三菱 高高度甲戦闘機 仮称烈風三速/試製烈風性能向上型 (A7M3)

 昭和20年3月頃から「仮称烈風三速」(A7M3)の名称で開発が始まり、昭和20年5月23日に開催された官民合同研究会では「試製烈風性能向上型」(A7M3)の名称で「次期甲戦闘機」の一つに挙げられている機体で、同じく「次期甲戦闘機」として検討されていた「ハ四四」装備型と並ぶ「最後の烈風」である。

 胴体はA7M2のものをほぼそのまま流用、主翼も武装強化に伴う改設計・補強を施す以外はA7M2とほぼ同様の翼端折り畳み機構のないもので、各種艤装も比較的単純でやはりA7M2と大差なく、改修の主眼点はA7M2と同じく発動機換装と武装強化にあった。

 改修の主眼である発動機については、過給器翼車直径を335oに拡大、更に過給器を一段三速過給機に変更することで、一速全開2,000hp/1,800m/2,800rpm、二速全開1,800hp/5,600m/2,800rpm、三速全開1,660hp/8,700m/2,800rpmの発揮が可能になった「ハ四三」五一型(MK9C)に換装することで、高高度性能の向上が図られている(プロペラも0.1m直径の大きいものに変更されている)。

 もう一つの主眼である武装については、機銃をそれまでの「九九式二号二十粍固定機銃四型」から、新型の「九九式二号二十粍固定機銃五型」に変更し、装備数も翼内6挺に強化する予定だった。
 二号五型銃は、退却部を二号四型銃より約1s軽量化し、増速バネを強力なものに変更することで、初速を750m/秒に保ったまま発射速度を二号四型銃の620発/分(発射速度増大装置付き。増大装置無しでは500発/分)から約15%増の720発/分(750発/分という説もある)に高めたもので、発射速度増大の代償として、反動が二号四型銃(発射速度増大装置付き)の1.5tの1.6倍を超える2.5tに増加しているため、搭載予定機に対して機体補強が計画されていた。

 また防弾装備については、A7M2やA7M3-Jで装備が予定されていた内袋式防弾タンクの生産が耐油合成繊維「カネビアン」の材質問題から全く進まないため、固定増槽を含む胴体燃料タンクを外装式防弾タンク(ゴム厚22oか)に変更し、翼内タンクは自動消火装置のみ装備することになっていた(A7M2も本格生産に移行した場合、A7M3と同じく外装式防弾タンク装備に変更されていたと考えられる)。
 これに加えて、A7M3の計画開始時に生産されていた「零式艦戦」五二丙型(A6M5c)と同じく、操縦席後方の転覆時保護支柱に操縦者頭部保護用として55o防弾ガラスも追加される予定だった。
 これらの防弾装備は、横須賀航空隊が「次期戦闘機」に対して要求していた「胴体タンク:ゴム被覆」「翼内タンク:完全自動消火」「操縦者:後方防御」に準じていると考えられる。

 なお、A7M3の機内燃料タンク容量の具体的数値は不明だが、A7M3の胴体はほぼA7M2そのままであること、翼内タンクが防弾タンクではないこと、機内燃料タンクの搭載燃料重量、航続力の計画値などから、胴体前部タンクの容量はA7M2と同じだが、翼内タンクはA7M1初期試作型とほぼ同じ防弾未対応の容量350Lのタンクを装備、胴体後部固定増槽はA7M2の約二倍の容量を持つタンクに変更されていると仮定すると計算の辻褄が合う。

 また、A7M3の正規全備重量は「5,042s」とされているが、この数値は自重に「機銃及び弾薬」「燃料」「水メタノール」の機体内搭載量を加えただけの数値であり、正規全備時には搭載しない弾薬・燃料などの重量が入っている一方、搭乗員や落下傘、防弾ガラス、酸素吸入装置、各種無線装備などの重量は入っていないと考えられる(零戦や雷電、烈風一一型の数値及びA7M3装備品、上記の燃料タンク容量を参考にすると、A7M3の正規全備重量は5,000s強、過荷重重量は5,800s弱と推定される)。

 A7M3の開発は比較的順調に進み、開発開始から9ヶ月後の昭和20年12月に試作一号機完成が予定されていたが、機体は同年8月16日に木型審査の予定、「ハ四三」五一型は同年7月に完成したばかりの試作機を用いた耐久試験の最中、「九九式二号二十粍固定機銃五型」は同年7月までに増加試作銃60挺が完成、「烈風」で射撃基礎実験中という状況で終戦を迎えている。
 A7M2の正常進化型といえる本機は、各所から大きな期待を集めたと言われているが、資料の大半が未発見であり、発動機換装や武装強化による機首や主翼の形状変化などの詳細は現在のところ不明である。

(文:T216)

諸元(計画値)
全幅14.000m
全長(水平時)不明
全高(水平時)4.230m
翼面積30.86m2
自重3,392s
全備重量(正規)5,042s
過荷重不明
燃料機内915s(潤油含む?)
水メタノール200L
滑油不明
最高速度(正規全備時)643q/h/8,700m
上昇時間(正規全備時)13分64秒/10,000m
上昇限度11,300m
航続距離最高速×0.5h+417q/h/4,000m巡航×2.7h(正規)
武装翼内20o機銃×6(最大弾数各200発)
六番二十七号奮進爆弾×2
発動機三菱「ハ四三」五一型(MK9C) 空冷複列星型18気筒 離昇出力2,130hp/2,900rpm×1
プロペラ住友V.D.M.恒速4翅(直径3.700m)
乗員1名

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