映画 「THE WINDS OF GOD」
KAMIKAZE 2006-6
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この映画の鹿児島での試写会に招待されました。問題の多い作品です。特攻隊の生き残りと
して、特攻戦死した英霊に対して、失礼に当たるので無視すべきか、それとも時代考証に問題
はあるにしても、特攻の姿を後世に伝えるため、進んで推奨すべきか未だに迷っています。
当時の体験者として、特攻の真の姿を理解して頂くために、関係者には失礼と思いましたが、
敢えて問題点を指摘させて頂きました。先ず、鹿児島県の第一国分基地の設定とのことですが、
国分基地の司令は大佐です。当時九州地区の海軍中将は、鹿屋基地から大分基地に司令部を移
した、第5航空艦隊司令長官、宇垣中将以外には居りません。国分基地に中将(司令長官)が居
るとの設定は無理です。
また国分基地からの「零戦」出撃は4月迄で、5月以降は1機の「零戦」もこの基地からは
出撃していません。
中将の階級章が逆です(左)。司令長官が参謀の飾緒を着けています(右)。有り得ません。
これ以外にも、飛行兵長設定の人物が、2飛曹の階級章を着けていました。
また「巡検ラッパ」であるべき場面で、陸軍の「消灯ラッパ」が吹奏されていました。
海軍では日課終了に際して、当直将校が各部を点検のため巡回します。その「巡検ラッパ」
を挿入しました。お聴きください。
ライフジャケットの紐の結び方です。右が正しい結び方です。
これ以外にも、マフラーの巻き方その他間違いだらけです。
折角飛行可能な「零戦」を飛ばしての映画なのに、出撃の「零戦」が爆弾を積み忘れています。
(画像修正の不手際?)
飛行場の吹流しが「赤・白・赤」の斑になっています。正しくは「白・赤」です。
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第三種軍装の襟元や階級章が気になっていました。その原因が判明しました。釦3個の左側は
間延びして、だらしがないですね。右側の釦4個が正解です。またネクタイは紺色ではなく、
服と同色だったと思います。右の写真の1飛曹が衿に着けている記章は何でしょう。当時は、
あんな物付けていませんでした。
この敬礼は陸軍式です。海軍の敬礼は肘を横に張らず、45度です。
これ以外にもいろいろな問題があります。要するに、時代考証に欠けているため、体験者か
らみますと違和感があります。公開までにどれだけ修正できるかが正念場と思います。
舞台「THE WINDS OF GOD〜零のかなたへ〜」
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この映画は鹿児島の試写会で拝見致しました。そしてこれに対する所見は既に述べたとおり
です。8月24日、福岡市天神の西鉄ホールで舞台を観賞致しました。これについて所見を
述べさせて頂きます。
先ず、海軍の特攻隊の設定に拘わらず、陸軍の用語などが混在しています。
以下体験者として気になる内容と、改善策などについて、所見を述べさせて頂きます。
●是非とも是正して欲しい事例。
◆可能な限り是正して欲しいと思う事例。
□間違いですが、是正するまでのことはありません。
◆士官室には従兵がいて、掃除や食事準備などします。士官が直接箒や雑巾などを持つこと
はありません。設定を変更すべきだと思います。
◆海軍の一人称は「私」です。「自分」は陸軍の用語。「僕」は同僚や目下に対して非公開
の場でしか使用しない言葉です。
◆「点呼」は陸軍の用語で、海軍に「点呼」はありません。
●陸軍の「消灯ラッパ」が流れていましたが、海軍の「巡検ラッパ」に直した方が、旋律も
宜しいかと思います。
●18年の学徒出陣で飛行予備学生で入隊した少尉には、19歳は居ません。20歳以下の
特攻隊員は予科練出身者には居ますが、士官には居ません。
□「腕立て伏せ」は海軍では「前に支え(まえにささえ)」と言っていました。
●ライフジャケットの紐の結び方について、当日も説明しましたが、装着を急ぐ必要がある
のなら、2ヶ所の小紐と中心の太紐は結んだままにして、Tシャツを着るよう上から被る
ようにします。次に下からの紐は前で正しく結びます。そして、後ろの部分を切り離して
いて、装着した後、ホックで止めるようにしたら如何でしょうか。
以上、僭越ですが元海軍特攻隊員として所見を申し上げました。今回映画や舞台を拝見して
特に感じたことは、時代考証にはやや難点があるものの、今井雅之氏を始め出演者の方々の
「特攻隊」に対する熱い姿勢に感銘を受けました。
皆様! 機会がありましたら是非ご観覧ください。亡き戦友の願いをこめて・・・永末千里