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ヴァルティA-31/35ヴェンジャンス

 元来は、フランス空軍の発注によって開発が開始された機体で、社内番号はモデル72。
 海軍がボートV-156(ビンディケイター)を購入しようとしたのは別口の、空軍独自の急降下爆撃機調達の試みであった。
 7.62ミリ機銃を翼内に4挺、後席の旋回銃座には2挺(連装)、胴体内爆弾倉に500lb爆弾2発、翼下に250lb爆弾2発、ライトR-2600を動力に430km/hを出すという、隣国ドイツのJu87をはるかに凌駕する強力な急降下爆撃機の計画である。
 フランス空軍は一機も完成していないうちから300機という大量発注を行なっている。
 ヴァルティ社では新工場を準備するとともに、ノースロップ社の工場を借りる手筈まで整えたが、しかし、開発中にフランスは降伏してしまい、一時は宙に浮きかけた。
 このままではヴァルティ社は大損害を蒙るところであったが、英国がこれを肩代わりすることで開発は続行。
 ヴェンジャンスと名づけられ、ノースロップの生産分をMk.I、ヴァルティでの生産分をMk.IIとして区別した。
 しかし、試作機もできていないうちからの発注であるから、1941年3月に完成した1号機がそのまま試作機となる。この機体は完成時双尾翼であったが、地上滑走テストの段階で具合がよくないことがわかり、すぐに単尾翼に改修された。
 その他の部分ではいちおう不具合は見られず、実用し得る見込みが立ったので拙速主義でそのまま生産に入ることにし、1942年1月には引渡しが開始された。
 本機の機体外形がどことなく洗練さに欠けているのは、ゆっくりリファインしている暇がなかったせいも大いにあるだろう。同じヴァルティ社の飛行機でも、P-66ヴァンガードやBT-13ヴァリアントなどの機体ラインに比べると粗削りなところが目立つ。
 登場のタイミングとしてはこれ以上ない完璧なタイミングである。
 生産の立ち上がりはノースロップのほうが早く、初めの200機は英国が購入したが、その後の引渡し分はいったん米陸軍がA-31として購入し、レンドリース法に従ってヴェンジャンスMk.Iaとして送られた。ヴェンジャンスI及びIaは400機が生産され、全て英国に回された。
 ヴァルティのMk.IIの初飛行は1941年12月となり、引渡しは1942年3月からとなった。こちらは501機が生産されたが、243機は米陸軍機(A-31A)として就役している。
 各部を英国の注文によって少しづつ改修したモデル73は100機がA-31Cとして生産され、これもやはり全機が英国に渡されてヴェンジャンスMk.IIIとなった。

 次のモデル88は、固有武装を12.7ミリとし(翼内4挺、後席1挺)、離着陸時の操縦士の視界改善のため主翼取付角を変更。
 このタイプはデジグネーションも変わってA-35A(英軍名称ヴェンジャンスMk.IV-I)となり、99機が生産された。
 更に、翼内機銃を6挺に強化、翼下の爆弾架にも500lb爆弾を懸吊可能とし、エンジン出力を若干アップしたA-35B(英軍名称ヴェンジャンスMk.IV-II)が続き、一時は3000機近いオーダーを受けていたのだが、1943年5月に2035機ものキャンセルを受け、生産ペースも一気にスローダウンし、奇しくも1944年6月6日に831機を完成して生産は終了した。
 ヴェンジャンスの各型合計の生産数は1931機、うち英国が1205機、米陸軍が323機を受取っている。

 米陸軍ではまったく第一線での作戦任務には使用せず、標的曳航などの雑用任務に使用したにとどまった。
 自由フランス空軍もイギリスから供与を受けたが、短期間地上掃射の訓練に使用しただけである。
 オーストラリア空軍も英国から342機を受取っている(オーストラリア軍名称A27)が、オーストラリアではいったん400機を要求したものの58機はキャンセルしたという背景があり、ニューギニアで短期間作戦行動に投入されたが、主として訓練に使用された。
 英空軍もドイツ軍との戦闘には使用せず、主としてビルマ・アッサム方面で日本軍との戦闘に投入した。英軍でも初期型は早々に引っ込められてやはり標的曳航に回されたりもしている(なんと英海軍も1944年からヴェンジャンスT.TMk.IVの名称で使用)、どうやらヴェンジャンスはわりと見掛け倒しで、カタログ性能ほどの力量はなかったようでもある。

 双尾翼をつけていた試作1号機はエンジンテストベッドのモデル85として改造され、ダブルワスプをつけたXA-31Aとなり、さらに改造されて、なんとXR-4360-1ワスプメジャーを積んでXA-31Bに化けた。ヴェンジャンスは最大12Gに耐えるという頑丈きわまりない設計であったため、こうした大馬力エンジンのテストベッドとして使うには適していたのである。
 ライトR-3350-18(B-29用のエンジンである)をつけた機もあるし、5機ほどR-3350-17に4翅プロペラをつけて実用試験に及んだYA-31Cというのもある。

(文章:まなかじ)


オーストラリア空軍機。機体下面塗装から、訓練支援機として使われている機体。

米軍塗装のA-31

諸元(A-35B)
全幅14.63m
全長12.12m
全高4.67m
翼面積30.84m2
自重4,672kg
全備重量7,439kg
武装12.7mmブローニングM2機銃*7(翼内固定*6 後席旋回*1) 胴体内に500lb爆弾*2 翼下に500lbまたは250lb爆弾*2
発動機ライトR-2600-13サイクロン 空冷星型14気筒 1,700馬力
最高速度449km/h(4,100m)
巡航速度370km/h
実用上昇限度6,797m
航続距離2,253km
乗員2

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