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以前この欄で“Bf109は格闘向け”といった趣旨の回答を拝見したのですが、イメージと異なるので驚きました。記憶違いでなければ、どのあたりで“格闘むけ”なのか、つまり一撃離脱タイプではないのかお教えください。 まるき |
- Bf109G-10 復元機 D-FEHD 号を操縦した Mark Hanna 氏の記事によれば、Bf109 が最も優れた運動性を発揮するのは 400Km/h 前後の領域で、それより低速になっても主翼スラットが出ることで更に「旋回に食い込んで」ゆける一方、500Km/h を超えると激しい操縦桿操作には両腕が必要となり、ラダーも重くなると記されています。
Bf109 は多くの米軍戦闘機に対して推力重量比で勝るため垂直面の機動を多用したと伝えられていますが、垂直面のドッグファイティングと急降下一撃離脱は似て非なるものだと私は考えます。
ささき
- ドイツの単発単座戦闘機に第一に求められたのは上昇力ですが、第二に求められたのは空戦性能です。
また、ドイツ空軍に於いて一撃離脱は戦闘機飛行学校で教えられる戦技ではありませんし、ロッテ戦法も編隊格闘戦に対応したものです。
つまり、ドイツ空軍として一撃離脱向けの単発単座戦闘機を作らせるということはあり得ず、また空戦性能に劣っていれば採用はされません。
実際の機体を見ても、初期型の原型となるB/C/D型、後期型の原型となるF型を見れば一目瞭然のように思いますが。
うんと軽量な機体に軽武装で、しかも特に翼の重量を軽くとっています。
また、この傾向はE型を除けば全タイプを通じての特徴です。
そして、E型であってさえ、旋回性能はハリケーンはもちろんのこと、スピットファイアMk.Iより優れていることは英軍のレポートによって明らかなのです。
これはハヤカワから出ている「戦闘機」(著:レン・デイトン)で読むことができます。
英本土航空戦でBf109がスピットとの格闘戦を演じられなかったのは、航続距離の不足から巴戦なんかやっていると海峡に落ちてしまうからであり、またドイツ空軍のパイロットがBf109のフライトエンベロープを把握しきっていなかったからでもあるのだと。
その傍証として、北アフリカではBf109Eはスピットに対しても格闘戦を挑んでいますしね。
逆に言えば、一撃離脱戦闘機として必要な急降下性能、高速時の操舵性能、大火力のいずれをもBf109は有していないのです。この点ではP-40はおろかP-36にさえ劣ります。
また、全体的な傍証としては、エーリヒ・ハルトマンの証言からすれば、その一撃離脱戦法ははじめに列機についたロスマンの戦技を参考に組み立てた彼の独創(つまり学校で習ったものではなく、従って空軍公式の戦法ではない)であり、JG52のパイロットの中では少数派であったこと、JG52のパイロットには力任せ(Bf109は高速時には舵が重い)の格闘戦派の方が多かったことが読み取れます。
まなかじ
- 同じ英軍の試験でも、高度をロスしない条件で旋回を実施する場合は旋回半径及び旋回率はスピットの方が上という結果も出てますね(因みにこの条件だと180度旋回の場合旋回半径は109Eが885ft、旋回時間が25秒かかるのに対してスピットは696ft/19秒)。また1940年7月に定速プロペラ付きのスピットファイアIとBf109Eが模擬空戦を実施した際には、低高度ではスピットは109を運動性で圧倒するとも報告されてますから、109がスピットより旋回性能が良かったとは一概には言えないように思えます。
大塚好古
- Bf109EはもともとJumo210に最適化されている機体にDB601を積んだもので、性能バランスは決して良いとも言えない機体のような気もします。
また、翼へのMGFF搭載はモーターカノン装備ができなかったことへ対する補償のようなものだったはずで、E-3以降のタイプは本来期待されるべき姿からは更に離れてしまったものですよね。
「良かった」はやや言い過ぎだったかもしれませんが、そのようなタイプであってなおスピットに対抗可能な旋回性能を保持しており、DB601に最適化されたタイプとしてF型に求められ、付与されたものは高速と上昇性能だけではなかったことには注目する必要があるように思います。
