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1315 いつも楽しく拝見させていただいております。
日本軍の8ミリ拳銃弾についてお教え下さい。
26年式では9ミリ弾を採用しながら、次期の(試作銃は除いて)南部拳銃では8ミリとなっております。
この経緯について御存知の方よろしくお願いいたします。(9ミリでは日本人には威力が強すぎたのかな?)


山芋太郎

  1. まず 両者の諸元を書きます。

    制式名       26年式拳銃実包      14年式拳銃実包(俗称:南部8mm弾)
    口径         9mm               8mm
    初速         230m/s           334m/s
    弾頭重量      9.8g硬鉛           6.6g被甲弾
    初活力       約27kgm             約38kgm
    開発年     明治26年(1893年)     明治36年(1903年)
             制式化は明治27年        制式化は大正15年

    解説−−−両者を単純に口径で比較してはいけません。

    1.昔の弾薬は、黒色火薬で、弾頭直径が大きいのです。
      (発射薬として黒色火薬を多量に使用するので薬莢が大きくなる。直径も大。)
      (黒色火薬の発射薬は、初速がそれほど出ないので、弾頭重量で威力を稼ぐ。口径大)

    2.近代の弾薬は、ニトロセルローズ系無煙火薬となり、無煙のみならず発射薬として格段の性能UP(熱量)。
      (少量の発射薬量でも充分な性能を出せる。 薬莢も小型化。口径小)
      (初速が相当速く出せる。 口径小の軽弾頭+高初速で威力を稼ぐ。)

    現代の軍用拳銃の主流は、口径9mm以上ですが(トカレフ除く)、両者を今の視点で見てはいけません。

    ・26年式拳銃実包は、すでに無煙発射薬を使用していますが、それ以前より使用中の銃のなごりで(諸外国も)
     弾頭直径が大きいのです。(黒色火薬の時代のなごり:解説1)

    ・南部8mm弾が開発された1900年前後の各国の自動拳銃弾の口径は何ミリだったでしょうか?
     ボチゃード=ルガー:7.65,モーゼルミリタリ:7.65,ブローニング:32ACP(7.65)実質8mmなんです。
     有名な9mmPara, 380ACP, 45ACP 等 の大型弾が出現するのは、
     おしいかな数年後(1904〜1912)の事でした。
     ですから、南部8mm弾の開発時点では、諸外国に比較しても決して小口径小威力の自動拳銃弾とは言えません。
     むしろ文明開化(ちょんまげ脱皮)僅か30年後に自動銃を自力開発した当時の関係者の努力、実行力に驚きます。

    後年(WWI〜II)、諸外国の軍用拳銃弾が口径UPすれど、帝国陸軍がそのまま8mm弾を採用し続けた理由は、
    帝国陸軍の小火器に対する運用思想、方向性でしょう。
    小銃、拳銃、機関銃 等 小火器の概念は、むやみに威力を上げる事より、命中精度の方を重要視しています。
    まず命中してこその威力ですからね!
    WWII時代では、やや小威力な南部8mm弾は、撃ち易さ、命中精度では、かなり良好な弾でした。
    又、帝国陸軍は軍用小火器弾の人馬に対する殺傷効力を 
    ・存活力10kgm以上有れば有効。
    ・余裕を持って存活力20kgm有れば充分としていた事も、参考になります。

    軌跡の発動機?誉

  2. >誉さん
    いつもながら綿密なご回答ありがとうございます。
    ようするに、8ミリ弾の採用は世界的な趨勢にのっとっており帝国もそれに
    追随しただけということですね。
    9ミリパラベラム弾も南部式が開発された頃に登場しており、帝国は敢えて命中制度重視の為、
    8ミリを採用したのかな?と考えておりました。9ミリパラベラム弾の登場はその後だったんですね。
    勉強になりました。
    私、不勉強ついでで申し訳ありませんが、諸元にある「初活力」とはどのようなものなのでしょうか?
    ご回答から察しますに、殺傷力?貫通力?というものでしょうか、再度ご教授願えませんか?
    宜しくお願いいたします。

