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なぜレシプロ航空機エンジンの回転数は3000rpm程度と低いのでしょうか? 高回転化してギア噛ませばもっと小排気量で高出力化出来ませんか? 若の里 |
- 1930年代後半からネイピア・ダガーH型24気筒とかライト・トーネード星型42気筒とか、小排気量×多シリンダ×高回転という方向で小型軽量大出力を狙ったエンジンが試作されていますが、ひとつとしてモノになっていません。1990年代後半には自動車用の日産VG30を積んだエアレーサー「ポンド・レーサー」が作られましたが、トラブル続出のあげくエンジントラブルで墜落という末路をたどっています。
ささき
- 限界を決めるのは、回転数よりピストンスピードでわ?
回転数やピストンスピードは低くても、高ブーストをかけられればパワーは出るでしょうし。
レシプロ航空機のピストンスピードって、どれくらいだったんでしょうか。
通り
- > 2.
離昇出力の平均ピストンスピードで言えば、栄一○系や金星五○系、六○系が13m/s前後、栄二○系やR2800が13.7m/s前後、火星一○系やBMW801Dが14m/s、誉一○系やハ四三が14.5m/s、火星二○系やハ一四○が14.7m/s、誉二○系やアツタ三二型、DB605が15m/s前後になります(最もDB605は戦闘出力時に15.9m/sまで上がるようですが)。
T216
- R-2800やR-4360の後期型 14.2m/s[6" 2800rpm]
R-3350の後期型 15.5m/s[6-5/16" 2900rpm]
V-1710の後期型 16.3m/s[6" 3200rpm]
R-2160 13.2m/s[3.75" 4150rpm]
R-2160って、高回転数だけど、高ピストン速度ではないのね
セミララ
- 高回転高出力のエンジンから減速ギヤを介してプロペラを回転させる場合、高い出力を伝達するためのギヤが必要になります。
歯車は簡単・単純なようでいて、実は高い技術力を要する部品です。
小排気量高回転のエンジンを開発して、さらに高出力を伝達するための減速ギヤを用意するぐらいなら、大排気量低回転速度のエンジンで直接プロペラを回すほうがいろんな意味で無難なのではないでしょうか?
おうる
- 小排気量にしたところで、大まかに言ってエンジン出力∝燃料消費量ですので、画期的に燃費が向上することはありません。
しかも、シリンダーの小さいエンジンを作ったところで、空冷にするならばフィン表面積の確保あるいは強制冷却システムの設置のために、液冷でも出力に比例して生じる廃熱に応じたラジエターのために一定の容積を必要とすることは変わりませんから、システム全体として必要な容積はそれほど減るわけではなく、小型化という観点でも小排気量有利とは言い切れません。
とはいえ、新しい技術で作られらたエンジンほど燃費が良いのは確かですし、これまで小排気量高回転型航空エンジンの実現のネックになってきた減速機構の重量と信頼性の問題もクリアされつつあります。
そこで、タービンエンジンに取って代わられた領域(概ね600馬力以上)はともかく、それ以下の軽飛行機の分野においては自動車用エンジンを改造して販売する商売が成り立ちつつあるなど、小排気量高回転型エンジンへの動きはなくはない、というのが現状です。
Schump
- > 若の里さん
>#5 おうるさん
大体のエンジンは、クランクシャフトとプロペラシャフトの間に、減速歯車がかませてあります
減速歯車無し(直結)エンジンは、極小さなエンジンに限られています
セミララ
- >7.
すみません、言葉が足りませんでした。
おそらく質問者の方は自動車用エンジンのような5〜8000rpmくらい回るようなエンジンを考えてるんだろうと推測してました。それを減速するとなると減速比が0.5程度では足らなくなり減速比を大きくする必要が出てくるので、当然無理が出てくるだろうと考え>5.のレスをした次第です。
おうる
- 皆様ありがとうございます。
>6を読んで疑問は氷解しました。小排気量にしてもメリットがありませんね。
>7,8 そうです。自動車エンジンのようなイメージでした。
直結ではないと思っていましたが、かなり減速する必要があると思い
「ギアを噛まして」という表現をしました。
思っていたイメージは>1であげてくれたようなエンジンです。
シリンダ容積を小さくして、ショートストローク+多シリンダ+高回転。
駄目だったんですね。モノにならなかった一番の問題は何だったんだろう?
