台湾沖航空戦 2004-12 光人社
膨大な資料の収集、多数の関係者からの聞き取り調査など、ご努力には敬意を表します。
しかし、それを表現する肝心な「軍事用語」その他に「画龍点睛ヲ欠ク」面が見受けられ
ます。また、取材された関係者の話には思い違いや誇張した話もあります。必ずしも真実
のみとは限りません。これらの取捨選択にも問題があるように思います。
1、用語について
☆海軍階級の略称。
*飛行兵長(飛長)*上等飛行兵(上飛)*一等飛行兵(一飛)*二等飛行兵(二飛)
上等飛行兵を上飛兵とは略しませんでした。
☆出身略称その他。
*予備学生(予備学又は予学)*予備生徒(予備生又は予生)
*予備練習生(予備練又は予練)予備学生を予飛とは略しませんでした。
*航法士官(操縦士官と偵察士官との区分はあっても、航法士官の呼び名はありません。)
☆その他用語。
*擬襲 襲撃運動と推察します。
*機上測角訓練 偏流測定訓練と推察します。
*吊光弾 吊光投弾 吊光投弾に統一したほうが・・・
*自差修正 当時は磁差修正とも言っていました。
*模擬魚雷 演習用魚雷 訓練用魚雷 訓練用魚雷に統一したほうが・・・
*側程五〇〇浬(152頁)側程の意味を理解していませんね。
*「編成表」や「搭乗割」は使いますが「編成わり」とは初耳です。
*攻撃隊員(射手)と記述していますが、当時は「攻撃員」と呼んでいました。
*連合艦隊はもう、聯合艦隊に直してよいのでは?
☆行動内容等。
*鹿屋基地から与那国島へ編隊で飛ぶ場合。列機の偵察員は後続機航法の任務があります。
「特に作業はなく見張りに専念する。」と述べています。(168頁)
一番機が故障離脱した場合。機位を失した彼はどうするのでしょう。
*7.7ミリ機銃の弾倉は97発です。
*機長の命令により魚雷は放たれた。(213頁)
魚雷は主操縦員が照準して発射します。機長の命令は不自然です。
*台北を発動点にして高度二〇〇メートルで、(223頁)
二〇〇〇メートルの間違いでは?
☆雷撃について。
魚雷発射後、敵艦の甲板を飛び越えるなどの記述があります。この魚雷は命中しません。
HP 10−6 雷撃の理論と訓練 をご一読ください。解説します。
目標艦。艦の全長200メートル・速力30Kt.で走航と仮定。
雷撃機。240Kt.、距離1000メートル、高度50メートルで魚雷発射と仮定。
雷 速。空中弾道を含め、平均42Kt.と仮定。
魚雷が目標と交差する1000メートル先の地点に到達するのに、≒48秒。
目標が30Kt.で直進すれば、48秒後には約720メートル進む。
雷撃機が魚雷発射後、直進して同地点に達するのに、≒8.5秒。
この間、目標艦は、30Kt.の場合約127メートル進む。艦首は+100メートルで、
227メートル。
720−227≒493メートル。雷撃機が魚雷発射後直進した場合、艦首の約500
メートル前を横切ることになる。
当時、1Kt.を秒速に換算する便法として、1Kt.≒0.5メートルで計算していました。
30Kt.≒15メートル。20Kt.≒10メートル。多少の誤差はあるが、即時に答が出
せるので重宝していました。(1浬1,852メートル)
雷撃機が魚雷を発射後そのまま直進すれば、目標艦艦首の約500メートル前を横切るこ
とになります。雷撃機の操縦員は心理的に、対空砲火から逃げたいと思います。敵艦から
離れることは考えても、発射後にわざわざ敵艦に近づくことなど考えられません。だから、
停泊艦の攻撃以外に敵艦の上を通過することなどありえません。
☆陸軍雷撃隊の編成。 陸海軍協議の疑問(27頁)
教育に必要な魚雷、一人当たり昼間十本、夜間五本の計十五本は海軍が負担する。とあり
ますが、この資料は再吟味する必要があると思います。
艦上攻撃機の実用機教程では、雷撃は必須科目です。発射運動(単機による照準及び魚雷
発射の訓練)と襲撃運動(編隊による攻撃要領)は徹底的に実施されます。そして最後に、
実艦を標的に訓練用魚雷の発射訓練を行います。
ところが実射となると、標的艦や魚雷回収艦艇との調整などが必要となります。課程修了
までに体験できるとは限りません。現にわれわれのクラスでは、姫路空は大分空に移動し
て、一回実施しましたが、百里原空は実施出来ませんでした。
次に、実施部隊での練成訓練は、二〜三ヶ月間実施されますが、やはり発射運動と襲撃運
動が主体です。訓練用魚雷の発射は最後の仕上げに、二〜三本行う程度です。こんな状況
を熟知している海軍関係者が、陸軍の訓練に一人当たり十五本も提供するとは到底考えら
れません。
陸軍の一個飛行戦隊五十人として、七百五十本。四個飛行戦隊で、三千本。
★以上、所見を述べさせて頂きました。今の読者には受け入れられても、体験者からみれ
ば違和感のある記述です。