    ゴミです
    「8ミリ南部弾は威力不足」と市販書籍等に書かれておりますのを目にしますが、個人的には決して
    威力不足ではなかったと思います。8ミリ弾でも当たれば誰でも死傷しますから…
    山芋太郎

  3. #初活力
     英語ではMuzzle Energy、すなわち、銃口を出た瞬間に弾丸が有している運動エネルギーのことです。高校の物理で習う運動エネルギーの公式

    e=1/2*mv^2

    のmに弾頭重量、vに初速を代入することで求められます。
     なお、貫通力、殺傷力ともに初活力が大きいほど大きいのですが、弾頭の重量・形状・材質や初速による影響が大きいので、一概には比較できません。「同じ初活力ならば、初速が大きいほど貫通力が高く、弾頭が重いほど標的に与える衝撃が大きい」ぐらいのことは言えますが。
    Schump

  4. >初活力:
     うぐ、先を越された(苦笑)
     初活力は、『銃口から発射された弾頭の持つ運動エネルギー』を表す数値です。英語ではマズル・エネルギー(ME)といいます。基本的に『質量○○の物体を○○の距離持ち上げる力』で表します。計算式は上で書かれたので略します。
     単位として、メートル法ではkgm(キログラム・メートル)またはJ(ジュール。仕事量の単位)、ヤード・ポンド法ではft.lbs(フット・ポンド)を使用します。ちなみに、1kgm=約7.23ft.lbsで換算可能です。
     上でも書かれていますが、初活力が大きければ大きいほど、その銃弾は運動エネルギー量が大きく、その分威力も高いと言えます。ただし、銃弾の威力というものは、『初活力が大=破壊力・貫通力が大』という単純な図式ではありません。

     わしがメートル法で初活力を考えるときに悩むのは、『kgm』と『kgf・m(キログラム・フォース・メートルだっけ?)』、どちらの単位を使うのが正しいのか?という点です(;^_^A(こう見えても物理は不得手←苦笑)

    >8mm南部弾:
     誉さんがあらかた書かれているので、わしなんぞの出る幕はありませんが・・・(苦笑)
     8mm南部弾の初活力は、中型オートに使用される.32ACP(6.35mmブローニング)を少し高くした程度のレベルです(余談ですが、.32ACPを使用する欧米の自動拳銃は旧日本陸軍の将校に広く愛用され、戦時中には国産弾も供給されていた)。当たれば無事ですまないのは確かですが(笑)、第2次大戦前後の欧米各国の主力拳銃弾(9mmX19、.45ACP、7.62mmX25等)と比較すると若干低威力なのは否めないといえます。
     戦前日本でサブマシンガンが大成しなかった一因として8mm南部弾の低威力を挙げる専門家もいるようです。8mm南部弾は、当時最新の弾薬だった7.65mmルガー弾(ボルヒャルト&ルガー・ピストル用)を参考にしたが、これが7.63mmモーゼル弾(モーゼル・ミリタリー用。トカレフの7.62mm弾はこれの強装版)を参考にしていればもう少しマシな弾になったのではないかという説も見ます。

     まぁ、誉さんの仰る通り、今の感覚で当時の事情を判断してはいけないのですが・・・(;^_^A
    ブラック・タロン

  5. >『kgm』と『kgf・m(キログラム・フォース・メートルだっけ?)』、どちらの単位を使うのが正しいのか?

     蛇足ですが、重力キログラム(kilogram-force,kgf)とは重力単位系(基本単位として質量の代りに力を用いる単位系)で用いられる単位です。一定の質量に作用する標準重力加速度(9.80665m/s^2)による力を単位とし、主に工学に用いられます。
     SI単位系と重力単位系のどちらが正しいかということはなく、どちらがその分野で慣習的に使われているか次第ではないでしょうか。初活力としてどちらが主に使われているのか寡聞にして知りませんが、おそらく昔から慣習的にkgf・mを使っていたものが近年のSI単位系への移行に伴いkg・mで表すようになったのではないかと推測します。
    epitaph

  6. >5
     情報ありがとうございます。kgf・mとkg・m、どちらも問題はないということでいいのでしょうか。

     今頃になって、4で自分が書いた文章に間違いがあったので訂正(;^_^A
     .32ACPは7.65mmブローニングでした(汗)。6.35mmブローニングは.25ACPでし。
    ブラック・タロン