若の里
- ターボプロップなんか、めちゃめちゃ減速していると思いますが・・・
WW2当時のエンジンで、減速比の低い物を挙げてみると
V-1710 0.36
R-3350 0.35
R-4360 0.3125
R-2160 0.222
当時からこれ位あるので、減速機構の方は、あまり問題にはならないかなぁと
セミララ
- >10
信頼性と減速比の高い減速機構を作ることそのものについては、1950年代初頭に既に0.1を割るような長距離機用ターボプロップエンジン用のギアが実用化されていますから問題はないでしょう。しかし、レシプロとターボプロップには、
ライカミングIO-720-D1BD(平8・11.8リッター)離昇400馬力/重量259kg
アリソン250-B17C(ターボプロップ)離昇出力420馬力/重量88kg
という例もあるように、絶対的な重量の差があり、レシプロエンジンのほうが減速機構の軽量化に対する要求はどうしても厳しくなります。
Schump
- >9.
ネイピア・ダガーは曲りなりにも量産され、ハンプデンのエンジン換装型(ヘアフォード)に搭載されたりしています。しかし整備性の悪さ、冷却の不足(ダガーは空冷なのです)、何より信頼性耐久性の低さが克服できず、「1度だけ実戦に出撃した」あと全機スクラップ処理となったそうです。
しかしダガーの系譜は液冷スリーブバルブで横置きH型となったセイバーに続き、様々なトラブルに悩まされながらも一定の成功を見ています。
R-2160 トーネードは試作止まりだったので実力については不明です。試作機では混合気の不均等分配が指摘されており、改良型では燃料噴射式に変更される予定でした。コンロッドやバルブの破損も伝えられておりますが、それが特異な形式に由来するものかは不明です。
H型やW型や多重星型などの「夢のエンジン」は 1930 年代後半頃から世界中で試作されていますが、その多くは大戦勃発による優先順位の低下によってプロジェクト停止・廃棄されています(おそらく例外はセイバーと R-4360)。戦争が終わった頃には既にガスタービンエンジンの約束が成功されており、「夢のレシプロエンジン」が省みられることはありませんでした。
あるいは歴史の歯車が噛み違っていれば、一時期には高回転型航空レシプロエンジン全盛の時代が実現していたかもしれない…とも思います。
ささき
- >9
高回転化の隘路の一つはピストン速度ですが、これはストローク量を小さくすれば補えます。ストロークが半分なら倍の回転数出してもピストン速度は同じです。
でも、この場合、シリンダの容積は、ストロークに比例して半分になり、回転数が倍になって、元の発動機と同等の時間当たり吸気にしかなりません。
時間当たり吸気量が同じならば、馬力は同じぐらいになります。つまりピストン速度の上限から、高回転化は馬力増大にはならないのです。
逆に燃焼時間や充填効率、各部の冷却や摩擦の問題が増加するので、高回転化は効率の低下に容易に繋がります。
つまり、あるピストン速度上限で作った大ストローク低回転と小ストローク高回転の2つの発動機を比較した場合、大ストローク低回転のほうが燃費が良くて馬力が良くて信頼性も高くなるんです。
飛行機の場合は重量や大きさも重要な性能ですから、なるべく小型で高性能な発動機が望ましいのですが、度を越した小型シリンダや高速ピストンは図体等の割りに総合的な性能が悪くなってしまうのです。
SUDO
- >12
信頼性ですね。小型小排気量高回転で大出力という試みは行われていたが、無理をした設計に
なるので航空機用には向かなかったということですか。また時代背景もレシプロエンジンの必
要性は少なくなっていったと・・。納得いたしました。
>13
詳しい説明ありがとうございます。すごくわかりやすかったです。
小型小排気量高回転(+過給)のエンジンのメリットとして、軽量と前面投影面積の減少があ
ると思っていたのですが、余裕の無い設計による信頼性の低下が出てくるのですね。
あまり感じていなかった冷却問題(エンジン本体が小さくてもラジエター容量の確保が必要に
なるんですね)があったりとメリットが感じられなくなりました。
航空機は何といっても信頼性が第一ですからそれを考えるとレースカーのハイチューンエンジ
ンのような性格のものは駄目ですね。
みなさんありがとうございました。
若の里