中西達二中尉遺書(常磐忠華隊) 遺 書 出撃の前日南九州某基地にて私の雑感雑念をしたためて 御両親様へ不幸をお詫びする次第であります 生をうけて二十有三年 その間を回顧すれば限りなし 誰のためにもあらず 唯御両親様に育まれて今日に至りました あゝ我その御恩に報ゆること何一つなし 萬感交々至り筆進まず 大日本帝國の危機愈々到来しました この時に当たり私は出撃を望み 選ばれて特攻隊員となりました 私の宿願ここに達せられ無上の栄光に思っています 畏多くも天皇陛下より 「南西諸島の戦闘は 我が国の存亡にかかはる戦ひであるから 全力をあげてその目的を達成せよ」とのお言葉をいたゞきました 聯合艦隊長官は 彼のＺ旗をあげられました この時 体当たり部隊の一指揮官として出撃する私の本懐これに過ぐる ものはありません 父上母上泣いてください いくら泣いてもよろしい 今眼前に次々映じてきます 先日こちらに来る際 山口の上空を旋回して皆んなにお別れしようと思っていましたが エンジンが少々悪くなったので宇佐に下りて修理したため 時間がなくなって山口まで行けなかったのが残念です しかし 大島郡は眼下に見て方便山もはるか彼方に見 たしかに機上で 皆にお別れした気でいます 不忠の臣達二は 今ここにやうやく忠義の大道に取り付かうとしています しかしまだ忠の道は深遠です 不忠の臣達二が不忠の臣で終るのは当然で あり私は満足であります 私は教官となって以来出来るだけの努力をして 御奉公をつづけて来ました 私は全力を尽くして御奉公し得たと信じて 今満足しています 今出撃するに当たり多くの人々から惜しまれますが 惜しまれる私は実に 幸福と思ひます 短かった人生を 私ほど運よく華やかに過ごしたものは 少ないだろうと感謝しています 多くの人々のおかげです 泣いて私を弔って下さい しかし 父上 母上 私の本懐を察して下さい その昔姉の言った言葉 私はまだ忘れては居りません 姉も墓の下で私を 待っていてくれることと思ひます 現在の私には何等心残りはありません 唯一父上母上の悲しみが気にかゝります 父上にも母上にも私の死は最大 の悲しみだらうと思ひます 悲しんで戴ければ 私も安心して出てゆける思ひがします がしかし 私は決して死にません 悠久の大義の道にいつまでも歩を進めています そうして必ず帰って来ます あの靖国神社に あの護国神社に 亦 父上母上の枕元に 山口にも既に桜が咲いていると思ひます 明日散る桜が私だと思って下さい 私はかつて「忠花」といふ名前をつけました 忠花があす散るのです 或ひは未だ開かずに散るかもしれませんが 私の隊は出来れば「忠花隊」と名づけたいと思っています 山口のあの山この川あの道この家 明日私は十一時二十分 魚雷と同じ大きさの爆弾を飛行機にかかへて 後に 予備学生出身の田沢少尉と予科練出身の阿部二等飛行兵曹とを乗せて 出発します 後日新聞社からか若しくは大本営からか三人で一緒にとった写真が行く かもしれませんが そのときは一緒に弔ってやって下さい 亦 私の隊の中には上羽坂の滝本少尉（恭三と同級の滝本君の兄さんで 私よりも附属のときも山口中のときも一年上級だった人です）が 一緒にゆきます かつての上級生ではありますが今では私の部下となって 喜んでついて来て呉ます 共に秋枝中佐にまけまいと約束しています 私もあと約二十日で大尉に進級するのでありますが 死んで中佐にならうと少佐にならうと階級はどうでもよろしい 大義の道にかわりはなく敢えて進級を望みません 私は父上母上から宗教心を持つように言はれましたが 何もこれとて考へ ませんでした しかし今別に迷ひません 唯明日体当たりをする寸前 どんな気持ちになるかゞ気にかゝります