大戦末期ドイツ事情の29000おまけ
「頑張れ」と云う言葉は要注意である。特に鬱病者に対しては不用意に用いてはならない。鬱病者に限らず、当人が「もう駄目だ」と思っている時、善意からこの言葉を投げかけても、相手が本当に「駄目だ」と確信していたりすると、逆に「勝手な事云いやがって」と恨まれる場合さえあるのだ。
昭和19年末のドイツに「頑張れ!」と云うのも、実は同じ事が云える。そもそも戦争においての「頑張れ」とは、それを投げかける相手が相当しんどい状況にある事に他ならず、あまり良い言葉ではない。戦争をしている仲間に対して喜ばれる言葉は、やはり「もっとやれ」であろう(とは云え、個人的には「もうそのへんにしといたら」と云ってやりたい)。
昭和19年末頃の「陸軍画報」において、「頑張れ独逸!」と云う見開き記事には、お互いにっちもさっちも行かなくなってしまった戦争当事者の不幸がある。
このP−38を噴進式発動機にしたような飛行機のイラストには、以下の文句が連なっている。
V一号よ!お前は未だに世紀の謎だ。もっと徹底的にあばれ廻ってくれ!
なんかカタチがずいぶん違っているように見えるが、何か別なモノと勘違いしているように思えてならない。
敵機の来襲を遠距離にとらえ高度、速度、方向を探知 自動的にこれを友軍制空陣(邀撃)隊へ通報する独逸の新鋭電波探知機
自動車で運ばれたロケット砲の設置。見る通り簡単なもので一時に二発も発射し二人の兵が操作する
縦横に流れた飛行機雲はドイツ戦闘機のあと。独領土上空2、5000呎。気温零下三〇度。米機ボーイングの速度時速215哩
メッサーシュミット三二三号機
「グンテン」(巨人号) 後方に見えるのは同一〇八 ターフン号(連絡機)
戦車殺し二題
下段二枚(註:パンツァーファウストの写真は別稿で使用したので省略)は独逸の「パンツアーフアウスト」(装甲拳骨)と「パンツアーシユレツク」(戦車脅威)で目下欧州の戦場で敵胆を寒からしめている。二種とも歩兵が一人で操作し得る簡単なもの。
「パンツアーシユレツク」は丁度小銃の射撃と同じようにして筒からロケット弾を発射する。どんな丈夫な装甲板でも一発命中すればブレキ(原文ママ)のように叩き破られる。「パンツアーフアウスト」の方も同様で、砲弾は小型の流星弾といった形で、至近距離から戦車に対して発射され、十糎以上の装甲板をも見事に射ち抜く。
これだけであれば、ただの「独逸超兵器一覧」で終わるのであるが(何故か海軍艦艇の紹介は無い)、実はこの記事、以下の文章が冒頭に掲げられている。(適時改行)
勝利か死か。独逸よ、かねて予期した決戦の日が、愈々近づいたね。さあ共に頑張ろう、そうして共に勝ち抜こう。
我等が若しも敗れる事があったら、すべてが破壊される許りでなく、人類までが堕落する。そんな事があってたまるものか。我等は必ず勝つ。勝たねばならぬ。
ああ独逸よ、いま遙かなる同じ戦列から送る我等の勝利への熱祷に奮起して、宿敵を徹底的に撃ち盡せ!
現在の我々であれば「オマエモナー」と云い返されてしまいそうな文章である。
当のドイツ人が、この記事を読むことが出来たのかは、歴史の謎(あるいは主筆の怠慢)であるが、ドイツ人が当時の帝国日本にエールを送っていたら、どのような内容になっていたのだろうか。日本戦車の写真を見て「こんな戦車でヤツらは闘っているのか!」と呆れられていない事を祈る次第である…。