定所着陸訓練
「特殊飛行」や「編隊飛行」と並行して、「定着(定所着陸)訓練」が実施される。そ のため、着陸地帯の一部分に、白い布板(縦二メートル幅一メートル)を並べて、幅四十 メートル、長さ二百メートルの区画を作る。これを定着マークと呼ぶ。航空母艦の飛行甲 板を想定した広さである。風に正対するのは当然である。 定着訓練とは、飛行機をこの小さな区画の中に着陸させる練習である。定着訓練は着地 する場所が制限されるだけで、飛行機の着陸操作そのものは変わらない。定着マークが置 かれた場所によって、第三〜第四旋回の位置の見当をつけながら誘導コースを回る。一番手前に置かれた定着布板を艦尾マークと呼ぶ。その前方五十メートルの左側に着陸 指導板がセットされる。地面の高さに青色(芝生の飛行場では白色)約一メートルの高さ に、赤色の指導板(幅約三十センチ長さ二メートルの木製板)を置き、その間隔を調整し て、この二つを見通した線が五・五度から六・五度になるようセットする。風速によって 角度を変える。風が強いほど角度を大きくする。飛行機の沈みが大きいからである。 飛行機はこの着陸指導板を見通した線上を降下する。青を自分に見立て、青が上に見え れば高過ぎ、下に見えれば低過ぎと判断して修正しながら降下する。高度三十メートルま でにグライドパスが安定しなければ着陸をやり直すことになる。エンジンを入れて、再び 誘導コースを回る。安定したグライドパスで艦尾マークを通過する時点が、ちょうど眼高 五メートルである。エンジンを絞って機首を引き起こせば、着陸指導板の横ぐらいに軽く 接地する。 夜間飛行の場合は、区画を示す布板を夜間でも見えるカンテラに置き替え、着陸指導板 も、着陸指導灯と呼ぶ赤色と青色の電球を並べたものに取り替えて、バッテリーに接続す る。これらを「夜設」と呼ぶ。だから、定着訓練は夜間飛行の準備であり、また、航空母 艦に着艦する訓練にも通じるのである。 また「特殊飛行」に続いて「計器飛行」も実施される。飛行眼鏡に細工をして、眼前の 計器盤や操縦席の中だけしか見えないようにする。教員の指示で水平飛行や旋回など計器 だけを頼りに操縦するのである。外が見えないのでだんだんと不安が増してくる。しかし、 雲に入って地平線が見えなくなった場合や夜間飛行に備えて絶対必要な訓練である。 編隊飛行では、単機で離陸して空中で集合する要領から始め、次に、編隊を組んで離陸 する。また編隊を解散する要領も練習する。三機編隊で飛行場上空に帰った場合、風下側 から進入し、指揮所上空で編隊を解散する。一番機の小さなバンクを合図に、一番機は左 上昇旋回、二番機はやや機首を下げて直進、三番機は右旋回で一斉に解散する。一番機は そのまま「誘導コース」に入る。二〜三番機はそれぞれ約千メートルの間隔を開きながら 一番機の後ろに従って、次々に着陸する。 鹿児島航空隊の予科練時代、二六一航空隊(虎部隊)の零式戦闘機が訓練から帰投して、 爆音を轟かせながら解散する勇ましい姿を毎日眺めていた。だから、編隊解散の要領だけ は谷田部航空隊で習う前から理解していた。
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