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677 ロンドン条約締結の際の条約派と艦隊派の対立についてですが、どちらの方が、筋の通った主張なのでしょうか。
山家

  1.  議論ボードの方がふさわしいかもと迷ったのですが。もし、過去ログにあったら、すいません。
     私としては、条約を締結するのは、内閣の権能なのだから、軍令部の意見に全面的に従う必要は無いのでは、と思っていたのですが、友人にこの話しをしたところ、そもそも統帥権の問題から、軍備量を定める権限は、天皇にあり、軍令部がそれを輔弼するのは、大日本帝国憲法の解釈上当然であり、内閣は、軍令部の承諾が無い以上、ロンドン条約を締結してはならない、これは犬養毅元首相のような政党政治家でさえ当然のことだと考えていたことだと言われました。実際、犬養毅元首相も、ロンドン条約締結の際に反対していることが分かりました。そうなると、ロンドン条約締結は確かに艦隊派のいうとおりで、軍令部が反対している以上、内閣が締結することは許されないようにも、私自身思えてくるのですが、どうにも納得がいきません。本当のところ、どちらの主張が筋が通っているのでしょうか。
    山家

  2. 1)「軍備量を定める権限は、天皇にあり…」その通りです。憲法12条に規定があります。

    2)「…軍令部がそれを輔弼するのは、大日本帝国憲法の解釈上当然であり」
     違います。
     大日本帝国憲法(以下憲法と略)55条1項は「国務各大臣ハ天皇ヲ補弼シ其ノ責ニ任ス」とあり、大臣の補弼権能はあきらかですが、天皇の行為について参謀本部・軍令部が補弼することを定めた規定は憲法にはありません
    (帷幄奏上権は、たしか政令だった筈)。また国務に関する法律・勅令その他の詔勅には国務大臣の副署が必要であり(憲法555条2項)、陸海軍の予算・人事などに関わる、法律・勅令・詔書について、大臣が輔弼の責任を負うことは明らかです。
     軍事に関する憲法11条・12条については大臣の補弼外という主張もありますが、第4条から17条までの天皇の大権のうち、第11条12条だけを補弼の例外とする明確な根拠はありません。
     「統帥権」はドイツ法の影響と、帷幄権限から生まれた慣習的な考え方であり、当時もa)統帥権自体を認めない説、b)統帥権という概念は認めてもその政府からの独立を否定する説、c)統帥権の独立を肯定するものも統帥権の独立とは、もっぱら作戦行動についての独立であって、個別の作戦行動を離れた予算や人事に関しては統帥権の問題とはならないとかんがえる説
    、などがあり、c)説が通説だったといっていいと思えます。
     ただし 、d)軍の編成については帷幄機関にも発言権があってしかるべきだとする説もありましたが、予算問題でもある以上帷幄機関だけで決定できる問題ではなく政府と軍の見解が対立すれば最終的には天皇が判断することになるはずというのが有力説で、軍の編成は軍が決めるという説はないわけではありませんが、少数異端説でした。

    3)「これは犬養毅元首相のような政党政治家でさえ当然のことだと考えていたことだと言われました。」
     民政党政権の足を引っ張るために、天皇と海軍を利用し、少数異端説を根拠に統帥権干犯問題を声高に取り上げ、我が国の軍部の独走の元を作ったのが、政友会の犬養毅と鳩山一郎です。
     私にはこの二人の政治家を評価する人がいるのが理解出来ません。プラスもあることは認めますがマイナスが大きすぎます(当時の新聞なんかでも、めちゃくちゃ評判悪いですよ。ただし私がそういう報道の影響受けてるだけなのかも知れませんが)。

    4)「本当のところ、どちらの主張が筋が通っているのでしょうか。」
     a)統帥権が天皇自身に属していると考えるなら、幣原喜重郎がいったように
    「天皇が条約を批准してるんだから天皇の意志に反することなんてない!」ということになるはず。内閣と軍が対立する問題について天皇が最終的な決定権を行使したんですから。
     b)天皇はただの飾り物で参謀本部・軍令部が戦争を仕切ってるんだというならば、たしかに重大な軍事問題を参謀本部・軍令部の意向に反して決定するのはおかしいとする考え方にも一理あります。この考え方は事実を反映しているのでしょうが、最大の問題は政府と軍の対立を解決する手段がどこにもないこと。
     
