ダグラスTBDデヴァステーター

 1934年6月30日付で発注された、建造中の新鋭空母ヨークタウン級に搭載すべき次期艦攻の要求仕様に従って開発された機体である。
 ノースロップBT-1やボートSB2Uと同期ということになる。
 海軍初の全金属製機にして艦上機初の単葉機という記念すべき機体でもある。
 対抗馬のグレートレークスXTBG-1は新機軸満載のXTBD-1の保険として手堅く複葉でまとめられていたが、XTBD-1が好成績を収めたために早期に脱落。XTBD-1は順調に実用化の道を辿り、試作機に対する大幅な改修はほとんどなしに1936年にTBD-1として制式採用、2月3日に114機の量産発注にこぎつけた。
 このTBD-1が唯一の量産型で、1938年に15機を追加しているものの、開戦時にはほとんどの機体が5〜6年落ちのくたびれかかった状態にあったわけである。
 日本風に言えば「九六式」にあたるが、九七式一号艦攻に比べても翼の折畳みを油圧で行なうとか、新鋭のノルデン爆撃照準器を備えるなど、進んでいる面も見られる。
 とはいえ、この航空技術大発展期の1年という差はやはり大きく、全般性能面では九七式一号艦攻の方がやや優れ、またその後改良を加えられなかったTBDに対し、エンジンを本命の栄に換装した九七式三号艦攻とでは更に差がつくことになってしまった。
 脚は後方へそのまま引上げる半引込式であるが、これは胴着時の緩衝というよりも主翼が多桁式だったためにやむを得ずそうしたという部分が大きい。
 魚雷搭載の場合は胴体下面のフェアリングを取り外して魚雷頭部を下げ気味、尾部を胴体に半埋め込みにする感じで装着するが、ジャッキで魚雷を水平に持ち上げて搭載する便を図ったものである。
 日本海軍では魚雷はチェーンブロックを使って持上げるので、胴体下面に対して水平、地面に対してはやや頭上げでの搭載となる。飛行中の空気抵抗や投下後の空中雷道の面では日本式のほうが有利であるが、搭載にかかる手間は米国式のほうが有利といえる。(とはいえ、胴体内爆弾倉を採用したTBFでは米海軍もチェーンブロック方式に改めているのだが)
 胴体高さが高く、下腹がふっくら膨らんでいるのは、操縦士席の「下」、エンジン隔壁直後に、腹ばいで入り込む爆撃照準席が設けられているためである。この水平爆撃照準は中央席の爆撃手兼偵察員が潜りこんで行なう。
 雷撃照準は当然操縦士が行なうが、外から見える眼鏡式照準器は前方固定機銃専用で、雷撃照準器は別にキャノピー内にある。

 TBDの実戦参加は1942年2月1日のクェゼリン空襲に始まり、以降珊瑚海海戦やミッドウェー海戦にも参加している。
 ミッドウェーはTBDの実戦参加の最後の機会となったが、旧式ゆえに防弾装備皆無なうえに鈍足で、雷装時は非常に動きが鈍るとあっては零戦に抗すべくもなく、ヨークタウン・エンタープライズ・ホーネットから合計41機が発艦したものの、たったの5機が生還したに過ぎず、ホーネット隊(VT-8)に至っては出撃15機全てが撃墜ないし不時着水で失われ、文字通りに全滅という惨状であった。
 結果としてはこれら雷撃隊の奮戦により艦爆隊の奇襲が可能となったわけではあるが、それにしても特攻並みの決死の出撃であったろう。
 この戦い以降、TBDはグラマンTBFに道を譲って一線部隊からは退場し、本土で練習機として使われ、1944年11月には最後の機体も用廃となってスクラップとなった。
 現存機は1機もなく、老兵たるTBDは日本海軍との戦いに全てをすりつぶしてアメリカに尽くしたと言えるだろう。

 派生型としては、1939年に量産初号機をフィラデルフィア海軍航空工廠で双フロート水上機に改造したTBD-1Aがある。
 エド社製のフロートを取り付けた本機は、速度が30km/hあまり低下したものの飛行特性はおおむね良好で離着水性能も問題なかったが、海軍は採用は見送った。
 とはいえ、ダグラスと海軍ではオランダ領東インド(蘭印)空軍のフォッカーC.XI-Wの後継として、エンジンをブリュースターB339A(バッファロー)と共通のライトR1820-G105Aに換装したうえで売込みを図った。が、本国との商談はドイツの侵攻でパーになり、蘭印政府との交渉はあまりうまくいかないうちに、より緊急性の高い機種に予算が振り向けられてパーになっている。

(文章:まなかじ)


TBD-1Aです。

諸元
全幅15.24m
全長10.67m
全高4.60m
翼面積39.2m2
自重2,804kg
全備重量4,473kg
武装7.62mmコルト・ブローニングM2機銃*2(前方固定*1 後席旋回*1) 2000lb魚雷*1または、1000lb爆弾もしくは500lb爆弾*2または、100lb爆弾*12
発動機P&W R-1830-64 ツインワスプ 空冷星型14気筒 900馬力
最高速度332km/h(2,440m)
実用上昇限度6,000m
海面上昇率220m/min
航続距離669km(雷装時)
乗員3

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