サヴォイア・マルケッティ SM.75/76/87/90

 サヴォイア・マルケッティ社では、同社のSM.73の後継機種としてイタリア航空省の肝煎りによる新型三発旅客機を計画し、1937年11月6日に初飛行させた。
 全体にはサヴォイア・マルケッティ社スタンダードの木金合成構造、全木製低翼単葉という構造法を踏襲しているが、民間向け実用機としてはサヴォイア・マルケッティで引込脚を採用した初の機体でもある(SM.79原型機の方が初飛行は先)
 乗客24名を輸送できる当時としては高速大型の旅客機で、1938年2月には早手回しにも第一ロットの6機が完成してさっそく5機が半官アラ・リットリア航空に納入され、1機はイタリア空軍に提供されて試験を受けることとなった。
 SM.75は試用の結果、高性能高能率であることが明らかとなり、試作機1機を含む各型合計94機が1937年から1943年までに製作された。比較的少ないのは、1940年からの軍用標準輸送機がSM.82に集中したせいである。
 民間機としてはアラ・リットリアとLATI(リネ・アエレエ・トランスコンチネンターリ・イタリアーネ)が本機を使用した。
 SM.75は公式なものではないがマルスピアーレ(Marsupiale:有袋類)という愛称を持つ。SM.82がカングール(Canguru:カンガルー)に対して、小さい有袋類という意味合いであろうか。
 エンジンをアルファ・ロメオ128RC18空冷星型14気筒860馬力に強化したタイプはSM.75bisと呼ばれ、また軍用専用に作られたアルファ・ロメオ128RC21空冷星型14気筒950馬力搭載のSM.75ter(武装兵員30名)もある。
 1940年にはエンジンをアメリカから輸入したP&Wツインワスプに強化し、胴体の長さと幅をやや大きくし、主翼を改め、燃費悪化に対応して燃料容量を大きくした試作機が製作され、SM.76と呼ばれたが、これはエンジン供給の困難に阻まれ量産に入ることができなかった。
 SM.76の胴体と主翼を利用し、国産のピアッジョP.XI RC.40空冷星型14気筒990馬力を搭載したタイプはSM75GA (Grande Autonomia:大航続力)と呼ばれるが、これもフィアットG.12の長距離型との競争に敗れて少数のみに終っている。めげじと超長距離型SM75RT (RTはRoma Tokioの意)の開発にかかったが、これは休戦までに完成しなかった。
 SM.75の4機が水上機に改造され、1940年夏に完成し、アラリットリアの民間人クルーが運航する連絡輸送隊に配備された。このタイプはSM.87という型式符号を与えられている。フィアットA80RC41空冷星型18気筒1000馬力エンジンを搭載し、最大速度は365km/hであった。
 また、1943年には胴体を23.90メートルに延長し、エンジンをアルファ・ロメオ135空冷星型18気筒1400馬力とする輸送力強化型としてSM.90の型式符号を与えられた試作機が製作されたが、結局エンジンが間に合わず、飛行しないままに試作中断された。
 1940年に参戦すると、民間機は空軍に徴発され、民間人パイロットが運航する特別航空輸送隊やVIP連絡輸送機として使用された。もともと空軍機として使用されていた機体は人員・兵員輸送用に使用された。
 休戦まで生き残ったのは僅かであるが、その後もドイツ軍と連合共同交戦空軍の双方で使われ、戦後まで生き残った数機は民間機に戻り、最後の機体は1949年まで飛行を続けた。

 輸出実績としてはハンガリーがあり、マーレット航空で採用された。これらはイタリアで組み立てられたが、エンジンはフランスのグノーム・ローン14Kミストラル・マヨールをハンガリーでライセンス生産した、ヴァイス・マンフレットWM K-14空冷星型14気筒860馬力を搭載した。
 これらも大戦中にはハンガリー空軍に徴用され、5機が輸送機として活躍した。

(文章:ダリオ・マナカジーニ)


アラ・リットリア航空機(登録記号 I-TESO)

ハンガリー空軍のSM.75

諸元
SM.75SM.75GA
全幅29.68m29.70m
全長21.60m22.30m
全高5.10m同じ
翼面積118.80m2118.55m2
自重9,500kg同じ
全備重量13,000kg14,500kg
武装なし(軍用型には背部旋回12.7mmブレダSAFAT機銃*1)背部旋回7.7mmブレダSAFAT機銃*1
発動機アルファ・ロメオ126RC34 空冷星型9気筒 750馬力ピアッジョP.XI RC40 空冷星型9気筒 990馬力
最高速度363km/h(4,000m)400km/h(3,000m)
巡航速度325km/h
実用上昇限度6,250m7,000m
航続距離1,700km3,000km
乗員5名(うちアテンダント1名) 乗客18名(兵員24名)6名 兵員24名

[戻る]