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232 少し前、林譲治さんの小説でゲルリッヒ砲−口径漸減砲が登場しましたが、
史実においては1940年代はおろか、現代ですらついぞどこぞの国が採用した、なんて話は耳にしません(大戦中、ドイツが一部の対戦車火器に採用したなんて噂を聞いた気もするが)。この兵器が不採用に終わった理由は、何処にあると思いますか?また、もし採用例があるのなら、その情報を教えていただきたく思います。
勝井

  1. ゲルリッヒ砲は対戦車砲の初速向上のために開発されたものですが、よく知られているように砲身寿命が非常に短い欠点があります。一方イギリスでは重く硬いコアをサボ(Sabot)で包んで大口径砲から発射する APDS 弾の開発によって初速向上を果たしました。伝説的な 17 ポンド砲の威力はこの ADPS 弾の高初速によって支えられています。戦後は ADPS が発展し有翼徹甲弾や滑腔砲に発展しました。
    一方、ゲルリッヒにサボの使えない小口径砲(50mm 以下)でも初速向上が果たせる利点があり、現にドイツでもゲルリッヒ式 25mm 重対戦車銃などを開発していました。しかし化学エネルギー弾(成形炸薬弾)の急速な発展によって小口径対戦車砲の存在価値はなくなりました。こうしてゲルリッヒは歴史から忘れ去れれていったのです。
    ちなみに高初速砲を使う場合、弾体が鋼鉄だと砲弾自らが衝撃に耐えられず砕けてしまうのでタングステン合金や劣化ウラン合金など対衝撃性のある特殊鋼を使うことが必須条件になります。口径 75mm の 17 ポンド砲が活躍できたのはアメリカからの輸入で豊富なタングステン鋼材が使えたからで、タングステンの枯渇したドイツでは砲の初速を上げても使えるタマがないという事態になり、貫通力向上を大口径化によって果たさざるを得なかったのが化け物のような「アニマルシリーズ」を生む一要因になっています。
    ささき

  2. 砲弾の材料が希少高価格であることも大きな理由と言えますが、やはり装甲貫徹のみを目的とした砲というのは汎用性が無いということではないでしょうか。88mm戦車砲でさえ搭載した弾種の半分は榴弾ですし軟目標に対して効果の無い砲が実戦において苦戦する戦例は多くあります。
    更に些末な話ですがタングステン合金は重くて硬いとは思いますが、多くの場合、耐衝撃性という点では通常の鋼鉄に劣るのではないでしょうか?
    BUN

  3. ゲルリッヒ砲が戦車搭載砲として省みられなかった理由には「榴弾が撃てない」という理由が大きいと思います。しかし対戦車砲としての使用も少数にとどまった理由としては、やはり砲身寿命の短さとタングステン供給の少なさに大きな理由があったと思います。
    鋼鉄の徹甲弾が衝撃でバラバラになるためタングステンにしなければならないという話は、兵器・戦史研究家として著名な Ian Hogg 氏の ”Tank Killing” に出ていました。これは図書館で借りた本なので今は確認できません。明日帰国前に借りている本を返しに行くので、もし余裕があれば確認してきます。
    ささき

  4. 1941年にドイツは2.8cm、4.2cm、7.5cmのゲルリッヒ砲3種類を制式化したはず
    なんだけど、違うの? 出典:昭和55年(古い!)KKワールドフォトプレス
    “WWIIドイツ軍兵器集”
    KI-100

  5. 図書館へ行って調べてきました(^^; Ki-100 さんのおっしゃる通り、1941 年に次の三種のゲルリッヒ対戦車砲が制式化されています。数字は口径(絞り前/絞り後)、初速、貫通力/距離です。

    Panzerbuchse41(PzB41) 28mm/21mm 1400m/s 66mm/500m
    4.2cm Pak41 42mm/29mm 1265m/s 87mm/500m
    7.5cm Pak41 75mm/55mm 990m/s 124mm/2000m

