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仮定として、WW2時の合衆国のVT信管による弾幕を突破する際に、当時の技術でジャミングし、無力化できるのでしょうか? Yakisaba |
- 過去ログ「武器・装備」の283番を見ると無理みたいですね。
畝傍
- まず VT 信管の作動原理を知ってもらいましょう。当の米海軍自身による VT Fuse の解説です。
http://www.history.navy.mil/faqs/faq96-1.htm
『VT 信管には様々な形式が考えられたが、ドップラー効果を用いるアクティブ・タイプが最も有望と考えられた。目標からの反射周波数が弾頭との相対速度によってシフトする現象を利用し、発振派と反射波を合成して得られる低周波によって弾頭を起爆させる。一般的には特定の低周波を選択し増幅する装置が必要とされる』
『増幅器から出た信号が、シラトロン(Thyratron)を作動させるのに必要なレベルに達したときに信管が作動する。弾頭と目標が一定の角度をなしている場合、低周波選択−増幅器の出力信号強度は目標と弾頭との距離の関数をなす。すなわち、適切な増幅率とシラトロンの設定バイアスを調整することにより、信管の炸裂距離を設定することが可能となる。なお動目標に対する対空弾の場合においては、最も有効な弾道で目標に破片を浴びせるために距離だけでなく目標との相対角も重要な要素となる。』
『殆どのミサイル(投射兵器)の場合、破片の散布はミサイルの進行方向軸で最も密度が高くなる。…中略…この指向特性はミサイルそのものをアンテナとし、ミサイルの進行方向軸をアンテナの発振軸と一致させることによって実現できる。信管がミサイルの先端に装着される場合、そのようなアンテナは先端部の小電極もしくは「キャップ」によって励起可能である。なお、増幅器の特性調整により更に方向特性を調整することも可能である』
さて本題、こちらはサウスウェスト科学博物館による紹介記事。
http://www.smecc.org/pfuze.htm
”Electronic countermeasures” のセクションに次のような解説があります。
『「バルジの戦い」で VT 信管がドイツ軍の手に渡り、我々(米軍)は彼等がコピーすることを懸念した。VT 信管対策手段の開発がライト・フィールドにおいて開始された。当初 VT 信管の開発者は「原理的に妨害不可能」とまで言っていたが、研究の結果2週間で VT 信管を早期起爆させる装置を完成させることができた。VT 信管は砲弾の先端をアンテナとして利用するため、その発振周波数が 180〜220MHz に制限される。この周波数帯に対応した電波妨害装置 APT-4 を改造し、周波数を自動的に上下させ VT 信管の発振帯をカバーさせる装置を付加し B-17 に搭載して実験を行った。』
『VT 信管のサイズが大きく目標指示弾には装着できなかった為、実弾を用いた射撃実験が行われた。安全のため射撃は機体から 30 ミル(1.7 度)外した照準線で行われたが、のちには 12 ミル(0.6 度)にまで下げられた。平時ならとても考えられない危険な実験だが、独軍による反攻の危機に備えるため当時はやむを得なかった。もしジャミング装置がうまく働なかった場合、射撃距離 20000ft において機体の 240ft 先で実弾が炸裂することになる。』
『三ヶ月にわたり 1600 発の VT 実弾が射撃された。機体に備えられた受信器は VT 弾の発振する連続波を捕らえたが、それは砲弾の旋転に合わせて独特の変調パターンを示していた。機体後部の我々に外は見えなかったが、パイロットは眼下で炸裂する砲弾を見ることができた。また、希にジャマーのスウィープ・パターンをすり抜けた砲弾が至近で炸裂することもあった。実験の結果、ジャマーは VT 信管の有功性を激減させると評価された』
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ということで、「VT 信管の作動原理とその発振周波数が判明していれば、当時の技術でも妨害は実現可能であった」と私の前言を訂正させて頂きます。
ささき