155 |
この話題をアドルフ・ヒトラーの父親アロイスの出生に関する問題とするならば、アロイスの父親、つまりアドルフの父方の祖父がユダヤ人であるという推測は、現在の実証史学に置いては退けられていると言って良いようです。 戦後暫く、この説は一定の説得力を持っていました。ナチス党法務局長ハンス・フランクは、1930 年にヒトラーの依頼により(当時、ヒトラーは政敵からアーリア的出自の正当性を攻撃されていた)アロイスの出自について調査したところ、アロイスは彼の母親マリアがユダヤ人家庭で女中奉公をしていたときの主人フランケンベルガーの子供ではないか、との結論を得たとの旨 1955 年自らが戦犯として絞首刑になる前に記した告白録中にて述べています。この時期のヒトラー研究家イエツインガーも、ユダヤ人祖父説を妥当としています。 その後 1960 年代後半から 1970 年代始めにかけて、西ドイツのヒトラー研究者ヴェルナー・マーザーが綿密な史料分析の結果として、アロイスの父親は彼の妻となるクララの祖父にあたる人物ヨハン・ネーポムクである可能性が高いことを提示しました。すなわちアドルフは近親婚により出生したというわけです。あわせてユダヤ人祖父説についてはこれを否定しています。 西ドイツのヒトラー研究では、その後もヨアヒム・フェスト、セバスチャン・ハフナーなど大家が居ますが、出自問題についてはその後大きな修正は無いようです。 ただし、アリエフさんのおっしゃるとおり、この問題を完全に実証ないし反証することはもはや不可能でしょう。それだけにこの問題に決着が付くと言うことは無く、今後もファンタジーを生み出してゆくと思われます。当のマーザー自身、ユダヤ人祖父説を妥当としていた時期もあります。 なお方法論的動向としては、民衆史・社会史を基調としたドイツにおける近年の第三帝国史研究の中で、出生にせよ性格・思想にせよヒトラーやナチスを安易にエキセントリックな存在にすべきではないという枠組みが存在することは確かで、マーザーの「近親婚」説も批判が多いようです。 Das Reich |
Das Reich