「零戦」と「隼」 その性能差の謎!?
「零式艦上戦闘機」と一式戦「隼」。ほぼ、同時期に誕生し、ほぼ同じ機体サイズ
を持ち、同じエンジンを装備するこの2機種。ところが、かなり違った速度性能を持
つこの2機種。その性能差の「謎」について、そこにのみ焦点を当てることが今まで
ほとんどありませんでした。そこで今回は、そこにのみ焦点を当てて、その「謎」を
少しだけでも解明してみたいと思います。
「零戦」11/21型の最大速度は533q。対する「隼」の最大速度は495q。
この38qにも及ぶ差は、いったいどこから来るのでしょうか?機体を細かく分析し
て、その解明を試みてみましょう。
1.主翼
「零戦」の主翼平面形は単純なテーパー翼で、翼端を丸く整形してあります。
対する「隼」の主翼平面形は、後退角0度で前縁を左右で一直線とし、主翼の
空力中心線で見ると前進翼となっています。「隼」の平面形は失速特性はいいで
しょうが、これがまず空気抵抗的に「零戦」を有利にしています。翼厚比はほぼ
同じ。翼幅,翼面積ともに「零戦」がわずかに大きいものの、その差はわずか。
と、その他のデータは特に差がつきそうなものが見あたりません。
2.胴体
単純な幅と高さで見ると、どちらも「隼」の方が小さく、良さそうに見えます。
しかし、ここに大きなくせ者が隠れています。プロペラ後流の関係で胴体はエン
ジン直後から機尾にむかって絞っていった方が抵抗が少なくなります。両機とも
これに合致していますが、形状的に大きな違いがあります。「零戦」は機尾に向
かって紡錘型に絞っているのに対し、「隼」のほうはほぼ一直線です。実はこれ
は、「零戦」のほうが正解といえます。両機それぞれのプロペラ後流について計
測したデータがないのであくまで推測なのですが、「隼」の形状では「絞りすぎ」
の状態になっていて、高速ではある程度気流が剥離している状態になっていると
思われます。「隼」の形状でも「Fw190」のように、エンジン直後にロケッ
ト式の排気管を並べてあれば、その排気によって剥離を防ぎ、逆に抵抗を減少さ
せることもできるでしょうが、集合排気管ではそれも望めません。
3.プロペラ
私は最大の犯人はコイツだと思っています。「隼」の方が直径が小さいうえに
羽根数も2と1つ少ない。平面形はほぼ同じなので、単純計算すると有効面積で
1.5倍以上の差がでます(実際はスピナと付け根付近のほぼ揚力を発生しない
部分があるのでそこまでの差は付かないが)。この差は非常に大きい!ヘタする
とこれだけで15〜20qぐらいの差はすぐついてしまいます。その他、これは
上昇力にも影響を与えますから、「隼」の方が重量が軽いにも関わらず「零戦」
とほぼ同じ上昇性能(実際の比較テストでは「零戦」が上回った)しか出せな
かった理由はここにあります。
4.尾翼
水平、垂直とも「隼」の方が面積が小さく、これは「隼」の方が有利な条件と
言えそうです。ただし、「零戦」は機尾を円錐型に絞ってあり、機尾から剥離す
る空気の流れは「零戦」のほうが良さそうなので(水平飛行をしている場合)、
その差は、実はほとんどないかもしれません。
5.風防
「隼」の方が全面投影面積は小さいですが、形状的には角張っていることも
あって、空気剥離を起こしやすいといえます。ただ、「零戦」の方が枠が多い
ので、それらを加味するとほとんど変わらないというところでしょうか。
6.重量
全備重量で約360sの差と、明らかに「隼」のほうが軽いのですが、実は
重量は上昇性能に影響こそすれ、最大速度にはそれほど大きな差を生みません。
以上をもって結論づけるなら、1.〜3.で「零戦」が勝り、4.〜5.は、ほ
ぼ同じ、6.は若干、「隼」が勝るということになると思います。
そこで、それらをおおざっぱに数値に換算してみると、「零戦」から見て、
1.で +10q
2.で +10q
3.で +20q
6.で − 5q
だと予想できますから(う〜ん、かなり強引かもれない)、その差は+35qと
いうことになります。4.〜5.が残り3qの誤差だと判断してしまえば、おお、
ちゃんとカタログ値通りの差が出たではありませんか!良かった、良かった!
と、いうことで、今回は少し(だいぶ?)強引でしたが、理屈的にはそう的外れ
ではないと思っています。
最後に、「隼」弁護の立場から一言いわせてもらえば、技術的興味からから言え
ば、「零戦」より「隼」の方がはるかに大きいといえます。
まず、「蝶型」と呼ばれたファウラー・フラップ(「零戦」は単純な開き下げ)、
特徴的な主翼平面形(「零戦」は単純なテーパー翼)、尾翼をできるだけ機体の後
方に配し面積を減らしたこと、機首の環状オイルクーラーなどです。結果的にそれ
が失敗だったとしても、私の興味は確実に「隼」のほうにあります。