Uボート司令塔からの視程は好天でも平均して約8000メートルに過ぎない。これは攻撃にも防御にもたいへんに不利であることは明白である。
この大問題に対し、視程を5倍の4万メートルに改善するべく考案されたのがFa330である。
Fa330は容易に組立分解ができる小型の回転翼式の凧で、フォッケ・アハゲリス社はドイツ海軍の要求に基づき1942年にこれを完成させた。
鋼管を組み合わせた骨組に、尾翼と三枚羽根のローターという構成で、座席はむき出しの吹きさらしである。
凧であるから風がなければ揚がらない。また、発進前にはまず手で羽根を回して勢いをつけてやる必要があった。最低限風速7.5m/sが必要であるが、これは全くの無風であっても潜水艦が14ノットで航走することで達成される。但し、運用限界は風速11.1m/sである。これは合成風速21ノットにあたる。海上の風と艦の速度とをうまく操って、合成風速がこの14ノットから21ノットの運用範囲内に収まるように調整しなくてはならない。
また、同様の理由で操縦訓練には風洞が使われることになり、これにはフランス空軍のシャレー・マウドン実験場の風洞施設を接収して使用した。
凧糸となるワイヤは300メートルの長さがあり、通常の運用高度は120メートルであった。
艦との連絡は有線電話により、電話線は「凧糸」と一緒に繰り出される。操縦士は大型水上艦用の大口径双眼鏡を携行した。
Fa330はXI D2型Uボートに搭載され、主にインド洋の哨戒に使用された。大西洋で使うにはあまりに危険であると艦長たちは思っていたようである。
通常の場合Fa330はウインチで巻き降ろされるが、緊急時には操縦士はまずシートベルトを外し、凧側でワイヤを切離し、ローターを飛散させてからパラシュートで降下する。これで潜水艦は凧糸を巻き上げつつ、降りた操縦士を回収してから潜航するなりして逃げ出す。もっとのっぴきならない場合、潜水艦はFa330に構わず急速潜航する。操縦士はワイヤを切離し、パラシュート降下、またはオートローテーション降下で着水し、救助を待つものとされた。
更にのっぴきならない場合、艦側でワイヤを斧でもってぶったぎって、巻上げを一切省略して急速潜航するという場合もあったという。
設計はフォッケ・アハゲリスであったが、製造は全てヴェーザー・フルーグツォイクバウで行われた。ヴェーザーは造船所系なので海軍の顔が利いたのかもしれない。200機ほどが作られたが、訓練を含んでも実際に使用されたのは3割以下である。
ローター直径 | 7.32m |
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全長 | 4.45m |
ローター円軌道面積 | 42.00m2 |
自重 | 68kg |
運用対気速度 | 27〜40km/h |
上昇限度 | 220m |
乗員 | 1名 |