1412 |
いつもお世話になりありがとうございます。 本年10月7日にアフガニスタンに向かってトマホークが発射された際の映像が、 よく報道されていますが、同時に信号桁(?)に星条旗がはためいているのが、 戦闘配置の灯火管制中らしい真っ暗ななかでも、はっきりとうつっています: http://www.cnn.com/video/us/2001/10/07/dod.video.dod.med.html 米国軍艦が夜間(戦闘)航海中に、マストの横桁からたれ下げた星条旗には、 どのような意味があるのでしょうか?気になって、仕方がありません。 これが、いわゆる「ショー・ザ・フラッグ」というものなのでしょうか? 少年タイフーン |
- 「ショー・ザ・フラッグ」とは、確かに「旗を見せる」という意味ですが(^.^)、一般には軍艦など軍隊が特定の場所へ展開して、その国の軍事力を誇示することによって、外交的、政治的利益を得る行為のことを指して言います。
なお一般的に、軍艦旗は航海中、戦闘中は夜間でも掲揚しています。特に戦闘中は軍艦旗をマストに掲げる国が多いようです。なお米国の場合、星条旗がそのまま軍艦旗になっています。
米国海軍の規則では、以下のように定められていますので、参考まで。
United States Navy Regulations
1259-4
The national ensign shall be displayed during daylight from the gaff(or from the triatig stat in the case of those ships with mast-mounted booms and stays which would interfer with the ship under way under the following circumustance,unless or as other directed by the senior officer present:
a.Getting underway and comming to anchor.
b.Falling in with other ships.
c.Cruising near land.
d.During battle.
主計少佐
- いかんいかん。引用が間違ってました。(^^; 上の書き込みのカッコ以下は、
(or fom the triatic stay in the case of those ships with mast-mounted booms and stay which would interfere with hoisting,lowering or flying of the ensign)of a ship under way under the following circumsatnces,
以下同じです。失礼しました。
主計少佐
- 主計少佐さま。すばやく、的確なご回答をいただき、誠に有難うございました。
マストに掲げられたあの星条旗は、戦闘旗(Battle Ensign)だったのですね。
あまりの大きさに、CNN用のディスプレイかと、勝手に邪推してしまいました。
戦闘旗は、本来海戦の際に、戦闘に参加していて、まだ降伏などしていない旨を、
彼我に知らしめるために、よく目立つように掲げた旗だと存じておりましたので、
あの状況でトマホークを発射するぐらいでも掲げたとは、思いもしませんでした。
アフガニスタンに空襲を行っているCVBGも、空母を含めたの全ての艦のマストに、
あの、とんでもなく大きな星条旗が、今も、つねに、掲げられているのでしょう。
今の日本でも国際法上、戦闘旗があるのでしょうか。海上保安庁はどうでしょう。
少年タイフーン
- Z旗は警察行動をとる艦船には掲揚してはいけません。
と、いうかZ旗は軍船専用なので…。
sorya
- まず整理しておく必要があるのは、国際法上「戦闘旗」という規定は無いと言うことです。海戦法規上は、戦闘の際は自国の旗を掲げることが義務付けられていますが、それを掲げる位置までは指定されていません。艦尾の旗ざおでも、艦橋のアンテナにくくりつけても良いのですが、昔からの慣習として、最も目立つメインマストに掲げられることが多いのです。たとえば海上自衛隊では、「(防衛出動時に)武力を行使する場合には、自衛艦旗をメインマストに掲揚するものを例とする」と定められている(注1)ことからも分るように、軍艦旗のマストへの掲揚は義務ではないのです。