これも父上母上のいはれる通りにしなかったためだとただ後悔しています まよわぬために歌でもうたって体当たりしてやらうと思っています 私達の目標は敵空母であります きっと轟沈させてやらうと思っています 我に天祐神助あり必中轟沈の確信があります どうか四月十日前後の大戦果をもう一度見て下さい その内には私が沈めた空母が一隻ある筈です 先日多数の同期生と教へ子のものが第一陣をうけたまわって特攻隊として 出てゆき大戦果をあげましたが 皆んなニッコリと笑って元気に私に挨拶 をして出てゆきました 今度は私がニッコリ笑って元気に出てゆく番です 私達三人がドカンとやれば 何千人かの米軍が道連れに地獄まで来てくれ るかと思へば実に愉快です 人生にこれ程胸のすくことはないですよ 明日の出撃はよくよく考へてみると実に楽しい気がします こんなに嬉しく出てゆける私は本当に幸福者と思います さて最后に一つ 父上様私はからうじて家門を汚しはしなかったと 確信しています 寧ろ衰へかけて中西家の誉を一部とりかへし得たと 思ひます あとは恭三にたのみます 恭三もキット立派にお国のために 働いてくれるものと信じます 父上には失礼かもしれませんが 私は敢えて中西家の断絶をいとひません「家亡ぶとも国全ければ可なり」 といふ考へであります 今国の危機です我が大日本帝国が亡んだとしたならばどうなると思ふとき 家はどうでもよいといふ感を深くします 我が国に於いては国家あってはじめて成り立ちます 我が中西家は父上一代で断絶するとも どうか父上おゆるし願ひたいと 思います あゝとりとめもなく唯思ひつくまゝに書きつらねました 一応これで筆をおきます 父上母上様の莫大なる御恩も 体当たり一事を以てお報ひする覚悟であり ます どうか御両親様益々御自愛されて御多幸ならむことを地下よりお祈 りいたします 四月某日 南九州にて 中 西 達 二 御両親様 散る桜 残る桜も散る桜 散って 護国の花と啓かむ 嵐吹けば つぼみ桜も惜しからず 手折りて捧げむ 大君のため 神風特別攻撃隊・常磐忠華隊は、昭和二十年四月十二日午前十一時十分、鹿児島県串良 基地を発進し、沖縄周辺の敵艦船群に対して全機「体当たり攻撃」を敢行したことが確認 されている。その功績は、聯合艦隊告示一四三号で全軍に布告された。 編 成 操偵電 階 級 氏 名 （出身県・経歴） 第一小隊 一番機 操縦 大 尉 西 森 秀 夫（福井・岐阜高農９） 偵察 飛曹長 田 辺 武 雄（鹿児島・偵練） 電信 上飛曹 春 原 宗 治（長野・乙飛１０） 二番機 操縦 中 尉 右 高 武 男（愛知・東京高師１３） 偵察 少 尉 滝 本 義 正（山口・山口高商１３） 電信 上飛曹 石 原 勝 （北海道・乙飛１６） 三番機 操縦 上飛曹 高 尾 重 夫（山口・操練） 偵察 少 尉 酒 巻 一 夫（埼玉・中大１４） 電信 二飛曹 須 藤 岸 雄（埼玉・乙飛１８） 第二小隊 一番機 操縦 中 尉 中 西 達 二（山口・海兵７２） 偵察 少 尉 田 沢 義 治（東京・一早高１３） 電信 二飛曹 阿 部 正 （東京・乙飛１８） 二番機 操縦 上飛曹 横 山 安 詔（鹿児島・丙飛８） 偵察 少 尉 横 山 保 （宮城・明大１３） 電信 二飛曹 田 中 宏 平（岡山・甲飛１２） 三番機 操縦 上飛曹 増 子 定 正（福島・丙飛８） 偵察 少 尉 川 野 博 章（兵庫・明大１４） 電信 二飛曹 奈 良 営太郎（秋田・乙飛１８）
常磐忠華隊の勇士。
後列左から 高尾上飛曹・横山少尉・田辺飛曹長・横山上飛曹・増子上飛曹 中央列左から 酒巻少尉・右高中尉・西森大尉・中西中尉・滝本少尉・川野少尉 前列左から 須藤二飛曹・石原二飛曹・春原上飛曹・阿部二飛曹・田中二飛曹・奈良二飛曹