また、東部戦線で「Yak3と格闘戦に入るな」という注意が出た裏には、Yak1/7/9とは格闘戦でも戦っていたという事実があります。
まなかじ
- Bf109は「1930年代半ばに生まれた20mm砲付重武装高速戦闘機の一例」以外の何者でも無いと思います。翼内武装が無いのは列車輸送向けの取り外し式主翼と計画当初から20mmモーターカノンを搭載予定であったために火力が十分に強力だったからでしょうし、その後も翼内外に武装を搭載することについてさほど躊躇もないのですから。
その機体が数年後の実戦で敵機に対し格闘戦性能に於て相対的に優れていたとしてもそれは別の話ではないかと思います。
BUN
- 1.最高速度、急降下速度、上昇力
2.安定性、横転性能、旋回性能、離着陸性能
3.生産性
4.低コスト
これがBf109の計画要求の概略と優先順位ではないでしょうか。
BUN
- つまり要求内容とその優先順位は滞空時間(大きなファクターですけれども)を除いて、零戦と大して変わらないということですよね。
「20mm砲付重武装高速戦闘機の一例」という点でも同じで、零戦の高い空戦性能は「離着陸性能」の追求から付与されている、そういう意味で「格闘戦性能に於て相対的に優れていたとしてもそれは別の話」であると。
Bf109が「格闘戦性能に於て相対的に優れていた」とするならば、その主因は「上昇力」及び「最大速度」から全体を軽量にしたこと、中でも「列車輸送向け」から翼を軽量にしたことにありとし、B/C/D/Eは要求仕様を必ずしも完全に満たしていない不満足なもの、だからこそのFでの大改造であると見ていけばだいたいのところでしょうか。
そして、F/G/Kでの火力不足はあくまで相対的なもので、それで十分であるはずのものであったと。
Bf109がその就役全期間を通じて「一撃離脱に向いた」戦闘機ではなかったし、独空軍に於いて一撃離脱は金科玉条でもなかったということに関しては動かすつもりはありませんが、その経過と経緯に関しては自説を修正します。
まなかじ
- Ans.Q航空機関係4664に「格闘戦」に関係する質問と回答がありましたね。
ところで、「一撃離脱」で検索しますと、
「高速一航過による一撃離脱」や「ダイブアンドズームの一撃離脱戦法」といった言葉がヒットします。前者は>1のささきさんのレスにある「急降下一撃離脱」で後者は「垂直面のドッグファイティング」に当たると思うのですが、このように「一撃離脱」は二つの意味で使われているようです。
「格闘戦」についても敵機の後方にとにかく旋回し続け、占位しようとするような戦闘の意味で使う人もいれば、ダイブアンドズームで闘うことも「格闘戦」と言う人もいます。
ネット上のBBSで空戦についての話が噛み合わないことがあるのはこのことが原因だったりします。
元小学生
- 爆撃機攻撃用の「追撃機」として構想されたBf109はまなかじさんがおっしゃる零戦やP-40、P-39といった戦闘機を登場させたのと同じ背景を持つ戦闘機です。この戦闘機がもし「一撃離脱に向かない」のであればそれは失敗作であって、しかも事実とは異なります。爆撃機相手に格闘戦を行う訳が無いからです。Bf109を格闘戦用戦闘機とする事はFw159をパラソル翼で軽快そうだから格闘戦用戦闘機とするのと同じことではないかと思います。
そのような戦闘機が開発から何年も経て格闘戦能力を見出されるのはそれが旧式化したからでもあれば、第二次大戦中に戦われた空中戦の実相に関わるものでもあって、他の多くの戦闘機にも言えることではないでしょうか。
BUN
- 可能な限り小型の機体を大馬力で飛ばすという
メッサーシュミット教授のコンセプトから生まれたかの高速戦闘機を
「(垂直面での)格闘戦性能に於て相対的に優れていた」はともかく
「一撃離脱に向いた戦闘機ではなかった」とするまなかじ氏の牽強付会に
ただただ驚くばかりです。
Kleist
- Bf109 は活動期間が長いため、どの時点での性能、使われかた、主な敵機を取るかによって評価が変わってくると思います。まなかじ氏はいささか大戦末期の対 P-47 や対 P-51 戦を意識され過ぎたのではないでしょうか?
