warbirds.jp/senri/23ura/32/32.html
☆何でここに「赤城」の九七艦攻が出てくるの? (196頁〜198頁)
また、九七艦攻の無線アンテナや爆弾の投下器を省略した画像が多く見受けられます。
☆雷撃照準器理論書。
こんなもの当時見かけたことはありません。(156頁)
☆水平爆撃について。
水平爆撃は「爆撃嚮導機」を先頭に、ガッチリ編隊を組みます。照準するのは爆撃嚮導機
のみで、列機の操縦員は嚮導機の合図で一斉に爆弾投下索を引き爆弾を投下します。
「爆撃嚮導機」には「特修課練習生」出身のベテランが操縦・偵察のペアで配置されます。
進撃中は指揮官機の2番機の位置にあり、爆撃進路に入る前に、指揮官機と交代して先頭
に立ちます。先頭機は嚮導機の間違い。(23頁)
☆用語などについて。
操縦員・偵察員の選別は「海軍練習航空隊規則」による、適性検査で操縦専修と偵察専修
に分けられます。だから「操縦員に落ちたから」の表現は疑問です。生死を共にするペア
の仲で、こんな陰口は不適当です。(16頁・107頁)
また、哨戒と索敵では任務も装備も違います。混同しているようです。
☆その他小さい事あげれば際限がありません。
「馬車屋」(123頁)や落下傘バンドの記名(149頁・186頁)などなどです。
随所に画かれた下着類なども当時のものではありません。たかだか60数年前のことです。
も少し当時の実情を研究して欲しかったと思います。
私の願いは、若い方々が大勢読まれる有名作家の本ですから、虚構でなく真実の姿を画い
て後世に伝えて欲しいとの願いから、元艦上攻撃機の操縦員として、失礼を省みずに敢え
て解説を試みました。失礼の段平にご容赦ください。