     そして、a)の幣原発言は失言とされ取り消さざるを得なくなり、我が国は、国家意志不明確なままどんどんやばい方向に進んでいくことになるわけです。

    参考
    「統帥権」でサーチかけるといろいろなサイトがありますが、おすすめはここ。
    http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Library/3119/99mita_ind.html
    カンタニャック

  3. 訂正
    五行目「憲法555条2項」→「憲法55条2項」です。
    カンタニャック

  4.  カンタニャックさま、大変詳細な回答をしていただき、本当にありがとうございました。

     私は、犬養元首相等も統帥権干犯だと主張していたと言われ、更に当時の新聞等を調べてみても、条約派の方が異端で、世論は艦隊派の後押しをしていたのだ、と言われてしまうと私の調査能力の不足から、確かに犬養元首相が統帥権干犯と言っているのが分かると本当のように思えてしまいました。学説では、カンタニャックさまの言われるc説が通説らしいことは分かったのですが、友人に言わせると、それは学者の考えだ、世論ではd説が通説だと言われ、私が反論しようとすると、自衛隊は世論は合憲と言っている、学説の通説は違憲説というように、学者の考えと世論が違うのはよくあることではないか、と言われると、私には反論できませんでした。

     後、疑問を覚えることがあります。艦隊派は、ロンドン条約締結に反対だったそうですが、もし、条約が締結されなかった場合、無制限の軍拡競争になる可能性がかなり高いように思われます。そうなると、日本の国力の限界から、日本の方が条約よりも不利な戦力比率になりそうなのですが、艦隊派はどのように考えていたのでしょうか。史実から考えても、軍拡競争に日本の方が先に耐えられなくなりそうに私には思えるのですが、友人に言わせると、それは日本が日中戦争に突入したからで、日中戦争に突入しなければ、日本は米国との軍拡競争に耐えられた、軍艦を建造するというのは、現代の公共事業のようなもので、景気対策にもなっていた、と言われると私の知識では反論できません、本当のところ、どうなのでしょうか。
    山家

  5.  今、カンタニャックさまが紹介されたHPを読んだばかりで、私の理解不足も多々あると思いますが。

     HPの記事を読んで、友人が、私の主張に対し、当時の代表的なマスコミの「日本及び日本人」の記事くらい、きちんと調べろ、と言っていたのを思い出しました。それを少しでも読めば、自分の考えの間違いがよく分かると言われていたのですが。カンタニャックさまが紹介されたHPからすると、むしろ「日本及び日本人」の記事は、むしろ少数派の意見だったのですね。

     本当に自分の調査能力と勉強不足が恥ずかしく思えてなりません。
    山家

  6. 4> 条約反対の理由は「もっと艦艇がほしい」につきるでしょう。

    軍縮条約がなければ、いくら軍拡しても日本の相対的な戦力は低下しますが、条約を結んだ場合より、海軍の予算は増え、艦長などのポストは増えます。大日本帝国にとっては不利でも、個々の海軍軍人にとっては有利です。

    わたしは、艦隊派の人たちがこの理由だけで条約反対を唱えていたというつもりはありません。
    しかしこの点をまったく考えていなかったとも思えません。
    カンタニャック

  7.  カンタニャックさま、たびたびの回答、ありがとうございます。

     東郷平八郎元帥や加藤寛治大将等の艦隊派の方々が、対米7割が必要不可欠と言われていたことまでは分かったのですが、それなら、軍縮条約を締結せず、無制限の軍拡競争を行ったらどうなるかということについて、どのように言われていたのかは、私が幾つか調べてみた資料には、直接の発言が出ておらず、分かりませんでした。本当にどのように考えられていたのでしょうか。

    山家

  8. 横からあまり詳しくない者が言うのも失礼かもしれませんが。
    生出寿氏の「昭和天皇に背いた伏見宮元帥」(徳間文庫)という本にその辺りの経緯が書いてあります。ご一読をお薦めします。
    一次資料を通読なさる方には生出氏の史観に異論もあろうかと思いますが、私には大変理解しやすい書物でした。読了してたら御免です
    キー67

  9. キー67さま、どうもありがとうございます。その本については、題名から伏見宮元帥の伝記と思い、目を通していませんでした。早速読んでみます。
    山家


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