イタリア空軍では、スペイン戦争の戦訓に基く急降下爆撃機の要求を1936年早々にまとめたが、それは結局実現されることがなかった。
もともと、急降下爆撃機を地上攻撃機の延長として捉え、メリディオナリRo.37やブレダBa.65の運用結果から導き出した仕様なのだから片手落ちなのは当然の成り行きとも言えるかもしれないが。
SM.85は、要求性能を達成することが当時イタリアに存在する発動機単発では不可能という見込みに基き、小型双発機として計画された。
サヴォイア・マルケッティ社スタンダードの木金合成胴体構造、全木製主翼という構造に、離昇500馬力のピアッジオP.VII RC35の双発というレイアウト。試作機のプロペラは地上調整が可能な可動ピッチがついていたが、生産型では飛行中の調整が可能な可変ピッチになっている。(定速ペラではない)
ダイブブレーキはフラップ兼用で、ダイブブレーキとして展開する場合はレール後端で90度に立つようになっている。
操縦席が単座なのは仕様であるが、これは後にもブレダBa.201に引導を渡した如く、失敗であった。操縦席を機首先端に置き、機首下面に大きい窓を設けて急降下時の視界確保を図っているが、このくらいでおっつくものではなかったのである。
固有武装は両翼付根の機銃2挺で、第1ロットの10機はブレダSAFATの7.7ミリ2挺、第2ロットの19機は7.7ミリ1挺と12.7ミリ1挺の混載と、12.7ミリ2挺のものがあり、第3ロットの3機は12.7ミリ2挺となっている。
爆弾は胴体内爆弾倉に収容される。最大800kgの搭載能力があるが、実際に配備された爆弾は250kgと500kgだけだったようである。
試作作業は極めて急ピッチで進められ、SM.85試作1号機は1936年12月19日には早くも初飛行にこぎつけた。
試験の結果は決して満足のいくものではなかったが、とりあえず試作機2機を含む合計34機が1939年3月〜12月までに3つのロットで製作された。
これで急降下爆撃機の実験部隊を作ろうという腹だったのかもしれない。
しかし、ヨーロッパの情勢は風雲急を告げており、結果としてイタリア空軍の施策は後手に回ってしまったと言わざるを得まい。
1940年3月20日には独立第96グルッポがローマ近郊チアンピーノ基地で開隊し、6月に参戦すると、直ちにパンテッレリーア島に進出した。
しかし、ここには思わぬ敵が待っていた。それは地中海の陽光と海風で、木製でしかも小型のSM.85は、満足な格納庫のない基地ではひとたまりもなく、たちまち歪みや劣化を起こして飛行不能となり全滅、2週間あまりのうちに戦力を喪失してしまう。第96グルッポの乗員は7月1日にはパンテッレリーアを離れて、Ju87Bへの転換訓練に赴くことになる。
サヴォイア・マルケッティではSM.85の能力不足は認識しており、1938年から改良型のSM.86の製作に取り掛かっていた。
SM.85を基礎とはするものの、発動機はイゾッタ=フラスキーニ・デルタ RC40に強化され、機体及び翼、そして脚構造も洗練・強化が施されており、またSM.85で問題となった急降下中のトリムが悪い欠点も胴体を50センチ伸ばすことで対応するなど、外見はよく似ているものの内容はほとんど別機である。
試作1号機(MM.397)は1940年7月に初飛行し、最大速度は412km/hに向上したが、重量増加のため運動性はSM.85に比べて向上はほとんどなく、急降下中の安定はだいぶ改善されたものの引起しに時間と高度を要する点は変わっていなかった。
とりあえず社内試験を終えてギドニア実験場に回されたが、イタリア空軍では珍しいことに、いきなり実戦テストに回した。試作2号機(MM.398)を用いて同年11月にギリシア戦線の第96グルッポで2回の試験を行なった結果、Ju87に優るところはひとつもないと判定され、計画の優先度はガタ落ちとなった。
その後も改良作業は細々と続けられたが、ついに1941年8月7日の最後の飛行を以って計画は中止されてしまうことになる。
不可解なのは、この結果が当時試作中のBa.201に反映された気配がないことで、イタリア空軍の急降下爆撃機運用の方針は、なお迷走を続けていたのであろうか。
SM.85 | SM.86 | |
全幅 | 14.00m | 14.90m |
全長 | 10.40m | 10.90m |
全高 | 3.33m | 3.30m |
翼面積 | 25.80m2 | 28.00m2 |
自重 | 2,950kg | 3,820kg |
全備重量 | 4,190kg | 5,077kg |
武装 | 12.7mmブレダSAFAT機銃or7.7mmブレダSAFAT機銃*2 爆弾最大800kg | 12.7mmブレダSAFAT機銃*2 爆弾最大800kg |
発動機 | ピアッジオP.VII RC35 空冷星型9気筒 500馬力 | イゾッタ=フラスキーニ・デルタ RC40空冷倒立V型12気筒 750馬力 |
最高速度 | 368km/h | 412km/h |
巡航速度 | 287km/h | 368km/h |
実用上昇限度 | 6,500m | 7,000m |
航続距離 | 830km | 980km |
乗員 | 1名 | 1名 |