また、メインマストに軍艦旗が掲揚されているからといって、それが全て「戦闘旗」とならない事にも御留意ください。たとえば、艦尾旗竿が塗装中で使えないので、メインマストに軍艦旗を掲揚することもあります。それを見て、「あのフネは戦闘中だ!」などと判断されませんよう。(^.^)
また、「戦闘旗」という名称についても、これは通称または俗称と理解しています。旧日本海軍に「戦闘時マストに掲揚された軍艦旗を『戦闘旗』と称する」という規定があるのかどうか、私は浅学ゆえに存じませんが、おそらく無いだろうと推定します。また米海軍にしても、先に引用しましたレギュレーションでわかるとおり、「バトル・エンサイン」という用語の規定は定められていません。そのため、「戦闘旗」と言ってもそれに関しての明確な規定は無いことを御理解ください。
次に、「戦闘旗」の本来の目的は「本艦現在戦闘(態勢)中」を示す慣習であり、「降伏などしていない旨を、彼我に知らしめるため」に掲揚するものではありません。そしてトマホーク発射は、「通常航海」状態ではなく、まさに「戦闘」の状態になければ実施できない行為ですから、「戦闘旗」を掲げる状況そのものと言えるでしょう。
最後に、法律上日本には「軍艦旗」は存在しませんが(^.^)、自衛艦旗は国際慣習の軍艦旗と同等の扱いになっていますので、その意味において「戦闘旗」は存在します。ただし、正式にはそれを「戦闘旗」とは呼ばないことは、上に引用した規則のとおりです。
海上保安庁の巡視船は、船尾に日章旗(日の丸)を掲げ、マストには海上保安庁旗を掲げていますが、これは商船が船尾に日章旗、マストに社旗を掲げているのと同じ性質のもので、「本船戦闘中」を意味しません。また、海上保安庁は海上保安庁法によって「軍事組織ではない」と規定されていますので、戦時国際法上は「軍艦」ではなく、「水上警察の船舶」、つまり文民の船舶となります。だから「戦闘行為」自体が無いので、「戦闘旗」も存在しませんが、まあ要するに、心情的には「戦闘旗」は「大漁旗」と同じ訳ですから、「心情的戦闘旗」があるかもしれません(笑)
ちなみにアメリカの沿岸警備隊の艦船は、明確に「戦時国際法上の軍艦である」と規定されています(注2)。我国とは対照的ですね。
注1:海上自衛隊旗章規則第15条の2第1項
注2:米海軍作戦法規便覧「NWP9」2-1-1項(関西大学法学論集第40巻第4号による)
主計少佐
- むしろCNNが星条旗とトマホークの両方映る「オイシイ」位置にカメラを持っていったと解釈すべきなんですね。
ささき
- 詳しいご解説を有難うございました。自分で少し調べてみました。
英国海軍の公式サイトによると、戦闘旗(battle ensigns)は、
帆船時代から続いている習慣で、どんなに船に損傷を受けても、
どんな旗でも掲げられていれば、まだ降伏していないそうです。
ですから、第一次大戦のころでも、海戦にのぞむ英国軍艦では、
ホワイト・エンスンにかぎらず、いろいろな大きな旗をたくさん、
目立つところに掲げたそうです:Admiralty Manual of Seamanship-1964
帆船時代を経験していない帝国海軍や海上自衛隊は、どれくらいの
大きさの軍艦旗を,戦闘旗として、マストに掲げるのか存じませんが、
たぶん、艦尾旗竿に掲揚しているのと同じ軍艦旗を掲げるのでしょう。
アメリカ海軍は、ご承知にように、とんでもなくでっかい星条旗を
掲げるのが、大好きですので、とくに、広報用の写真撮影の際には、
とてつもなく大きな星条旗が戦闘旗として複数掲げられるようです。
たとえば、DDG-67コールは、1988年のペルシャ湾では:
http://www.hazegray.org/features/cole/cole.htm
戦闘旗を掲げてなかったり、小さい星条旗だけを掲げたり、
特大の星条旗を追加で(広報写真用に?)掲げたりしていました。
(CNNにトマホークと一緒に写った星条旗はこのぐらいの大きさ?)
しかし、DDG-67コールが、アデンでひどい目にあってから、
ブルー・マーリンに積み込まれるまでの8日間:
http://www.hazegray.org/features/cole/to_sea.htm
マストに掲げられていた、中くらいの大きさの星条旗は、
これこそ、本来の意味の戦闘旗(バトル・エンスン)でしょう。
少年タイフーン