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VT信管を昭和初期の日本では実用化するのが困難であった、とする一番大きな理由は何でしょうか? 奮進砲弾の信管としてなら実は出来たかも……、なんてことはないのでしょうか? satoski |
- 生産技術です。
いつでも安心して使え、同じ製品で有れば同じ性能を出す真空管が結局の所量産できなかったんです。真空管だけではなく、エンジンのベアリング、パッキン、電線・・・全てにおいて、日本軍の兵器は、信頼性において米国の同級品に対して劣って居たんです。悲しい話ですが。
「機械は壊れないものである」という日本人の信仰は、戦後に品質管理という概念が一般化した後に生まれたものだと思います。
びってんふぇると
- 単純に物資の量でしょう、それも量産に至る前の量です。
アメリカはVT信管の開発にテストのためだけに数十万発とも百万発以上とも言われる砲弾を使用し、その確保にも苦労したそうです。
当然砲弾には無くVT信管にには有る真空管、電気部品等も、開発のためだけにそれだけ必要になるということになります。(確か真空管は1発に4個ですから400万個近い数になるわけです)
正直に言ってこれだけの物を戦時に準備できる国は、戦前から民生の生産設備が整っていて、製造用物資も十分準備できるアメリカぐらいのものだったでしょう。
VT信管は性能の検証不足で誤作動を起こすことは致命的な結果を招きます、確率的な近接信管の不発なら時限信管等で補えますが、確率的暴発なんてよほどの低率で無い限り許容出来ません。
十分なテストが出来ないなら、研究のみにしておいて量産を考えないほうがましです。
だーくまたー
- 仮想戦記ものでよく使われる手ですね>噴進弾タイプ
確かにGの問題など、砲弾タイプに比べればハードルの高さは低そうです。
でも、だーくまたーさんのご解説を読む限り、それでも日本単独ではきついでしょう。
仮想戦記ものだとそのあたりの問題を英国との技術交流などで切り抜けていますね。
勝井
- 皆さん書き込みありがとうございます。
そうですね、G以前の問題として色々解決しなくてはならない事があるんですね。
satoski
- ちょっとだけ補足。
ざっくり言っちゃうと、VT信管ってそんなに凄い技術の物でもないんですよ。
暴発防止の安全装置も、水銀が発射後の遠心力で流れて回路が切れて解除する様な物ですし、真空管だって補聴器用の民生品が元です。
真空管の構造と原理を知っていれば、衝撃に強い真空管を作るより、衝撃を伝えない構造を作ったほうが簡単だというのもわかるはずです、そんなに特別な真空管を作ったわけでもないのです。
実際アメリカの女工さんも「こんなに補聴器用の真空管をどうするのかしら?」くらいに思っていたらしいですし。
アメリカはただひたすら、発射時に壊れず、炸裂までの短期間作動するのはどうすれば良いかを丹念に調べただけなんですね。(ざっくりな話ですよ?)
そして最良の構造を見つけたとしても、それが本当に最良の構造か多数のテストしなければ怖くて使えないです、千発テストして999発大丈夫でも、安全確立が千分の一じゃ使い物にはなりませんからね。
だーくまたー
- 砲弾では無理ですけど、噴進弾であれば使えたかもと思えるものが、ありますよ。
フィリピンで使われた有眼信管です。
之は光を使っていて反射を観測して爆発するもので、爆撃に使われたようです。
只投下するだけの爆弾に使うものだから、ロケットの加速に耐えられるかは?
