great britain

デハビランドDH.93ドン
 英国空軍には、世界に誇る迷機ボールトン=ポール・デファイアントがあり、海軍にはブラックバーン・ロックがある。
 ロックはともかく、デファイアントが勝ち残ったF9/35(複座戦闘機ホーカー・デモンの後継機を決める要求仕様)には、当然力が入るであろう銃塔メーカーのボールトン=ポールの他、これまでのシェアの維持を狙うホーカー(ホットスパー)、ブリストル、アームストロング=ホイットワース、スーパーマリン(タイプ305、設計のみ)といった錚々たるメーカーが名を連ね、英国としては相当な気合を入れて臨んだ計画であったことが窺われる。
 しかし、デモンにはまだ前方固定機銃があったが、F9/35では、ボールトン=ポール製のブローニング7.7mm四連装、電動で全動力化された銃塔の威力に目がくらんでか、パイロットが撃てる固定機銃を全廃することになった。
 これはどういうことになるかといえば、パイロットは常に後席の銃塔の射界を頭に入れながら機動・占位しなければならないということを意味する。
 ふつうに考えれば、それだけで空戦にはダメだという結論にたどり着けそうなものだが、不撓不屈、頑固一徹の英国軍人は、これを訓練で克服すべきであると考えた。
 だが、この時期の英国空軍は貧乏で、多数の一線戦闘機を用いて実地訓練をする余裕がない。

 そこで製作されたのが、このドンである。
 1936年に要求仕様が出され、デハビランドは手っ取り早く1937年6月には初飛行にこぎつけた。
 木金混成(木の割合多め)のデハビランド製機スタンダードな構成であるが、エンジンにジプシー・キングを採用しているあたりが目を引く。このエンジンは他には使われず、結局ドン専用エンジンとなってしまったというもので、95台しか作られていないというマイナー発動機である。
 尾翼まわりもかなり安定性を意識したつくりで、このクラスの軽量機に動力銃塔を搭載する苦労を偲ばせる。
 前席は並列複座、後席には電動駆動の鳥かご風の動力銃塔を持ち、操縦訓練の場合はここにも教官が座る。これで、銃塔を回しながら前席のパイロット訓練生にああでもないこうでもないと指図をたれるという寸法。訓練生一人に教官二人をつけるというのだから、英軍の気迫たるや凄まじい。
 銃塔にも訓練生を配置して射撃訓練にも使う気はあったようだが、こちらはどちらかといえば添え物で、メインはパイロットの訓練にあった。

 1937年中には既に生産機が部隊配備されるという急ぎようで、英空軍の気合のほどがわかるというものである。
 しかし、1938年になって状況は一変、英国空軍は予算を潤沢にもらえるようになり、デファイアントでの訓練もできるようになった。
 ドンも、まだ試作機も飛んでいない1936年に250機の発注を受けたものの、30機を納入したところでキャンセルされてしまう。
 納入された30機も、後席の銃塔を潰して、連絡機として使用されることとなった。

 とにもかくにも、英空軍の複座戦闘機にかける(なにかがまちがった)情熱に翻弄された機体であるといえる。

(文章:まなかじ)

D.H.93 Don Mk.I
原型を保っている写真。連絡機になってからは銃塔を潰してフェアリングで覆っただけのものが多いが、本格的な整形を施したものもある
諸元(Don Mk.I)
全幅14.48m
全長11.38m
全高2.87m
翼面積28.24m2
自重2,291kg
全備重量2,962kg
武装7.7mmヴィッカースK機銃*1(後席動力銃座)
発動機デハビランド・ジプシー・キングI 液冷倒立V型12気筒 525馬力
最高速度304km/h(2,667m)
実用上昇限度7,102m
航続距離1,432km
乗員3

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