ささき
- >10
引用部分の前段である「就役全期間を通じて」をセットで読まないと的外れですよ。
ヒロじー
- >9
ドイツ空軍は単能戦闘機を作らせることはしないでしょう。
爆撃機攻撃用の追撃機であると同時に前線上空の制空戦闘機としても機能しなければ、ドイツ空軍の作戦構想には合致しません。
むしろ、考え方としては因果関係は逆になりますが日本陸軍の言う重戦そのものであって、日本機に求めるとすれば二式単戦に似ていると思いますし、いちばんよく似ているのはフランスのD510、MS406、D520あたりではないでしょうか。
純然たる主力戦闘機であるBf109を、やはり陸軍の言う軽戦に色分けしようとする気は毛頭ありませんけれど、戦闘機は制空権奪取の過程で敵戦闘機との格闘戦「も」行なう、戦闘機はそれに備える必要「も」ある、その手段は高速一撃離脱一辺倒では決してなかったということが言いたいのです。
それとは別の話として、Bf109はその構想とは別に、相対する敵機に対して、まっとうな飛行性能を保ったまま一撃でこれを屠ることができる火力を備え得たことはスペイン戦を含め1940年の1年間しかない。
むろん、これはBUNさんの仰る「それが旧式化したからでもあれば、第二次大戦中に戦われた空中戦の実相に関わるものでもあって」という部分になると思うのですが、実質的に「向かない」、いや、向かってはいたけれども自己の意図とは別のところで「適さない」ものにされていたというところはあると思います。
これもまた確かに「他の多くの戦闘機にも言えること」であるとも思います。
>10
では、具体的にどのへんが「向いている」「適している」のでしょうか?
まなかじ
- 就役全期間を通じて
相対的に軽くても「重戦」
相対的に非力な火力しか持たなくても「重戦」
なんです。
Kleist
- >14
重戦・軽戦の区別の基準は、運用者や設計者の意図によって変わるものですので、区分の仕方によっては「格闘戦向きの重戦」や「一撃離脱向けの軽戦」が生じてくることがあります。
Schump
- そうですね。ドイツの概念での「重戦闘機」とはBf110のようなものを指すのではないでしょうか。
片
- 以前から非常に気になっていたのですが、日本語で言う「重戦闘機」「軽戦闘機」の日本的カテゴライズは第二次世界大戦中の外国で通用するものだったのでしょうか?
私的には、ほとんどの連合国戦闘機および日本を除く枢軸国戦闘機は、はっきりカテゴライズしかねるものばかりに思えますし、日本機でも後期の四式戦闘機、紫電は日本的カテゴライズでは括れない気がします。
DDかず
- BUNさんが述べられてるように、基本的に新型戦闘機は高速重武装で、相対的に低性能旧式な機体との戦闘に於いては「速度を生かした一撃離脱」的なスタイルで戦いやすく、またそれしか出来ないともいえます。
これは零戦だろうとスピットファイアだろうとBf109だろうと基本的に同じ事です。
ここで注意すべきは、速度等で圧倒している場合に一撃離脱を仕掛けるのは当たり前であり、逆に大幅に劣るならば旋回等で逃げるのもあたりまえのことであるという事です。
Bf109は元々大馬力で重武装高速な戦闘機として開発されており、自らよりも劣る旧式機相手には、その速度と重武装で一撃粉砕を狙える飛行機であり、実際にスペインではそうして活躍したのは事実ですが、以降は敵機との相対性能の関係でこれが自由に果たせず、程度の差こそあれ、格闘によって戦果を上げるなり離脱するなりを強いられる程度のレベルになってしまったという事でしょう。
また優位高度から仕掛けたとしても、比較的高速域の飛行性能に劣るので同世代機以上相手には、急降下で速度を乗せるよりは、そのエネルギーで旋回戦闘に持ち込んだほうが有利な特性をもつ傾向のある飛行機であったと。
SUDO
- 日本陸軍のように仕様書に明記されない限り、重戦闘機・軽戦闘機といった区分は論者の主観的な感覚に基づいている傾向がありますので、この言葉を以って議論を展開すると水掛け論に終始する公算が高いと私は考えます。
