ナントカは高いところに上る

人気も高い? 28000おまけ


 高いものは良い。お寿司も、お酒も、高いものの方が、普通は「うまい」。
 だからと云うわけではないのだろうが、観光地には高い建造物が何気なく設置されていたり、もともと高いモノが観光地そのものとなっていたりする。


 「落下傘塔」と云う遊具がかつてあった。「落下傘塔のすべて」などと云う気の利いた本が無い以上、例によってエエカゲンな説明になってしまうのだが、高い塔に落下傘を吊り上げ、お客さんに落下傘降下を体験してもらおうと云う、絶叫マシーンの遠いご先祖様である。

 しかし、そう云う遊具も、何故か戦中の帝国日本では、「国防教育遊具」として取り扱われるらしく、以前広告だけ紹介した西宮の国防館にも、施設の一つとしてこの落下傘塔が存在したと云う。

 熱帯植物の中に突如表れた謎の鉄塔。江ノ島植物園にある展望塔である。かつては灯台として使用されていたこの塔が、実は「落下傘塔」のなれの果てであると云うハナシを知った私は、早速現地に向かったのである。

 高さ50米にも及ぶこの鉄塔、「有料」なのである。塔の入口で登頂料を払うのが本来なのであるが、この日はエレベータ前にて料金の徴収(あるいはチケットのモギリ)となっていた。実用一点張りのエレベータである。客がいっぱいにならないと上ってくれない。

 本当に「落下傘塔」であれば、60年は経過している。少なくともこの地に建ってから30年は経過しているため、御覧の通り錆びは浮き、ところどころは腐食している。

 展望台から地上を眺める。吹きさらしの展望台から下を見るのはなかなか痛快であるが、サイフを落とさないよう、注意が必要である。人が落ちれば命は無いし、落としたモノが人に当たっても大事である。

 天候に恵まれると、御覧のような眺望を得る事が出来る。お約束の「双眼鏡」も各所に設置されており、上空監視にも最適である(ただし双眼鏡が上を向くかどうかは保証の限りではない)。

 灯台は、昭和26年3月25日に点灯されたと云う。御覧の通り老朽化も激しく、解体撤去の話もあると聞く。上りはエレベータであるが、降りは通常は階段を使う。
 この階段も適度にボロく、高所恐怖症のパートナーと訪れると、趣があって良いものだ。もちろん、一人密かに訪れて、周囲のアベックを「ケッ」と睨み付けるのも大人の嗜みと云うものであろう。


 現在でこそ、青色の展望台であるが、当初は黄色と焦げ茶のマダラ模様であったらしい。元「国防教育遊具」ならではの配色ではないだろうか…、
 と本稿を閉めるところだったのだが、手元の資料にあった「落下傘塔」の写真を見て驚いた。

(一億人の昭和史 日本陸軍史)

 恐らく、江ノ島展望台の元となった多摩川園の落下傘塔の写真と思われるのだが、見ての通りカタチがかなり異なっている。どうもこの展望台よりも高さがあったように見える。
 そのまま移設したのではなく、解体した塔の部材を再利用して、展望台は作られたのではないだろうか。落下傘塔そのものの写真がこの一枚しか無いため、結論は例によって無い。今後の資料発見に期待しつつ、本稿を終えるのである。