トム・フランクリン・ハンガー(北ハンガー)の様子
北ハンガーには三列に飛行機が並べられ、右から日本機、米軍機、ドイツ機が並べられていました。手前の零戦は飛行不可能な展示機(エンジンが取り外されている)、その後方は雷電。飛行可能な零戦はこの撮影位置から左後方にあります。
飛行可能な復元零戦52型(三菱 A6M5)
有名な日本海軍の主力戦闘機、零戦です。オリジナルの「栄」エンジンを搭載し飛行可能な零戦は世界中にこの一機しかありません。これはサイパン島で捕獲され米国内でテスト飛行に使われた機体で、あのリンドバーグも試乗したという記録があります。後方の複葉機は Hanriot HD-1 のレプリカで、フランスの撃墜王ナンジェッセルの乗機を再現したものです。
同機を右後方から見たところ
本機がハンガーの扉に面して格納されており、いつでも飛べる状態であることがわかります。大馬力エンジンを積んだ米軍機にくらべると、実に小柄な飛行機という印象を受けました。栄31型エンジンの単排気管がかすかに見え、フラップ上面の赤い歩行禁止標識が目立ちます。
朽ちかけた「栄(?)」エンジン
何の表示もなかったので詳しいことはわかりませんが、恐らく後方の零戦から外された「栄」エンジンでしょう。海中から引き揚げたのかすっかり腐食しています。零戦の向こうには雷電と秋水も見えます。
こちらも破損し腐食したハ−40エンジン
ハ−40は日本では珍しかった液冷エンジンで、ドイツのダイムラーベンツ DB601 のライセンス生産品。ニューギニア戦線で湖沼地に不時着した陸軍三式戦闘機「飛燕(キ61)」の残骸から回収したものだそうです。メインギヤとプロペラシャフトが欠落していますが、おかげで倒立V型対抗エンジン独特の構造がよくわかります。エンジン上面のクランクシャフトカバーも透明プラスチック板で置き換えられています。後方に見えるガラスケースは日本機のプラモデル展示。
試作ロケット戦闘機「秋水」(三菱 J8M)
「秋水」はドイツのメッサーシュミット Me163B のライセンス生産で、液体燃料ロケットを使い3分間で1万メートルまで上昇可能でした。高々度を高速で飛ぶ B-29 を迎撃する最後の希望でしたが、終戦までに数機の試作機が完成し、一機が試験飛行したものの離陸直後に墜落してしまいました。完全な形を保った「秋水」は世界中にこの一機しか残っていません。本機は離陸後車輪を投下し帰投時は橇で着陸する設計でしたが、この機体の橇には車軸らしいものが溶接?されています。右手の機体は復元中の九九式艦上爆撃機(D3A)で、エンジンが外され防火壁が見えています。
局地戦闘機「雷電」二一型(三菱 J2M3)
「雷電」は爆撃機用の大馬力「火星」エンジンを搭載し、20ミリ機関銃四門で武装した重戦闘機で、数は少ないながらも有効な迎撃戦力として終戦まで活躍しました。これも世界中でこの一機しか残っていません。機体はかなり傷んでおり、特に胴体下面は外板がデコボコになっていました。操縦席内部には分厚い防弾ガラスが残っているのが見えましたが写真ではわかりにくいかも。本機の塗装は若干考証ミスで、302 空(尾翼のヨD-1158と左舷の撃墜マーク)と 352 空(黄色い稲妻)が混ざっています。左は修理中の九九式艦上爆撃機、小さなガラスケースはハ−104エンジンのオイルポンプ。
雷電細部写真:主脚(QV10画像)
この構造で屈伸アームが主脚カバーに干渉しないのでしょうか?プラモデルを作っていて疑問でしたが、実機を見ても疑問は解消しませんでした。
雷電細部写真:主翼と機銃取り付け部(QV10画像)
「雷電」の機銃は若干上向きに装備されていたのですが、この機体はどうも水平に取り付けられているようです。
雷電細部写真:主脚収納部(QV10画像)
車輪カバーの引き込み構造は、同じ堀越二郎氏の設計だけに零戦そっくりです。
雷電細部写真:主脚収納部と増槽、胴体下面(QV10画像)
合板で作られた増槽の結合部分がよくわかります。低解像度のデジカメ画像ながら、胴体下面の外板がデコボコな様子が伺えます。「雷電」の飛行状態への修復を望む日本軍機ファンは多いですが、この機体では難しそうだなぁ…と思いました。
一式陸上攻撃機一一型(三菱 G4M2)の残骸
一式陸上攻撃機はマレー沖海戦を始めとして太平洋戦争で大活躍した帝国海軍の主力爆撃機でしたが、防御が弱く燃えやすいことから「一式ライター」とも呼ばれ、山本五十六長官が撃墜された時の乗機でもありました。この展示はブーゲンビル島で発掘された山本長官乗機の残骸を再現したものですが、機体そのものは別物。右手には山本五十六の生涯や発掘の様子を示すパネル展示があります。右手に見えるオレンジの機首は「秋水」です。
闖入者(QV10画像)
閉館時間まぎわにもう一度北ハンガーを訪れたとき、どこから入ったのか白黒の仔猫が昼寝を決め込んでました。
ドイツ機展示場
北ハンガーにはドイツ機の展示もあります。左手前はメッサーシュミット Bf109、戦後スペインで生産されたタイプでイギリス製のロールスロイス・エンジン搭載です。その奥は Me163B(モックアップ)、He162、Me262 の姿もちらりと見えます。He162 は終戦間際に配備された全木製の簡易戦闘機で、そのサイズの小さなことが印象的でした。右側の列線はアメリカ戦闘機、左下の妙な物体は離陸補助ロケット(RATO)。
ステルスのご先祖たち
ホルテン IV 全翼グライダーの実物、大戦中ドイツで盛んに作られた無尾翼/全翼実験機の数少ない生き残りです。これらの研究成果は戦後アメリカに持ち帰られ、50年を経てステルス機として生まれ変わりました。右下にちらりと見えるのが「秋水」の原形である Me163B「コメット」戦闘機、とても奇麗に仕上げられた木製レプリカです。