開き直る45万5千おまけ
戦前・戦中通俗(軍事)文化の紹介と啓蒙などと云えば、高尚なモノのようであるが、近頃はやりの云い方をすれば、「世間に注目されたかった」と云うことに過ぎない。
「兵器生活」を開設した当時、この分野のウェヴサイトは数少なく、地道に活動すれば諸先輩方と同じ土俵に上がれるに違いない、と確信を持っていたのであるが、本人の思惑とは大違いで、世間様の注目をそれほど集めていないところまで、世の中を騒然とさせたいくつかの事件の背景とおんなじだったりする。
「と云うわけで」と続けるとエライ事をしでかすんじゃあないか、とご心配される方がいるやもしれぬが、集めたモノ、調べたコトを外部に発信する行為と云うものは、「三日やったらやめられない」。何故にその楽しみをうっちゃり、我が身を司直の手に委ねなければならないのでしょうか?
と云うわけで(笑)、日常生活に不満のある人は、古本屋なり図書館で、誰も手に取らないような本の感想文を綴って世間に紹介してみることをお奨めしたい。元ネタが面白ければ、発信者の文章の下手さには言及はされず(続けていれば文章は洗練されてくるし、本屋さんに行けばさまざまな、『世間に通用する文章の書き方』を指南する本もある)、たとえ目が汚れるような本(読み手の『眼のウロコ』が、そう思わせるのが実状である)であっても、世紀の名著であるかのように紹介出来るのなら、すでに相応の文章構成力があると云うことになる。刃物屋に行くのは、それからでも遅くない。
ネタは世間に無数とあるのだが、それを外に出せるカタチにする気力に乏しいのが目下の悩みである。
使えるネタを拾うまではともかく、原典の文章を一語一句キーボードで打ち込むのは、案外面倒くさい。書き手によって送りがなの使い方が異なる、漢字が一発で変換されることはまず無い。文章が長ければ一文字一秒としても、相応に時間がかかる。
よって、面白いのだが要約すると面白さが抜けてしまうようなネタは投入出来ず、手頃なネタは数がない。しかも、そうやって時間と労力、モノによっては資金を投入したコンテンツが
世間にウケる保証はどこにも無い
にもかかわらず、やめられないのは「こんなもんウェヴに載せるバカは日本で俺だけだよな」と云うベクトルのずれた満足感があるからで、本人の半径5メートメだけの世界は早晩煮詰まり、、過去の本でもインドの路上でも、とにかく外界につながるチャンネルを持っていれば、なんとかやっていけるものなのである(競合がある場合は、相手を凌駕すべく精進するか、逆に相手と『お友達』になり『交友録』にしてしまうのも手である)。
余談はこの程度にして(あまり長くやると読者様が逃げてしまう)、今回ご紹介するのは、「機械化」昭和19年5月号に掲載された「海上要塞」である。描いたのは最上三郎。云うまでもないが、「日本三大茂」の一角、小松崎茂の別名である。
海上要塞
これは洋上に浮かぶ要塞で、全体の形は楕円形で巨砲を有し高射砲及び多数の機銃を備え、シュナイダー推進器を採用し舵を兼用して、その行動は自由自在である。
浮き輪をつけた「鉢かつぎ」が犬かきをしているような画の各所に、細部の説明がある。
中央の「十六吋(インチ)砲」塔の上には「電波探知機」のアンテナが聳え、主砲塔まわりには「高射機銃塔」(四連)、「四吋砲」塔が取り囲み、船体?内部には「兵員室」、「弾倉」、「機関部」、「燃料倉」が、おなじみの「二重底」でガードされ、シュナイダー「推進器」がニョッキリ出ている。
はるか彼方に敵船が沈み、米軍機が撃墜されてる。一機は観測機である。
「こんな新兵器、『兵器生活』で見たよーな気がするなぁ」と思ったアナタには、「兵器生活優良読者賞」を進呈しちゃいます♪(受賞資格があると思った方はここをクリック!) 何のことだかピンと来ない新しい読者のみなさまは「水中移動砲塔」を一読されたい。真っ先にロシアのお盆軍艦ノブゴロドを思い出した方には、残念ながら何も進呈するモノが御座いませんが、それが一番正しい反応でしょう。
艦隊・港湾防空用途の「水中移動砲塔」と、敵艦隊撃滅を狙う(16インチ−40センチ砲!)「海上要塞」、その用途は違っているが、砲塔をシュナイダー推進器によって「自由自在」な行動を可能とする(実際に造ってみた後のことは知らない)設定には、影響を受けた以上の強いつながりがあると云って良いだろう。
砲塔を廻すのと、船体そのものを回転させるのと、どちらが大砲にとって都合が良いのかを、素人が想像図相手に想像を逞しくしても答えは出てこないのだが、大砲が自由に旋回してあらゆる方向に砲口を向けられるのであれば、船体が自由自在に動かなければならない必然性は低いのではないだろうか? 「水中移動砲塔」(『海上要塞』の『高射機銃塔』一つが、これ一つに相当することになる)の場合は、狭い港湾内を、停泊する艦船を縫って布陣する必然が感じられるが、16インチの大型砲を、沿岸砲台設営の手間を省いて展開させるだけであれば、普通のモニター艦※にすれば目的は達成されるだろう。「新兵器」のハッタリ度は高いが、それだけである。
※モニター艦:喫水の浅い船体に、船体に比して大きな砲を搭載した艦艇。低い船体で敵弾を避け、大口径砲で一撃必殺を目論む、沿岸防御用の艦艇。逆に攻撃側が沿岸への砲撃用途で建造した例もある。「戦艦」同様今日流行らない艦艇である。
この「機械化」昭和19年5月号で小松崎茂は、表紙、「新案兵器・水陸両用攻撃戦車と機関銃車」(最上三郎名義)、「戦車上陸用艇」(三村武名義)と本図を描いている。つまり毎月3つ4つは「新兵器」を捻り出さなければならないわけで、好きな道とはいえ、毎回毎回新しいネタを創るのは大変でしょうね、と思いつつ、せいぜい月に一つネタをどこかから見つけてくるだけの我が身がなんとも小物に思えてしまうのである。
長く個人サイトをやっていると、こう云うワザも使えるようになるのだ。身辺雑記だけでは、こうもいかんでしょう(笑)。