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あるオンライン小説に、「鋳型を利用した一体鋳造の潜水艇」というのが出てくるのですが、現実にあったものなのでしょうか? 小説では高い耐水圧性能を持っていることになっていますが。 商会担当 |
- 直接回答になっていないので、あれなんですが・・・。
まず、鋳造のメリットはなんでしょうか?
溶接工程を省けるとして、コストダウンにはなるでしょう。また、溶接部が母材部に比較して、強度上脆弱になるとすれば、鋳造の意味が無くもないです。一方、鋳造の場合、鋳型から製品に入り込む不純物をゼロにはできないです。よって、耐圧船殻に使われるような化学成分範囲のうるさい材質を造るには不向きです。化学成分範囲にうるさい理由は、化学成分がその材質の強度に影響を与えるためです。ようするに、不純物が多いと、強度が低下するのです。
一方、溶接部の強度低下は、大気中の不純物(炭素、窒素など)や、溶接方法にもよりますが溶接棒からの不純物の混入によるもの、熱影響部の強度低下などがありますが、実際には、溶接方法の改善(大気からのシーリング、溶接棒の高純度化、溶接部付近の再熱処理など)や、材質の改善で対応するのが一般的だと思います。
あと、中空球形なりの一体鋳造って、鋳造したあと、中の鋳型は、どうやって取り出すんでしょうか?壊すのかしら?実は、これが疑問一番の疑問だったりしてます。
ある
- >1.
中が空洞になっている鋳造品は、鋳造時に内部に砂鋳型をいれることになります。
この砂鋳型は成型後に壊され取り出されます。
源五郎
- 2>
ご教示ありがとうございます。砂鋳型で検索したら、下記URLがヒットしました。
たんなる銑鉄などからの鋳物ですが、工程が良くわかります。
http://www.at-takaoka.co.jp/casting/process.html
銑鉄のような炭素の多いものの鋳造なら、流れ性も良好なので、中空体の鋳造も容易なのでしょうね。
ある
- 潜水艦の構造的な話は分りませんが、鋳造材料の一般的な特長について述べさせてもらいます。
通常の鋼板・鋼材は、溶湯が凝固した後の鍛造・圧延工程で機械的に歪を与えることで、凝固時にできた材料欠陥(ブローホールやヒケスなど)つぶし凝固時の組織を破壊して材料を(化学成分的・組織的に)均質化します。さらに、後工程の熱処理で、素材の組織や強度を調整します。
一方、鋳造品は溶湯を凝固させた後、熱処理だけで鋳造組織を破壊して素材を均質化しなければいけません。
凝固時にできた材料欠陥は、後から超音波などを使って探り出し掘り返して肉盛溶接して除去することも出来ますが、どうしても鋳造品では、鍛造や圧延したものよりも大きな材料欠陥が数多く残ってしまいます。また、熱処理だけで、化学成分の不均一を除去するには限界があります。
こういう材料欠陥や成分の不均一は、材料の強度や信頼性に直接影響し、ほとんどの場合、鋳造品の方が鍛造品よりも強度や信頼性が劣ります。鋳造品は信頼性が劣る分、構造部材を大きくしなければいけません。(車のアルミホイールで、鍛造と鋳造ホイールを注意して見たらよく分ると思います。)
従って、鋳造品を潜水艦のようなものに用いる場合、材料の信頼性を確保するとなると、溶接やリベット構造で多くの部材を組み合わせて造る場合よりもかなり重くなってしまいます。
masaki ogasawara
- もうひとつ問題があるとして、その潜水艇の大きさ(このばあい、耐圧殻かな)が鋳造に使用する炉の大きさによって左右されると言う事です。
簡単に説明しますと、型に流し込む鉄(銑鉄/湯)の量が炉の容量より少ない場合、複数回に分けて流し込まないと型の中を満たす事は出来ませんが、その場合流し込んだ鉄同士の間が一体じゃなくなりますので、構造上問題が出て来る事になります(内部に不均一な部分が出てきます)、これはかなりのネックになります。
あと、鋳造に使用出来る金属にも強度は左右されます。
で、現実にあったものかと言う御質問ですが、私の知る限りにおいては無いです。
しんかい2000や6500なんかに使われている耐圧殻(球体)も、半球を溶接して仕上げていますし。
ooi
- 溶接に関する誤解があると思うのですが。
溶接の主な弱点は「溶接できない素材が有る」「溶接の熱によって部材が変質する」ですが、適切に溶接した部分は逆に元より強くなります。
実際の製品部材の強度テスト片を見せてもらいましたが、殆どが溶接部位以外から破断してます。
熱による変形は設計による補正が可能ですし、変質も必要以上の熱を与えないことで解決できます。
結果、元の部材が強い溶接構造の方が鋳造より圧倒的に強固です。
鋳造の方が強ければ橋、鉄塔、ビル鉄骨、車両などは全て鋳造になって無ければなりませんね。
むーさん
- 6>
>適切に溶接した部分は逆に元より強くなります。
うーん、これは、ちょっと語弊があると思います。
一般的に、溶接により、母材部よりも溶接部の方が、性能的には劣ってきます。
masaki ogasawaraさんの適切な説明を読むと判ると思いますが。
これは、溶接部の溶融→凝固による結晶粒の粗大化、粒界への析出物の
濃化などの影響です(鋳造と同じような問題です)。
実際は、性能低下を避けるために、溶接部の肉盛りを多くしたり、より高合
金の溶接棒を使ったりと、工夫して、溶接部付近を強くしています。
>実際の製品部材の強度テスト片を見せてもらいましたが、殆どが溶接部位
以外から破断してます。
これは、ステンレスの引張試験の場合なんか良くあるんですが、溶接部が
母材よりも耐力が高くなっている場合がありまして、母材が先に降伏して、
薄くなってきて、応力がそこに集中してしまい。結果として、そこで破断
することがあります。耐力が高いのは良いかもしれませんが、靭性が低い
と問題ですし、応力集中が起こるとすれば、それも問題なんです。
#ようするに、溶接部および溶接部付近が、母材部分と異なること自体が
問題だったりする場合があります。
>鋳造の方が強ければ橋、鉄塔、ビル鉄骨、車両などは全て鋳造になって
無ければなりませんね。
材料ってのは、強度だけで見るものではありません。
鋳造の方が決して強いってことはないですが、重量・強度・コスト等を勘案
した結果、勝るのであれば、橋も鉄塔も鋳造になるでしょう。
結果は、勝っていないってことですが(笑)。
ある