    通常砲としては強力な部類に属する 7.5cm Pak40 が初速 792m/s で貫通力 116mm/1000m ですから、ゲルリッヒ砲弾が優れていることがわかります。
    一方、英軍 17 ポンド砲における通常徹甲弾と APDS(Armor Pircing Discarding Sabot) 弾の威力の違いは同じ距離で二倍以上の貫通力を持つという恐るべきものです。

    鋼鉄徹甲弾 AP 884m/s 109mm/915m(1,000yrd)
    タングステン APDS 1204m/s 231mm/915m(1,000yrd)

    915m で 231mm というのは本当かなぁという気もしますが…。砲身を削りながら撃つゲルリッヒに勝る貫通力を軽合金のサボだけで実現できてしまうのですから、APDS やその発展型の普及によりゲルリッヒが省みられなくなったことがわかると思います。

    BUNさんの
    >更に些末な話ですがタングステン合金は重くて硬いとは思いますが、多くの場合、耐衝撃性という点では通常の鋼鉄に劣るのではないでしょうか?
    という疑問ですが、これは弾性・塑性に関して言及されたものと解釈します。確かに強度材など応用分野においては粘り強い弾性を持つ鋼鉄は多くの硬化合金より優れていますが、徹甲弾の弾尖に求められるものはひたすら硬度だけです。鋼鉄は組成や熱処理によって硬度と粘りのバランスを変えられますが、粘りを出そうとすると硬度を失ってしまい、防弾鋼板に当たると潰れてしまいます。潰れないよう硬度を上げると粘りが足らず砕けてしまいます。両者が最大となるバランスを取っても鋼鉄徹甲弾が耐え得る衝撃速度は 750m/s が限界と言われており、これより高い初速を持つ砲の威力を最大限に発揮するには、粘りはなくともひたすら硬いタングステン・カーバイド鋼などが必要になるのです(Ian Hoggs 'Tank Killing' P.12 の記述を意訳)。
    (長文失礼しました)

    ささき

  6. ですからそうした性質を靱性に乏しく耐衝撃性に劣る、と言う、と私は習ったのですが・・・。ニッケルクロムモリブデン鋼よりタングステンカーバイドが、それよりセラミック等が靱性に乏しく耐衝撃性に劣るのです。
    BUN

  7. なるほど、言葉の使い方を間違えていたようですね。失礼しました。
    ささき

  8. ありがとうございます。
    けど、あの、何故にゲルリッヒだと「榴弾がうてない」のでしょうか?

    勝井

  9. ↑75mmの砲弾を55mmまで絞るなんて代物ですから、
    りゅう弾を使用した場合、筒内で爆発してしまうからだと思われますが。
    あるて

  10. 根本的にみなさん、衝撃インピーダンスと強度(=硬度)をごちゃ混ぜに
    していると思うぞ(笑)

    この認識間違うとどんな話しても意味ねっす。

    sorya

  11. 強度云々を同一の材料じゃなく、別種の材料で話しても意味全然通らないざんすよ。例えば皆さん言っ
    ているタングステン合金(WWII時は純Wだな、WA作れるほど冶金は進化してないっす)と鉄の衝撃インピー
    ダンス(衝突圧力や穴あけ速度を決定するパラメータ)の比は1:2。ってことは穴をあけるスピードが
    W弾頭は着速の2/3の穴あけ速度に対して、鉄弾頭は1/2。これは強度は完全無視されるっす。

    衝突部(弾丸先端)と弾丸後端の速度差が大きければ大きい材料ほど、弾丸の変形・破砕をなくすため
    には高強度の材料を使わなければならんと。そら900m/sでぶつけたときに、慣性で後から450m/sで押さ
    れる構造と300m/sで押される構造じゃどっちが強度を必要とするかは一目瞭然でしょ(笑)

    この際密度の話はナシね。これも入れちゃうとごちゃ混ぜになるからさ。
    これから物性の話を進めたほうがクールだと思うよん。


    sorya


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