青江
- >2&5
でもね、日本軍の信管てば、砲口を出ても一定時間は死んでるんですよ。
別に真空管側に限らず、その程度の安全機構、常識的にこの世代の信管なら持ってます。
撃針が動かないようにすれば良いだけの事ではないかとか思ってしまいます。
よって、テストも含めて、肝は高Gに耐えるか否かでは無いでしょうか。
SUDO
- >7
VT信管が通常の信管と違うのは、真空管が割れたり、回路がショートしたときに弾頭が発火する恐れがある部分なんですよ。
なにせ電子回路で意図的に任意のタイミングで爆発する仕掛けの信管な訳ですから。
Gも含め、装填して砲口を出るまでのいろんな状況に対し回路の保護措置が必要になり、だからこそ水銀なんか使って砲口を出たくらいに近接信管回路に電流が流れるなんて仕組みを組み込んでいる訳です。
私が言ってる信頼性と言うのはそこを指しています。
だーくまたー
- >8
だから、何処が普通の信管と違うのですか?
信管が作動して、雷管を作動させて、伝火薬・管帽薬を発火させて、それが炸薬を反応させるんです。
信管がタイマーだろうが、物理的なものだろうが、はたまた電気信号だろうが、炸薬爆発まではまだ何段階もあるんですよ。
そこに機械的な安全装置を組み込むことも不可能でも何でもないでしょう。実際に、日本軍の時計・化学式信管の安全装置や機構も何種類も有ります。
米国の近接信管の場合は、電気的安全装置も一体化したものであるから(それによって小型化したかったんでしょう)大変なテストが必要になっただけのことでしょう。
ちなみに、日本海軍の時計式時限信管は
昭和5年 89式時限信管演習弾用 採用
6年4月 発火率不具合対策、在庫全品改修し、改1に
6年6月 発火率対策、取り扱い安全性向上、改2に
7年1月 91式時限信管・91式伝火筒として、採用(伝火筒が炸薬を起爆させる構造、演習弾では伝火筒を装着しない)
7年3月 遅動薬を追加(とう内安全)
7年11月 自動調停装置追加
8年9月 発火率向上のため改造、在庫全品改修
12年6月 伝火筒を改造、96式伝火筒に
17年5月 長10糎砲の高とう圧対応型98式時限信管
18年 大口径三式弾用、低とう圧対応型零式時限信管
19年 火薬式安全装置を信管から撤去、伝火筒に機構的安全装置を付与した四式時限信管へと切り替わり。
以上のような改修改造新型化と進んでいます。勿論裏には膨大な量のテストと実戦結果のフィードバックがあります。
また時計式のみならず、火薬式の信管も別途開発が続いていました。
発射前後の安全時間は、信管のみに頼るものじゃないんです。それこそ別構造の安全装置を用意するという頭が無かったのかと、そう言えなくも無いんじゃないですか?
SUDO
- つうわけで、問題をはっきりさせましょう。
日本軍の対空砲弾は、信管が作動して、伝火筒が反応して、炸薬が爆発する。
この何処かで、何等かの安全装置が働けば、炸薬爆発、つまり弾丸の炸裂は無いんです。
真空管の信頼性・安全性が多少アレでも、伝火筒が反応しなかったら、安全なんです。
各種の砲弾の安全機構は
・信管が誤動作しない
・誤動作しても撃針が動かない
・撃針が動いても雷管が反応しない(広義では伝火筒が反応しない91式時限信管はこれですね)
といった色んな手段がある上に、多重化されているわけです。
だーくまたーさんが述べられるVTの安全性テストとは、つまりは誤動作防止の機構であった訳ですから、それは別に真空管に頼るものでなくても成立するという事です。
真空管・VT信管が誤動作しても、それが弾丸炸裂とイコールではない構造にすれば解決する問題で、戦前の段階で既に日本軍の対空信管はそういう構造に進んでいたのです。
言い換えると、信管の安全性が弾丸の安全性とイコールであるという、非常に危なっかしいものであったから、米国はあれだけのテストをしなければ成らなかったとも言えるでしょう。
勿論、その結果として、コンパクトな信管になるのですから(VTの機構部分が巨大で炸薬量が減少するという事を考えれば)望ましい方向であったと言えるでしょう。