  7. >schumpさん ブラック・タロンさん epitaphさん
    早速のご回答ありがとうございました。
    難しい理論なんかがあって私の頭ではやっぱりついていけませんが、「弾丸の威力」として理解しておき
    ます。(笑)
    「○○の距離持ち上げる」という表示がおもしろいですね。
    またよろしくお願いいたします。

    山芋太郎

  8. kgf・mもkg・mも重力単位系ですよ。
    (N)

  9.  難しい話になりすいません。初活力うんぬんに関しては私も素人だったので少し調べてみました。その結果先に述べたこととは少し違ったようです。お詫びして訂正しますm(_ _)m。

     まず「ft-lbs(foot pound)」という表記はフート・ポンドを使った重力単位系でのエネルギーを意味します。ここでの「lbs」とは「重量ポンド」を意味し(正確には「lbf」または「lbw」)、SI単位系での質量を表す「lb」に重力加速度をかけたものです。
     一方の「kg・m」も重力単位系でのエネルギーですが、ここでの「kg」とは正確には「重量キログラム」を意味します。つまり正しくは「kgf・m」または「kgw・m」であり、便宜的に使われている「kg・m」は用いない方がよいとのことです。まとめると、

    (1)重力単位系
     [力の単位]
       ・重量キログラム(=キログラム重)(記号kgfまたはkgw)
         :質量1kgの物体に9.80665m/s^2の加速度を与える力(つまり重力による力)
          =9.80665N
       ・重量ポンド(記号lbfまたはlbw、他と混同するおそれがない時に限りlbを併認)
         :質量1lbの物体に9.80665m/s^2の加速度を与える力(つまり重力による力)
          =4.44822N
     [仕事(=エネルギー)の単位]
       ・重量キログラムメートル(記号kgf・mまたはkgw・m)
         :1重量キログラムの力で物体を1m動かしたときの仕事
          (つまり質量1kgの物体を1m落下させた時のエネルギー)
          =9.80665J
       ・フートポンド(記号ft-lbs)
         :1重量ポンドの力で物体を1フート動かしたときの仕事
          (つまり質量1lbの物体を1ft落下させた時のエネルギー)
          =1.3558J

    (2)SI単位系(国際単位系)
     [力の単位]
       ・ニュートン(記号N)
         :質量1kgの物体に1m/s^2の加速度を与える力
     [仕事の単位]
       ・ジュール(記号J)
         :質量1kgの物体を1m/s^2の加速度で1m動かしたときの仕事

     重力単位系の方が感覚的にわかりやすいという利点はありますが、国際単位系の立場からは勧められないということです。長文失礼しました。
    epitaph

  10.  ムズカシイ話が続いたので、ゴミレスさせてください。
     ご存知、東条英機は戦後すぐ、GHQが逮捕にきたとき、ピストル自殺をはかりましたが、心臓を狙った弾があたったのに死ねませんでした。割と短期間で回復したために東京裁判の日程には全然問題ありませんでした。寡聞にして、このときの拳銃の種類がなんだったのか、存じませんが、8ミリ南部拳銃だとしたら、60過ぎた老人の胸部に当たっといて即死させることができなかったんだから、やはり威力に問題アリでしょうね。(それにしても戦時内閣の総理大臣・陸軍大将・陸軍大臣・軍需大臣・陸軍参謀総長を兼ねたお方が、「キレイな顔のままで死にたい」という乙女なハートの持ち主で、自分の頭を撃てなかったというのも、なんともタマランものがありますな。)
    りんちゅー

  11. >epitaphさん
    再度にわたり綿密なご解説ありがとうございました。
    (でも、やっぱりむずかしいですねぇ)
    恥の上塗りですが
    初活力  約27kgm  とは
    「発射した力は、重さ27kgのものを1メートル持ち上げるに等しい力である」ということで理解してOK?

    >8.gf・mもkg・mも重力単位系ですよ。
    素人としては弾丸を発射する力の測定になんで重力単位が必要なのか(「○○の距離持ち上げる」という表示)
    が判らなかったのでこう書いたまでです。



    山芋太郎


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