(極端な例を出すならば、ボーイング P-26 は就役時の 1930 年には羽布張り複葉戦闘機の常識を覆す革新的な「高速重戦闘機」でしたが、1950 年代に払い下げ先の南米で未だ就役中の P-26 を「高速重戦」と評する人は普通はいないでしょう)
ささき
- >17
「重単座戦闘機」「軽単座戦闘機」は日本陸軍の航空兵器研究方針が示す類別ですが、その用語が使われているのは昭和15年の研究方針までで、18年版からは「近距離戦闘機」として一元化されています。(対する「遠距離戦闘機」はキ83のような双発戦を指します) これに基づいた試作はキ87から以降が相当するのですが、実際にはキ61試作審査のあたりから事実上「重戦・軽戦」の区別はほとんど意味をもたなくなっていました。要は「高速と旋回性の両立」だったのです。
片
- そう、軽単座戦闘機として計画された機体が重単座戦闘機計画になったり、重単座戦闘機として開発された機体が軽単座戦闘機としての採用を検討されたり、軽単座戦闘機の発達型が重単座戦闘機となり、その改造型が軽単座戦闘機と解釈されるなど、分類は柔軟ですから「就役全期間を通じて相対的に軽くても「重戦」相対的に非力な火力しか持たなくても「重戦」なんです。」というよな理不尽な話は我が陸軍にもありませんね。
事の本質は何か、ということですね。
BUN
- Bf109が
「高速と旋回性の両立」なんか目指していたと
本当に思っているんだろうか?
Kleist
- >22
誰もBf109をして「高速と旋回性の両立」なんて言ってないのでは?
SUDO
- >22
>高速と旋回性の両立
主翼の前縁スラットのお陰で、結果的に結構いい線を行っていたみたいですよ。
だーくまたー
- >>事の本質は何か、ということですね。
そのとおりです。それが大切なんです。
Kleist
- >20
ありがとうございます。
重戦、軽戦に関して御説明くださった各位へもお礼申し上げます。
DDかず
- >Bf109が「高速と旋回性の両立」なんか目指していたと本当に思っているんだろうか?
両者をバランスさせようとしていない戦闘機はむしろ珍しい存在です。
Bf109も当然、ある水準で調和を図っています。
伝えられる要求項目を見ただけでもわかることでしょう。
BUN
- 参考までに引用させて下さい。
酣燈社 飛行機の安定と操縦性 内藤一郎著 P251
『もとよりG舵感の値は飛行機によって異なるのはもちろんの事、飛行諸元(特に高度と重心点)の如何によってずい分変動いたします。そしてそれをある上下限の範囲に常におさめる事は、いうべくして中々困難な事で、そこに設計上の苦心も存在するわけですが、この面でも厳しい態度を堅持しているわが国のデザイナー達であるのは喜ばしい事です。アメリカの設計者達はこの点かなりルーズなように見受けられ、英仏はいっそうダメで、ドイツの設計者にいたっては戦前戦後を通じソアラーも含めてG舵感の観念が全く欠けているとしか思えません。Bf109戦闘機がいったん高度と速度の性能優位を失った後は、回避運動がし切れなくてバタバタ墜とされたのもむべなるかなと思えるのです。』
飛行機の運動性を左右するのは翼面荷重や馬力荷重など、見かけの機体構成のみならず、舵の設計、操縦系統の設計もからんでくるので奥が深いです。
ガス欠飛行連隊
- >ドイツの設計者にいたっては戦前戦後を通じソアラーも含めてG舵感の観念が全く欠けているとしか思えません。
これに関連しては、内藤さんの出身校の大学のグライダー部で導入したドイツ製のグライダーについて、その部内誌で同氏がそのように批判していたのを読んだことがありますが、パイロットみんなの失笑を買いました。
その機体の操縦性と性能は素晴らしく、世界中のグライダーパイロットの賞賛する機体の一つです。私も80時間ほど乗りましたが、まさに「素晴らしい」の一言に尽きます。いわゆる「舵感」がよいのです。
いくら学問で名が通っていてかつ多少操縦ができるとしても、自分のメガネだけで決め付けることはきわめて愚かしいことで、これがその代表例といえます。
デューク