安全機構を別途用意出来るならば、安全性問題は、不発率の問題として進むんではないでしょうか(現在の自衛隊の武器のように、誤動作したら発火しない)
ここまで進むと両国の安全性に対する基本的スタンスの違いとしか言い様が無いかもしれません。
恐らく、日本軍でもVTは作れるでしょう。砲口から出たらいきなり爆発なんてのも無いでしょう(構造が構造ですから)
単に、(真空管が壊れてて)目標近くまで行っても不発になるのが多いんじゃないかなと。そういう事じゃないでしょうか。
SUDO
- >9,10
だから、「通常の時限/着発信管と違う部分の暴発の可能性をなくするテストは必要ですね」と言ってたんですよ。
違う部分の最たる例が回路部分だからこそ、そこを指摘してたんです。
たとえば、砲兵さんに「真空管・回路が誤作動しても炸裂とイコールでは無い構造だから、そこのテストはしてないけど安心して使ってください」って訳には行かないじゃないですか。
だーくまたー
- >11
>「通常の時限/着発信管と違う部分の暴発の可能性をなくするテストは必要ですね」
だから、全部(安全装置も起爆スイッチも)従来型と違って、しかも問題の切り分けが難しい一体構造の信管だから、そうなってるんでしょと言ってるんです。
>たとえば、砲兵さんに「真空管・回路が誤作動しても炸裂とイコールでは無い構造だから、そこのテストはしてないけど安心して使ってください」って訳には行かないじゃないですか。
極論言うと、それで使わせてますよ。
しかも、米軍の場合、実戦で暴発が多発してるんですから、どういうテストをしたのかとも言えますよね。
米軍の砲弾のあるものは、多重化された安全装置の多くが、故障時には起爆する方向に作用すると聞きます(日本の場合は故障時には起爆しない)
そして、斯様な基本的スタンスの違いは、新型信管のデザインと実用化で絶大な違いとなって現れるのではないかと、そう言ってるんです。
SUDO
- 私自身は答えを知っている訳では無いのですが
お二方の書かれている事は、微妙に噛み合って無いだけで
双方とも両立する内容では無いでしょうか?
噛み合って無いのは
「VT信管と瓜二つのものを造るのか?」
「VT信管の様な近接信管を作るのか?」
だと思います。
Scylla.
- だーくまたーさんとSUDOの議論は、VT信管の安全についてのみの議論になってるように思います。当然、それらは重要なんですが、敵機に対して最も効果的にダメージを与える為には、VT信管をどのような仕様にすれば良いかと言う研究にも時間がかかったのではないですか?
それまでは無かった兵器な訳ですから、発信する電波の方向や、信管を作動させるべき反射波の感度等、色々実験して研究すべきことが多いかと思います。単純に機械としての信頼性が担保できたとしても、敵機に対して最も効果的な地点で信管を作動させなければ効果は発揮出来ません。その為の味付けと言いますか、VT信管における仕様の決定には、それなりの時間がかかるのではないでしょうか。
地上である程度は実験出来るのでしょうが、やはりこういうものは、実際に飛んでいる標的を射撃してデータを取らないと解らないのではないでしょうか?また、新型信管に対応した射法の研究も必要でしょう。こういう事にも、かなり時間がかかると思いますが・・・。
外野席
- 米海軍自身による VT 信管開発記です。
http://www.history.navy.mil/faqs/faq96-1.htm
さぁ、これ読んで勉強しようぜ(笑) 議論はそれからだ。
ささき
- 私はテストをしたという事に対して少々むきになって理屈をこねていたように思います。
SUDOさんの安全性に関する方法論や国によるスタンスなどについて大体了解したつもりです。
これ以上に何か言いたいことが出てきたら議論できるところに場を設けたいと思います、設問主さん、お騒がせしました。
だーくまたー
- 今更ですが。
我が海軍でもVT信管(とは呼んでませんよ、もちろん)類似の信管を研究しており、衝撃などに関してもある程度なんとかなりそうだ。というレベルまで達していました(SUDOさんの書き込みの通り、時計信管を造れるんだから大丈夫。という感じですね)。
tackow